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疑問符

素直に、光属性の魔術で捕まえた方が簡単だっと言えば

彼は問い詰めるのをやめてくれるだろうか?


自問して、否と即答する自分がいた。

彼が、この漆黒の悪魔が一度問い詰め始めた疑問を答えを聞くまでに撤回するはずがない。

疑問の答えがさらに疑念を抱かせて彼がふたたび問いかけてくるに違いない。

何故、簡単だと知っていてなお、変換したのかとまた最初の問いかけに逆戻りだ。

さらには何故押し黙ったのかさえ重ねて問い詰めてくるに違いない。

そうしたらフィアは自身の首を自分でさらに絞めることになってしまう。


・・言えない。答えたら、悪化する。

嘘はつけない・・つくほどのリスクは今、背負えない。

真実を言うしかないのかな・・でも

そうしたらばれてしまう・・だからやっぱり、ばれるわけにはいかない。


「みなさん、期末試験ご苦労様でした。

それでは試験結果の順位表を開示致します。」


リーンとルシオスの言い合いの最中、

教師の一人の声が会場に響き渡った。


教師の魔術によって一枚の紙が見学席にいた生徒達に配られていく。


生徒全員が順位表を見て硬直した。


「!?」


フィアも順位と自分の名を目にして目を見開く。


・・ルシオスと同点で、一位!?


一位:フィア・ノスタルジーア、ルシオス・ノワール 95点。


紙に記載されたその文字を見て、目を疑わざるを得ない。

どう評価されたのだろうか・・と眉を寄せて考える。


光から雷へ魔力属性を変換して仕留めたフィアと

闇を巧みに操り自らの特性を生かして仕留めたルシオス。


一見、わざわざ光から雷へ属性変換するという手間をかけている工程が

ルシオスと比較して無駄だという考えも

ルシオス同様に教師だって思い至るはずなのに。

一方、闇属性の生徒はルシオス以外はもちろんのこと、教師の中にもいない。

もしかしたらルシオスの技量を推し測れなかったのか・・?


正面から殺気にも似た冷気を感じて順位表から目を離すと、

ルシオスがフィアを苛立ちを隠さずに睨み付けていた。


「っ・・・」


なんで・・、怒ってる?


イライラした様子のルシオスに

怯えを隠し切れない眼差しで見上げるしかなかった。


「フィアもノワール様も、一位!?すごい!

フィアちゃん、おめでとう!ノワール様もおめでとうございます」


「ありがとう・・」


「・・・」

「・・・」



「次は勝つ。覚えていろ」


リーンの祝辞をスルーし、

明らかにフィアに対して敵視した視線を投げかけるルシオス。


「・・っ」

フィアは無意識に身体をビクリと揺らしつつ、息を詰めて頷いた。


ルシオスは容赦がない。

いつもなにかと比較してライバル視してくる。

一体、いつからだろう・・もう、幼いころの記憶は曖昧で朧げだ。

初めからだったような気もするし、あるときがきっかけだったのかもしれない。


「評価の詳細は後日に配布しますので

それまでは自身の何が加算されたかを皆さんで振り返ってください。

それでは今回の試験を含め、総合得点順位表を配布します。」


続いて総合得点順位表が配布された。

中等部最後の一年で受けてきた数々の試験の結果が

点数化されて順位づけされている。


「!!」

っ・・どうしよう・・どうしてーーーー


「すごいっフィアが一位だよ!」


リーンの明るい声がその場に響き渡った。

生徒全員が一斉に振り返る。当然、注目の的はフィアだ。

紙に目を通していて誰もフィアを見ていなかったはずなのに。


一気に注目を浴びることになってしまったフィアは

顔を蒼褪めることしかできない。


リーンの言う通り、フィアが、

・・いや、フィアだけが一位の座を占有していた。


一位:フィア・ノスタルジーア 964点

二位:ルシオス・ノワール   929点


と、順位表上部には確かに間違いなく記載してある。

1000点満点で付けられていた。一位と二位に35点の開きが見受けられた。

二位と三位以降にもかなりの点数差はあったが詳細は省く。


フィアにはどうしても一位を素直に喜ぶことはできなかった。

リーンにどれだけすごいと言われてもおめでとうと祝ってもらえても

それを笑って享受することを今はできないでいた。


ど、どうしよう・・


顔を上げらない。

目の前に、恐ろしい悪魔と称される彼がいるのを

フィアは忘れてはいなかった。


「・・・」

「・・・」


フィアとルシオスの間に気まずい沈黙が流れる。


次は勝つと言ったばかりのルシオスに

総合得点の順位表を今この場で渡すなんて、

教師はどれだけフィアに恐怖を与えたら気が済むのか。


ドクンドクン・・と自分の鼓動がやけに早くなるのを

嫌でも感じてしまう。


どうしよ・・怖い・・

何か言わなきゃ・・でも、なにをいえばいい・・?

どうすれば、怒らせないで済む・・?


「・・・」


顔を上げられず、紙ばかり見つめるフィア。

紙から目を離し、フィアに再び鋭い視線を投げるルシオス。


「・・・チッ」


ルシオスが舌打ちをした。


「っ・・!」

フィアは小刻みに身体を震わせ、縮こまる。


何も言えない・・ううん、言わない方がいい。

勝者が敗者にかける言葉など、敗者にはむなしいだけだ。

ましてや敗者の一方的なライバル視で

生まれた勝敗に至っては言わぬが花というもの。


「この学年は非常に優秀ですね。

今回、脱落者は一人もいませんでした。」


教師が生徒に紙が行き渡ったのを見届けてから語りだす。


「みなさん、進級おめでとうございます。

春からみなさんは高等学部一年生です。

より高みを目指して頑張ってください。

これから終業式を行います」


終業式を執り行うので所定の位置に戻ってくださいと

各教師たちが担当生徒に声をかけ始めた。


「・・・」

ルシオスはくるりとフィアに背を向けて何も言わず去っていった。


俺に近づくなと言わんばかりの怒気と

凄まじい闇の気配をその身に纏いながら。


「フィア、私たちも戻ろう?」


「う、うん」

去っていくルシオスを思わず見送っていたフィアにリーンが声をかけてきた。

慌てて頷き、指示された場所へと歩き出した。



その後、終業式が執り行われ、

フィアの中等部時代の学園生活は幕を閉じた。

心のうちに大きな不安と秘密を抱えたまま。




***




終業式を終えて王都から離れた貴族住宅街へ赴き、フィアは帰路についた。


「お父様、これが順位表です。」


「うむ。ご苦労」


「・・」


館の執務室にいた父ジルコンに順位表を手渡して

フィアは黙ったまま父の次の言葉を待った。


父と話すのはいつも緊張する。

学友やルシオスと接する時とは違う緊張感だ。

何か、少しでも自分の言動にミスはないか・・失敗ばかりが怖くてたまらない。



「・・ノワール家の、

ルシオスくんは、どうだい?」


父が順位表を眺めながらフィアに問う。


「・・どう、とは?」


父が何を聞きたいのか真意を測りかねてフィアが慎重に問い返す。


「学期末試験は同点で、

総合順位ではフィアに劣っているという情報だけでは

彼が強いのか実践向きなのかわからないからね」


王都魔術学園エデールは数ある他の魔術学園よりも実践派の授業をするから

これほどの好成績なら強いのだろうが・・と父がぼそりとつぶやいた。


「・・強い、です。ルシオス・・彼は、

彼の持つ力を生かす術をすでに身に着けているようなので」


それはもう怖いくらいに。すぐに逃げたくなるほどに。

みんなに漆黒の悪魔だと呼ばれるくらいに彼は怖いし、強い。


おそらく、戦うことになれば勝つのは間違いなくルシオスだろうとフィアは思う。

彼に甘さはない。

彼からは誰にも心を開くつもりも頼るつもりもないという姿勢がうかがえる。


同学年でも圧倒的な実力を誇る彼を相手にできる生徒はいないはずだ。

束になって闘ったとしても、彼の持つ闇にすべて呑まれるのがオチである。




「そうか・・。お前はルシオス君を認めているのだな。

ルシオス君もお前に負けたとあればさぞ悔しがったであろう?」


「・・次は勝つと宣言されました」


「ふっ、そうか。

ーーーお前の弱みはまだ知られてはいないね?」


弱み・・。

父は、光属性を持つ者が嘘をつけば寿命を縮めることになることも

力を使いすぎればどうなるかという恐ろしさを嫌というほど知っている。


父が真剣な瞳でフィアを射抜く。


「はい。」


フィアは確信をもって頷いた。


「これからも、お前は何があっても知られてはいけないよ。

いくら幼馴染といえど、お前には知られてはいけない理由をよくわかっているはずだ。

守り通せるな?」


知られるな、守り通せ というような一族の秘密の会話は

親子間ですでに日課となっている。

けれど今日の父はいつも以上にフィアの覚悟を知ろうと問いかけてきているようだった。


フィアには親族以外の誰にも心を許せない、打ち明けることのできない理由があった。

それは理屈だけではなく、本当の意味で知られることのリスクがどれだけのものかを

心に刻んだはずの過去を思い出せと父が言外に告げている。


今日に限って父が何故聞くんだろう・・嫌な予感がする。


「はい。守り通してみせます。

ノスタルジーア家に生まれた者として」


フィアは迷うことなく頷いた。


「そう言ってくれると思っていた。

ーー実はお前に話しておきたいことがある・・」


父が満足げに頷いたかと思うと、

突如、真剣な顔つきになって口を開いた。


「なんでしょう?」










「お前に、ルシオスくんとの二人暮らしの話がきているのだ」










「!?」


耳を疑った。

父の言っていることが理解できなかった。

嫌な予感は的中してしまったのだ。


どういうこと?

二人暮らし?

だれが?ーーーわ、わたしが!?

ル、ルシオスと!?

嘘だといってほしい・・今なら間に合うから!

だって、それってつまりーー・・・



ーーー同棲ーーーー


ということになるんでしょう・・?


同棲、だなんて。そんな。どうすればいいの・・?


そもそも、一体全体どうして、何故?

いつそんな話が?


瞬きを数度繰り返し、顔を真っ青にしたり赤らめたりと

フィアの意思におかまいなく表情筋は正直にフィアの感情を語る。


「今日は、その話をしておきたいんだ。

これはすでに上層部で通った話でね。

相手はルシオスくんだ。気心知れてる幼馴染だし融通はきくだろう?」


父が動揺を隠せないフィアに対し、諭すように語りかける。


そういえば父がルシオスを気にかけるなんて今まで一度もなかった・・

今日初めてきかれたかと思えば・・こんな・・---。


恐怖と絶望に染まった瞬間だった。

もう学園生活には不安と恐怖しかない。


ルシオスと・・ど、どう、--同棲だなんて、

ーーーどうしよう・・こまる。こわい・・もしばれたら。そう思うと。


フィアは想像しただけで震えが止まらなかった。


秘密を、隠し通せる気がまるでしない。

想像するだけで彼に怯える日々を過ごすことは明白だ。

それは憂鬱でしかない。

悩みの種を蒔かれて除草剤が効かない成長期の草木のように不安が根付き、蔓延る。


「二人暮らしは一週間後の卒業式のあとからだ。

もう二人に暮らしてもらう館は決めてある。

今のうちにもっていくものを決めておきなさい」



――ーールシオス。

ルシオスは、彼は、今日、知っていたのだろうか?

フィアとの同棲生活が一週間後に待ち構えていることを。


ふとフィアはそんなことを疑問に思った。


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