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パートナー

その後フィアは再び解放され、用意された馬車で帰路に就いた。


父もその日は、

ご苦労だった、これからも最善を尽くせと一言いうだけで

フィアを労い休ませてくれた。


それから6日間、特にこれといった出来事も、魔物の襲撃事件も

またルシオスと鉢合わせするようなこともなく、穏やかに過ぎた。



***



卒業式 当日。


中等部の制服を着るのも今日が最後だ。

そして、生まれ育った家から学園に通うのも今日が、最後。

…卒業式が終わったあとは、ルシオスとの同棲生活の始まりだ。


朝日が眩しい中、父と一緒に馬車で学園に向かう。

学園は教師と生徒とその親とで賑わっている。


親が参列し、

登校した生徒が所定の位置に並ぶと、卒業式は厳かに行われた。

卒業証書を各生徒が受けとると学園長の長い話が始まる。

ほとんど聞き流していたフィアだったが、


「最近、魔物の襲撃事件が多く頻発している。

それは皆も知っていると思うが…」


学園長のある言葉を耳にしてふと顔をあげた。

“襲撃事件”

六日前の出来事が脳裏をよぎり、フィアは息を呑む。


「先日、王立図書館が襲われた。

ついに王都にも魔の手が忍び寄っているのだ。

我が学園の生徒の活躍により最小限の被害にとどまったが

今後も油断はできない。高等部では中等部より

更に実践的な知識と経験を積んでもらうことになるだろう。

生き抜き大切なものを守れるよう精進しなさい」


「最後にひとつ、

高等部では、他の学園や同盟国の学生とも交流する機会がある。

互いに知識や力を競う場もあるだろう。

今年の卒業生は優秀だと聞いている。我が学園に選ばれた者として

学園の名を背負い誇りと自信をもって挑むといい。

皆の活躍を期待している」


高等部は中等部とちがってますますハードな学部になるのだと

強調した学園長が話終わると卒業式は無事に幕を閉じた。


上からの圧力を憂鬱に感じながらも

他国や他の学園の生徒との交流は興味が湧いた。


解散の指示が出され、

校門の周辺で卒業式の参加者たちが群がる。


「フィア~!」


卒業生の集団の中から名前を呼ばれる。

振り返れば、フィアに向かって手を振るリーンの姿があった。


「リーン。」


「学園長の話、長かったよ~、わたし疲れちゃった」


肩で大きくため息をつくリーン。

疲れたとぼやくリーンにフィアは親近感がわいた。


「そうだねっ リーン、おつかれさま。」


フィアはリーンの様子に思わず笑みを浮かべ

労いの言葉をかける。


「ありがとう、フィア!

ほんともう長くて眠くて

しょうがなかったんだから…いつも長いんだよね、まったく!」


「あ、でもね?明日からまた春休みだと思うと

もう嬉しくて疲れも吹っ飛んだよっ」


話が長いと口をこぼしたあと一瞬で笑顔になるリーン。


「…」

羨ましい・・


フィアには眩しく感じた。

リーンの長所はどんな嫌なことも明るい笑顔で吹き飛ばしてしまえるところだ。

リーンが笑うと周囲もつられて笑顔を見せる。

素直にすごいと尊敬できる一面だ。

同時にうらやましくもある。


「リーンが春休みが楽しめそうならよかったよ。」


フィアは無意識に皮肉げにぼやいてしまった。

言ってからしまったと後悔する。

これではまるで自分は楽しめないからと暗に言っているようなもの。


「…んーどうかな?いつもみたいには楽しめないかも。」


春休みそのものはとても嬉しいのと言いつつ

リーンは困った笑みを浮かべた。


「リーン…?」


リーンにしては珍しい反応だ。


てっきりフィアに楽しめない理由を問いつめてくるかと思いきや、

困っているのだと悩ましげに眉を寄せて

ちょっぴり頬を赤らめて嬉しそうにしている様子を見せる。


それからリーンはとある男子生徒に視線を向けた。


「高等部だと、二人一組になって授業を受けるって

フィアも聞いてるよね?」


「うん」


「あの人が、…わたしのパートナーになるみたいなの」


リーンの示した生徒は、

フィアも顔見知り程度に知っている人物だった。

名を、シトラス・レイル。

爽やかなストレートの金髪が目立つ同級生だ。

外見通り人柄も明るく爽やかで気品もある美青年。

非の打ち所がないといえばないのだが…。


ちょっと、、いや、かなり…、…ね?


フィアにとってルシオスとは違う意味で関わりたくない人物だった。


現に今シトラスは、ルシオスと二人で何やら会話をしているようだ。

普段から全く人を寄せ付けないルシオスが、

不機嫌そうにしてはいるが追い払う様子を見せないでいる。


シトラスは常に笑顔を絶やさない。

そういう意味でリーン同様に明るく

フィアにとっても羨ましい存在ではある。


けれど、リーンと相性が良いとは

お世辞にもフィアは言えなかった。


フィアとリーンが二人してその光景を見ていると、

ふとシトラスが視線をこちらに向けた。


リーンとシトラスの目がばっちり合う。

と同時にフィアとルシオスの目がばっちり合った。


見事に視線が合わさって、リーンもフィアも硬直する。


「やぁ、リーン。ちょうどいま君の話をしていたところなんだよ」


シトラスが人混みを掻き分けてリーンのもとへ近づいてきた。

屈託のない笑みを浮かべてシトラスが話しかけてくる。


「そ、そうなんだ。」


リーンはいつになくぎこちない返事を返す。

緊張しているようだ。

フィアは黙って二人を見守る。

シトラスの後ろにはルシオスの姿があったが

ルシオスもまた何も言わない。


「あぁ、大丈夫大丈夫。

別に変なこと言ってないから安心して?

とっても可愛くてそれはそれは素敵な女の子が

僕のバートナーになったんだって言っただけだからね」


言い切ると同時にシトラスはリーンにウィンクをして見せた。


「…!」

とっても可愛くてそれはそれは素敵な女の子。


甘すぎて疑いたくなるような台詞をシトラスは簡単に言ってのける。

リーンはかぁっと頬を赤らめた。


もし自分が言われていたら

と思うと悪寒が…いや反応に困る。困ってしまう。


「そ、そんなことないからっ!」


顔を赤くしたままリーンが強く言い返した。


「そんなに否定しなくてもいいじゃないか。

リーン、君は可愛いよ?」


シトラスの言う通り、リーンは女の子からしても普通に可愛い。

というか顔立ちが整っている。明るい性格もあってかモテる。


「お世辞はもういいから…!」


リーンは更に顔を真っ赤にして首を横にふった。


可愛いや綺麗だというような台詞は貴族階級では社交辞令だ。

つまり、誰から言われてもそれはお世辞にすぎない言葉。


皆が本心で言ってくれる言葉ではない。

リーンもそれはわかっているはずだとフィアは思う。

それでもリーンが動揺するのは

相手がシトラスだからではないかとフィアはなんとなく悟った。


フィアからすればシトラスの言葉は

本気で本心から言っているようにも聞こえるし

薄っぺらい嘘にも聞こえる。


シトラスは周囲から…

とくに女子生徒から女たらしだと噂されていた。


整った顔立ちで爽やかな笑顔と甘い美声で

女の子が一度は言われてみたい台詞が紡がれる。

それはそれは女子生徒にとって目にも耳にも毒な男である。


リーンは言われた言葉をまっすぐに受け止めてくれる正直で正義感の強い女の子。

リーンはシトラスの上段か本気かわからない言葉一つ一つを

どう受け止めればいいのかと本気で困っているのだろう。


「お世辞じゃないんだけどなぁ。本当に可愛いのに」


シトラスが余裕のある笑みを浮かべて呟いた。

金色の瞳がリーンを捕らえて離さない。


「も、もうその話はおしまい!

わたしはフィアと話していたのっ」


可愛いと連呼されてリーンはもう聞きたくないとばかりに

フィアの後ろに隠れてしまう。


「おや?君たちは僕たちを見ていた・・

と思ったけれど気のせいだったかい?」


シトラスが意地悪く問いかける。


「・・リーンにあなたがリーンのパートナーだって

教えてもらったの」


フィアはリーンを庇うように静かに告げた。

質問の答えにはなっていないが、気のせいではないと伝わっただろう。


「へぇ。僕がどう紹介されたか気になるけど・・・

君があのフィア・ノスタルジーア嬢だね。噂には聞いているよ。」


シトラスが一瞬だけ目を細めて思案顔になるが笑顔に塗り替えて、

フィアに視線を向けた。


噂・・。

注目されるのは苦手なのに・・。


フィアは少し沈んだ心持ちになる。


「改めて名乗らせて頂こう。フィア嬢、

僕はシトラス・レイル。春からリーンのパートナーに選ばれた者だよ。

どうぞお見知りおきを」


シトラスが優雅に一礼して名乗った。

後方でルシオスが不機嫌そうに見守っている。


「よろしく。--ええっと、どう呼べばいい・・?」


通常であればセカンドネームで呼ぶのが筋ではあるが、

すでにシトラスはなれなれしくフィアを”フィア嬢”などと令嬢扱いするくせして

ちゃっかりファーストネームで呼んでいる。

最初から相手の許可なしに名前で呼ぶのも気が引けるし、

ーーいや、ルシオスの前でなんとなく

シトラスをファーストネームで呼ぶのはちょっと・・。


「シトラスと。中等部最上位の麗しきフィア嬢にそう呼んでいただけるのなら

僕も光栄の極みというもの。・・ね?」


フィアにシトラスの意地悪いウィンクが飛ぶ。

これだ。そう、これが嫌なのだ。


フィアがルシオスに対して感じる苦手意識とは全く異なる種類のモノ。


シトラスの甘い言動。

そのわざとらしさがフィアに苦手意識を抱かせた。


・・どうしよう。ルシオスみたいに呼び捨ては・・したくない。

まともに話すのも初めての相手だし・・


ほんのすこし視線を彷徨わせたフィアは思い切って口を開く。


「・・シトラスくん。そう、呼ぶことにするね」


ピクッ


シトラスとルシオスが同時に体を微かに反応させる。

シトラスの瞳に一瞬、暗い影が宿ったように見え、

ルシオスはわずかに目を細めた・・フィアにはそんな風に見えた。


・・ルシオス、

なんだか機嫌が悪くなってる・・?


ルシオスの纏うオーラがかすかに冷たくなったような気さえする。


シトラスがフィアに対し話しかけ始めたときから

何故だかルシオスは機嫌が悪そうだった。



いや、きっと気のせいだよね・・フィアは思い直す。

ルシオスはそんなことで機嫌を悪くするような人じゃない。


「ありがとう、フィア嬢。呼び捨てでも僕は構わないけど」


「・・・」

再びルシオスが目をすっと細めた。視線の先はシトラスただ一人。

シトラスに対し殺気をにじませた強い眼差しを向けていた。

これは、もうフィアの気のせいじゃない。

明らかにルシオスの機嫌が悪い。


「あ、あの。できればフィア嬢というのもやめてほしい」


「ああ、そうだね。

これじゃあ他人行儀に聞こえて悪かったね。

”フィアちゃん” と親近感を持たせて呼ばせてもらうよ」


たやすく了承を得たと思えばさらに馴れ馴れしく呼ぶと言い出すシトラス。

どうしよう・・悪化しちゃった。


「---」

フィアは何も言えなかった。

ノスタルジーアとセカンドネームで呼んでもらえれば事足りたのに・・。

そうは言えず、苦笑いを返すしかできなかった。


リーンもフィアの後ろに隠れたまま

そのやりとりを聞いていてポカンとしている。


「リーンとフィアちゃんはいつも一緒にいるのを見ていたからね。

楽しそうに見えたから僕も仲間に入れてほしいなぁってずっと思っていたんだよ。

ルシオス、君もそうだろう?」


意味深にじっとフィアとリーンを見つめて呟いたシトラスは

同意を求めるためにルシオスを見上げた。


シトラスはルシオスよりちょっぴり背が低い。

リーンやフィアより十分に身長は高いが。


え・・、ルシオスが?

一緒にいるのを見ていたのか、

それとも仲間に入れてほしいとでも思ったのか、

どちらもフィアの知っているルシオスでは考えられない意見だ。


「そうはいってない」


ルシオスがぴしゃりと苛立った声音で否定する。


・・ん?、()()()()()()()()??


どういうこと?

そうはってことは・・もっと別の言い方で、・・え?でも・・

ルシオスに限ってそんな・・ーーー


「つれないなぁ、ルシオスは。

君もすんなり誰がパートナーなのか今日からどうするとか

色々教えてくれたじゃないか」


どういうことかとフィアがひっかかりを覚えたまま混乱していると

シトラスが口角を上げてルシオスをからかうような口調で言い返す。


え、ルシオスがしゃべった?パートナーはともかく・・うん、それはいいの。

パ、パートナーは。で、でも、

きょ、今日から、どうするって・・そこまで?

え、だって、どうするって・・

色々って他にも・・??

フィアの心の内側はちょっとした嵐に巻き込まれていた。


「お前が聞いたから答えたまでだ。

・・そのうち分かることだからな」


ルシオスはフィアからもシトラスからも

ふいっと視線をそらして答えた。



それから各生徒のもとに親が合流し、流れ解散となった。


「フィアちゃんっ、リーンともども僕たちをよろしくね!」


最後にシトラスが勝手に叫んで中等部最後の学園生活は一応・・幕を閉じた。


新キャラ登場!

苦手な人もいればお好きな人もいるかと思い・・(笑)


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