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炎使い

修練場の中央の舞台にイーグルと赤髪の青年が向かい合う。

二人以外は中央から離れた場所から見ていた。

フィアもマスターとマスターが率いる上位メンバーや水色の髪の少年たちウィンとウェンと共に試合に立ち会った。


「それでは、始め!」


審判の合図が修練場にこだました。


「紅き火よ!」


赤髪の青年が唱え、手をイーグルに突きだすと

炎を打ち出した。


イーグルは前回同様に無詠唱で風の結界を張り

その身を守る。


だが、青年からは以前炎は放たれ続けている。


「ーー風よ!」

耐えられなくなったのかイーグルが唱え、

結界を強化する。


炎は勢いをまし続ける。

青年は好戦的な笑みを浮かべながら徐々に

イーグルに近づいた。


「風よ、天空に満ちる力の源よ

我に力を、我が魔力を糧に具現せよ!」


イーグルは唱え…更に結界を強化する。

防戦一方だ。


「紅き紅蓮の炎よ、我が前に立ちふさがりし

障壁を焼き尽くせ!」


青年は唱え、強化した炎で更に攻撃し続ける。


遠巻きに見ているフィアたちにも熱風が届くほどだ。



風と炎の攻防は長く続くと皆が思った。

イーグルと青年の魔力の強さが

ものをいう勝負に見えたが…


「紅き燃える紅蓮の炎よ、我が意思に従い、

我が前に示せ」


青年は詠唱の種類を変えた。

炎を打ち出す魔方陣が目に見えて変化する。

描く陣の模様が大きく変わった。

荒かった模様が細かい文字の羅列に成り代わる。


炎は勢いをそのままに結界のある一点を集中して

結界にぶち当たった。


「!?」

突如、風の結界に隙間ができ、

炎が糸状になってするりと結界内に入り込む。


入り込んだ炎は素早くそして器用に

イーグルが避ける暇もなく羽ペンに触れて

イーグルから奪い取った。


燃えることなく、

奪われた羽ペンは炎に掴み上げられて

宙にゆらゆらと揺れて浮いている。


羽についている白い宝石が赤く染まって輝いていた。



「そ、そこまで! 勝者 ロイ!」


審判が判定を下した。


「やったぜ!」

ロイと呼ばれた赤髪の青年が笑みを浮かべ

ガッツポーズする。


「……」


イーグルは自分自身とロイを交互に見やっていた。

驚きの表情を隠せず灰色の瞳が大きく見開かれ揺れている。


力業の攻防戦に思えた勝負には、

いくつも繊細なテクニックを必要とする場面があったのだ。


…イーグルさんもやっぱりーーー。


負けたことへの悔しさよりも驚きが勝っているような、

イーグルはそんな表情をしていた。


フィアも驚きが隠せない。


ロイの魔力の強さはウィンやウェンより数段強く

イーグルと張り合えるほどだ。

しかし、それよりも称賛すべきは、

炎の繊細な操作技術の高さにあった。


魔方陣を構築するための詠唱で陣を変形させ、

炎を広範囲ではなく一点に絞り強化したこと。


さらには炎の性質で風の結界に小さな隙間を作り

打ち出した炎を操り羽根を奪い取ったこと。


イーグルは火傷一つとしてしていないこと。


文字通りの羽ペンが火に触れているのに

燃えていないこと。


ロイは強い。彼は火属性なのだろう。

属性変換こそ試合では見せなかったが、

繊細な操作技術を持った実力者だった。


「オレの魔術はどうでした?」


ロイが炎がつかんでいる羽ペンを

火を恐れることなく手に取ると魔術を解除して炎を消した。


「まさか、燃やさない火を扱うとは。完敗だ」


イーグルはロイに視線を向け、負けを認めた。


「イーグルさんはオレに攻撃できない。

それを知っていたからできたことっすよ」


ロイがイーグルに応える。


そのやりとりを聞いていたフィアには

なんとなくロイの言う意味がわかるような気がした。


イーグルが防戦一方だったのは、

攻撃する余裕がなかったからではない・・攻撃できなかったからだ。


今回はロイ達の腕試し。

イーグルが本気を出せば、ウィンやウェンはおろか、

ロイすら勝負にならない試合になってしまう恐れがある。

それを懸念したハンディキャップなのだろう。


相手が自分に攻撃できないのであれば

やりようはいくらでもある。


「ロイ君、見事だったよ。

イーグルはしてやられたね」


マスターがロイを誉めてイーグルに苦笑する。


「ええ。ハンデがなくても負けていたかもしれません。

初見殺しですよ…彼は」


イーグルは頷き、ぎゅっとひそかに拳を握った。


「そんなことないっすよ、オレはまだまだです」


謙遜するロイに、


「ぼくたちはイーグルさんに手も足も出ませんでした。

さすがはロイ先輩だ」


「ロイセンパイみたいに

もっと修行して強くならないとね~」


とウィンとウェンが尊敬の眼差しを送った。


試合を見ていた観衆も、どよめき

驚きを隠せず、口々にロイを誉めている。


ロイやイーグル達が中央の舞台から降りると

皆がロイ達を囲み、

すごかった、ガキの癖してやるじゃねえかと褒め称え、

ウィンやウェンも囲まれ、

よく頑張ったと認める声が四方八方から上がった。


フィアはロイを囲む集団のなかにもみくちゃにされる。


…どうしよ、抜けだせないーー


集団に埋もれ巻き込まれて流されて、

ついには囲まれたロイの前にフィアは放り出された。


押し出されて、フィアはバランスを崩す。

地面が目の前に迫るーー


「!あっ…」


「おっと、ーー大丈夫か?」


転びかけたフィアを大きな腕が伸びて支えた。

声をかけて助けてくれたのはロイだった。


「あ、ありがとうございます」


礼を言って、フィアは自分の足でしっかりと立つ。

ロイを見上げると彼の紅い瞳と目が合った。


「お前は…。あぁ、さっき、ウェンを助けた奴だよな?

ウェンを助けた魔術、見事だったぜ?」


「!ーーありがとうございます。

貴方の魔術も洗練されていて凄かったです」


「そうか?なんか照れるぜ。ーーありがとな。

…見たところ、

オレと同じかそれより年下に見えるんだが

お前も挑戦に来たのか?」


ロイはフィアの称賛に

照れくさそうに笑みを浮かべて軽く頷き、

フィアを見下ろして不思議そうに尋ねてくる。


「え?あ、いえ…。私は修練場を借りに」


首を横に振ってフィアはおずおずと答えた。


「へぇー。借りることも出来るんだな」


「え、なになに?修練場って借りられるの?」


感心したように呟くロイに、

ウェンが近寄り水色の瞳を輝かせて話に割り込んできた。


「フィア嬢はマスターの知人の娘だから、特別に、よ。

まったくマスターは甘いんだから」


マスターが率いるギルドの上位メンバーの一人である女性が

悪戯な笑みを浮かべてロイやウェンに答える。

黒い帽子とマントに身を包んだ桃色の髪の女性だった。


「確かに知人の娘だが、

フィアの力はこの目で見て認めた魔術師の卵だよ」


いや、もうひよこかなと呟きながらマスターが訂正した。


「でも、何年も前のお話でしょう?」


しなやかにマントを翻して彼女は言い募る。

やけに棘のある言い方だった。


・・私を、疑ってる?

・・特別扱いされていると、妬んでる?


フィアは静かにラペーシュを見上げた。


「時効ではないの?

あたしは改めて試させるべきだと思うわ。

修練場を貸すに足る実力をもっているかどうか」


「ラペーシュ、お前の悪い癖が出ているよ」


「あら、いいじゃない。あたしはみたいのよ」


「さっき、見たじゃないか」


「あれを見たからこそよ」


マスターとラペーシュと呼ばれた女性とで静かな言い争いが始まった。

ラペーシュの桃色の双眼がフィアを射抜く。

瞳の奥を好奇心で怪しく煌めかせて。


・・疑ってるんじゃなく、

ただ私の力を見たがってるだけ・・?


「ぼくもみたいなぁ~キミの実力」


ウェンがラペーシュの言い分に上乗せするように甘えた声音で呟いた。


「ああ、オレもみたいぜ、お前の力」


「・・ウェンを助けた力、ぼくも気になる」


ロイとウィンがウェンに続いてフィアに視線を向けて言い放つ。

腕試しを受けろと言わんばかりの熱い視線だ。


周囲からも興味津々といった視線が向けられて注目の的になっている。


・・目立つのはまずい。

ーーどうしよう。みんな、みたがってる。知りたがっている。

見せてしまえば、満足するかな・・?

でも、魔力の消費は抑えないとまずいから本気は出せない・・

けど、試すだけならーー


「・・マスター、私に腕試しを受けさせてください」


フィアは意を決するとマスターを見上げて依頼した。


「いいのかい?」


「はい」


誰が相手でもいい。

試してみたい・・



「わかった。それではフィアの相手はイーグルにしてもらおう。

イーグル、いいかい?」


「俺でよろしければすぐにでも」


マスターの指名にイーグルが快く頷いた。



「じゃあ、さっそくだが始めようか。

ルールを説明する」


「お願いします」


マスターの言葉にフィアは頷いた。



ルールはフィアが予想した通りのモノだった。


一つ、受け手のイーグルはフィアに攻撃魔術は使わず、

フィアの攻撃をすべて受けきる防御に専念すること。


二つ、両者、魔術反応石付きの羽根を腰につけ、

相手の羽根を奪うか羽根に魔術をぶつけた者が勝ちとすること。


三つ、審判が下した判定に従うこと。



以上の三つが腕試しにおけるルールだった。



説明を聞き終えるとフィアとイーグルは羽根のついたベルトを腰に付ける。


・・属性判別用の宝石を、

魔術の反応石として使うなんて・・


本来は魔力がどの属性を持つかを判別するために使うモノなのに。


フィアは感心しながら宝石を眺めた。


準備を終えるとフィアとイーグルは修練場の中央に進み出て

向かい合う陣形を取る。


審判以外の者は中央から離れたところで二人を見やった。


「それでは準備はいいかい?」


「俺はいつでも」


「はい」


・・イーグルさんは風の使い手。

三人の腕試しを見ている限り、長期戦やめくらましは私には不向き。

魔力の使い過ぎも避けたい・・だったら、アレを試してみよう。

実力者にどこまで通じるかーーー


フィアはイーグルをじっと観察しながら考察した。




「それでは、始め!」



開始の合図がこだまする。



「光よっ!」


ーーいけっ



勝負は、一瞬だった。


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