表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/17

動揺


「お父様、そのお話に至った経緯をお聞かせ願えないでしょうか?」


父に言われたから、はいそうですかと

すべて割り切って納得は当然できない。


聞き出せることはすべて聞かないことには何も始まらない。

どんな心構えでいればいいのか、ただただ不安に思っていたのでは

心が持たない。


割り切るための落としどころと少しでも不安をぬぐうためにと、

いきなりの話ですでに鼓動がうるさいフィアは

父の言葉に一縷の望みをかけて縋った。


そうだな・・話さなければ理不尽だなと

父がうんうんと勝手に納得して語りだす。


「まず、高等学部では基本的に相性の良いパートナーを組んで

ツーマンセルで日々の授業に参加してもらう運用になっている。

生徒は学生寮に住まわせ、生徒間の交流と協調性を育て

切磋琢磨させるのが狙いだが、

お前やルシオス君・・ひいては他の上位成績者や

位の高い貴族出身の生徒を

守るほどの守備力は備わっていないらしい。

もし何かあった場合に責任が取れないという意味でな。

そこで、貴族は貴族間で合意を得て、

パートナーを組ませて二人暮らしさせるという事案が生まれた。

生徒の親同士と学園と協議の結果、

お前にはルシオス君と組ませることになった」



「・・・」

その協議内容を詳しく事細かに教えてほしいです・・お父様。


父の説明をもってしてもやはり不安がぬぐえず、

どう諦めをつけていいかもわからない。


けれどわかったのは、

二人暮らしを強いられるのは

フィアやルシオスだけではないということ。


でも、なぜフィアのパートナーに限って、

悪魔と呼ばれるようなルシオスが選ばれたのか。

聞いて納得できるものだとうれしいけれど・・


「なぜ、ルシオスが選ばれたのでしょうか?」


「特殊属性を持つ者同士であるという理由が大きい。

特殊属性をもつ生徒は学年内にお前たちしかいない。

特殊属性は五大属性と相性が良い上にお前はトップの実力を誇る。

実力のバランスをとるために、

五大属性のいずれかをもつ生徒と組む案も出たが、

他の貴族が不公平だと煩くてな」


火属性の誰かと組めば…同程度の成績の他の火属性の生徒や

他の五大属性のいずれかをもつ生徒の親から

不平等の異議を申し立てられたのだと父は言う。


それに、と立て続けに父が口を開く。


「近年、稀な能力や属性を持つ者の行方不明者が続出している。

当然、お前たちが何者かに襲われる危険性もある。

魔物の襲撃事件も増えてきている。

戦力は一点に集中させて対処すべきだという案が採用されたのだ。」


最も狙われやすい二人を固めておくことで

実力もある二人ならある程度対処できるはずだし守備もしやすいと

そう言いたいのだろう。


行方不明者が続出している件を出されては

異議できる要素がない。


それに、魔物の襲撃に関しても、

公にされている情報では高位の魔術師を狙った事件や

無差別に襲撃されるのとで二分されていて事件場所もバラバラで

共通点が見当たらないらしい。

魔物とは、魔力を宿した人外生物で悪魔の手下にされることも多い。


それらを話に出されてはまだ親の保護下のもとにいる者として

反論の余地はなかった。

納得…するしかない。


「わかり、ました…。それならば仕方ありません」


ルシオスの普段の態度が悪魔的だとか

という次元の話ではないのだ。

いくらそれがフィアにとって

どんな大きな事件より恐ろしいものだとしても。


卒業式まであと一週間。

考えることやしなければならないことは山積みだ。

私物の整理や荷造り、いつもしている鍛練に、

中等部に出された春課題もある。

それに加えて、

これからルシオスにどう接すればいいか対策をたてないと…。


フィアは執務室から退室し、私室に向かいながら

頭を悩ませていた。



***


翌日、休日の日課である魔力制御や属性変換の鍛練を

早朝に終えて午前中いっぱいは私室で私物の整理をした。


昼食後、春課題の資料を借りに王立図書館へと赴く。


時刻は正午を過ぎた頃合いだ。


貴族住宅街にある自宅から王立図書館まで

馬車で10分といったところか。

王都のちょうど中央にある場所に位置している。


図書館の目の前で馬車に下ろしてもらい、

帰りは一人で大丈夫だと使用人に言付ける。


ガタンガタンと馬車が動き出して去っていくのを見送ってから

図書館に視線を向けた。


いつみても、やっぱり大きい…

それに豪華…


フィアは視界いっぱいを埋め尽くすほど大きい建物に

いつも密かに心を踊らせていた。


建物の装飾は王城の次に豪華絢爛だと言っても過言ではない。

特に目を引くのは、一見ただの模様に見える魔方陣が

いくつも無数に刻まれている柱だった。


魔方陣の種類を知り尽くす物知りが、注意深く見なければ

分からないような古い魔術用語で術式が刻まれているのだ。


意識すれば近づけば近づくほど感じる微量な魔力が

建物に流れているのもわかる。

用途は入館者の監視やもし建物を外から攻撃した場合に

結界を張る防御の類いだろう。


王立図書館には他の図書館には

存在しない貴重な書物が多く置かれている。

分野もメジャーなものからマイナーなものまで取り揃えていて

各分野の書物のレベルも高い。


春課題の内容は、自身の属性論文だ。

属性の特徴や利点欠点、実践ではどうするか等の持論を書き上げて

高等学部の入学初日に提出するというものである。


光属性の基礎的知識と親族から語り継がれた神話によって

ある程度知ってはいるが、

特に公にされていない神話の内容は書けない。


課題のためにも自分自身のためにも

より多くの知識を得るのが今回の目的だった。


フィアは図書館の中へと足を踏み入れて、

お目当ての魔術分野の中でも

属性関連の書物が置かれた本棚を探し始めた。


本棚の横に魔術分野の中でも

細かく分類された分類名が記載されたプレートが

上部に貼り付けられている。


フィアは上を見上げながらプレートの文字を読みつつ

入り口に近いところから順にぎっしり本が詰められた本棚を巡っていく。


ーーあった!


特殊属性と描かれたプレートをフィアはほどなくして見つけた。

その本棚の側まで歩みより、棚と棚の間に入ろうと足を踏み入れる。


ペラッ

紙をめくる音がこだまする。


だれか・・いるーー?


棚を横切って一番最初に視界に映ったのは、


ーーー漆黒の髪で背の高い青年ーーー


え、黒髪?まさかーーーー


そのまさかだった。


「っ・・!?」


ル、---ルシオス!?


立ち姿を見とめた瞬間、思考が停止する。


特殊属性の本が並ぶ本棚の間に立って

一冊の本のページをめくっている青年は、フィアが最も恐れる幼馴染だった。

思わず息を詰めてフィアは立ち竦んでしまう。


「・・・!!」


傍で立ちすくんだ人の気配を怪訝に思ったのか、

すっと本から目を離してルシオスはフィアに振り返る。

彼もまた、フィアの姿を見とめて目を瞠り動きを止めた。


「---」

「---」


目が合ってお互いに硬直した状態が数秒続く。


どうして!

何故!?


今日この時間に限って・・!

こんなところで出くわすなんて!


戸惑いを隠せなかった。

会いたくなかった。

合わす顔がなかった。

どう接していいかまだ対策すら立ててない・・


どうしてこのタイミングで鉢合わせてしまうのだろう。

昨日、父からルシオスと同棲の話を聞いたばかりだというのに。


どうしよう・・


どうしよう、どうすればいいだろう?

最近ずっとフィアは対処できないことばかり起きて振り回されている気がする。


ルシオスも親から話は聞いているはずだ。

フィアとの同棲生活が六日後に迫っていることを。


だから余計にどうしたらいいのか、フィアは悩み始める。


「・・・」

「・・・」


場が凍り付いたかのように気まずい沈黙が流れる。

困っているのはフィアだけでなく、ルシオスもまた対処に困っているようだった。

ルシオスにしては珍しい反応を見せる。

いつも堂々としていて落ち着きを払っていて黙って立つ姿は大人びて見えるのに

ルシオスの漆黒の瞳の奥が、かすかに揺れていた。


ど、どどど・・どうしよう。

なんて声をかければいいんだろう・・

会ってしまったからには、なにかーー何か話さなきゃ・・


ま、まずは挨拶・・?

おはよう・・?いや、もう遅いよね。

だったら、こんにちはーー?


動揺を押し隠してフィアは口を開いた。


「ル・・・」


彼の名を言いかけたその時、


ゴォオオオオオオ


地響きが鳴り響いた。


「!?」

地響き・・?


続けざまに起こった想定外のことに無意識に身体に力を入れてしまう。

地面から何かが近づいてくるような・・いや、

さらに突き上げてくるような揺れが図書館を襲った。


グラッ!!


大きく横に揺れて慌ててすぐ傍の棚に捕まる。

立っているのがやっとだ。


大きな揺れはその一度だけで

すぐに収まった。


不安定だった床に安定感を取り戻し、

棚につかまらなくても立てるようになる。


よかった、おさまった・・・--


フィアがほっと息をついた瞬間、


ガサッーーー


棚の上段に並べられていた分厚い本がフィアの頭上に影を落とした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ