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風使い

ギルドの建物の北側には屋外の修練場がいくもある。

中でもその中央に一番大きな修練場があって、

どの属性の魔術にも耐性のある高い塀に囲われていた。


フィアはギルドの建物の外へ出てその修練場に向かった。


修練場の扉に手を伸ばして、ドアノブをひねる。

中に入ると、すでに修練場の中央を囲むように人だかりができていた。


「この時期に挑戦者が三人とか・・珍しいじゃねえか」

「そうだよなぁ。しかもまだガキだし」

「マスターはあのルーキーに相手させる気みたいだな」

「どっちが勝つか賭けるか?」

「賭けになんねえよ。あのルーキーは去年マスターから一本とってるんだぜ?」

「まぁ、そうだが。今回は三人もいるんだぞ?ハンデもあるだろうし。

いいじゃねえか賭けようぜ」


がやがやとどっちが勝つかというような賭けばかりする大人たちで溢れている。

フィアは人だかりの隙間から抜け出して、人だかりの先頭に出る。


・・いた!


中央には二人。

ルーキーと呼ばれた灰色の髪の大人びた青年と

水色の髪色を持つ少年が向かい合って立っていた。


ルーキーの後方にはギルドマスターがいてギルドの上位メンバーが後ろに控えている。

マスターは中年の男性で、ワインレッドの髪色と瞳に相変わらず緋色のマントが目立つ。


水色の髪の少年の後方には、少年によく似た水色の髪の男の子と、

対照的に燃えるような緋色の髪をした青年がいた。


「両者 構えよ!」


上位メンバーの一人、軽装の鎧を着た大柄な男が声を上げる。


その声に水色の髪の少年は手にした木剣を構えたが、

灰色の髪の青年は構える様子もなく立ち尽くしたままだった。


両者の腰に巻かれた黒いベルトには一本の白い羽根ペンがチェーンでひっかけられている。

白い羽根には透明な宝石が装飾されていて、太陽の光で煌めいて目立つ。


ーーあれは、属性判別用の宝石・・


透明な宝石は、干渉した魔力の属性によってその色に染まる代物だった。

火は赤に、土は緑に、水は青に、雷は黄色に、風は空の色に、

光に干渉すればしばらくそれは眩い輝きを放ち、闇に触れれば漆黒に染まる。


羽根を奪うか魔術を当てるか、きっとそれで勝敗を決めるのだろう。

腰につけられているあの羽根を取るには、相手の間合いに入らねばならない。


「・・・」


水色の髪の子、魔力はかなり強い方だけど・・

でも、灰色のあの人はそれよりもずっと遥かに強い魔力を感じるーーー・・・


二人の間には圧倒的な力の差があることはフィアの目にもはっきりとわかった。


「それでは、始め!」


開始の合図が響くとともに、

水色の髪の少年が勢いよく灰色の青年に向かって駆け出した。


剣を大きく振りかぶり、青年にめがけて切り込む。

剣には風属性の魔力が付与されていた。

普通の結界ではきっとあっけなく壊されてしまうほどの強い魔力だ。


しかし、灰色の青年は手を前に突き出すと、

音もなく風の結界を張り巡らせて、結界が少年の剣を簡単に大きく弾いた。

木剣が弾かれて地面に投げ出される。


灰色の青年は一歩も動かない。詠唱もない。


無詠唱魔術による結界。


詠唱は魔法陣の構築を強化し確固たるものにする。

無詠唱は詠唱しない分、術の発動は早まるが

それだけ魔力に負荷をかけ、魔法陣の構築は荒くなり力は弱くなる。


結界の発動には向かないはずなのに・・


灰色の青年の魔力がどれだけ強いのかが分かる瞬間だった。



一瞬で勝負がついてしまい、修練場には沈黙が訪れる。


「--両者、そこまで。 勝者 イーグル!」


審判の言葉に、周囲がざわめきだした。


やっぱりかとつぶやく者もいれば、

来年は期待できるんじゃないのかと言う者もちらほら伺える。

実力の差を見せつけたイーグルという灰色の青年に拍手が送られた。



「ちぇっ、ぼくにはまだ早かったかぁ。--いけると思ったのに」


水色の髪の少年が剣を拾い上げてぼそりと呟く。

悔しそうに拾い上げた剣を握る拳にぎゅっと力を入れていた。


剣先に集中させて魔力を付与していたら

あるいは…

と、ぼんやりと考えながら、フィアはイーグルに目を向ける。


「・・・」

イーグルは突き出していた手を静かに下ろし、

無表情のまま少年を見据えていた。


微かにイーグルの下ろした腕が

小刻みに震えているのをフィアは目にする。


・・実力の差は歴然。

だけど、あの人も本気だったのかも・・


「イーグル、--ウィン君はどうだった?」


「・・俺に聞くまでもないでしょう。単調な動きではありましたが

二年、いや三年後には期待できるかと」


「そうか。」


マスターがイーグルに近寄り何やら話しているのが聞こえる。

ウィンというのは今イーグルが相手をした水色の髪の少年のことだろう。


一方、少年たちがいる場所では・・


「ウィン、おつかれさま~、

やっぱ負けちゃったね~どうだった?」


「やっぱとかいうなよ、

ぼくも最初から勝てるとは思ってなかったし。

強かったよ、イーグルさん。

次はウェンだ。策はあるんだろ?」


「ウィンのを見て、いいの思いついちゃったよ♪

この策士ウェンに任せなさいっ!とっておきがあるんだ~」


軽い口調でお互い仲よさそうに話す二人の水色の髪の少年たち。


二人はほとんど同じ顔と姿をしていた。

魔力の強さもほぼ同じ。双子かもしれない。


次にイーグルに挑戦するのは明るい笑顔が特徴的な少年ウェンだった。



「・・・」

緋色の髪の青年は水色の髪の少年達から一歩引いたところで

二人の会話には入らず、じっとイーグルを見ていた。





・・赤髪のあの人は、勝てるかもしれない。


フィアは確信に似た予感を赤髪の青年に感じていた。




イーグルの前に笑顔を絶やさないウェンが近づき、向かい合う。

ウェンはウィンと違って剣を持っていない。


「両者、準備はよろしいか?」


「はい」


「もちろんですっ」


審判の言葉に二人は答える。


「ーー両者 構えよ!」


イーグルは前回と変わらずその場に立ちつくしたままウェンを見据え、

ウェンは笑顔のまま、身構える姿勢を取る。


「それでは、始め!」


審判の合図に、ウェンが両手をイーグルにかざして口を開いた。


「風よ、空に満ちる大いなる力の源よ、我が前に示せ」


ウェンが詠唱して風属性の魔力を高めた。

魔法陣がゆっくりと大きく描かれている。

その間、イーグルは動こうとしない。いや、動けないのか。


「風の刃よ!かの者を切り裂け!」


ウェンが叫んだ。

風の刃が視界いっぱいに大量に現れ、イーグルに向かって打ち出された。


ヒュンヒュンヒュンヒュン・・--ッ


風が刃物のような鋭利な矢となってイーグルに襲い掛かる。

イーグルは再び手をかざして、結界を張った。


大量の風の刃が一度に結界にぶち当たる。

風属性同士の魔術が衝突した。風が砂埃を上げる。


ーーー相打ちーー


イーグルの風の結界が消えた。


「すきありっ」


砂埃から突然、ウェンがイーグルの目の前に現れて

腰のベルトについている羽根に手を伸ばした。


「!」


イーグルは咄嗟に横に飛びのき、ウェンめがけて再び手をかざす。


ドンッ


風が瞬間的に打ち出され、

ウェンが勢いよく吹き飛ばされた。

中央の舞台だけにとどまらず、フィアのいる見学者の方まで飛ばされていく。


「!」

・・まずい、こっちにくる!


フィアの目の前にウェンの背中が迫る。


ーー光よ、守れ!


フィアは咄嗟に心の中で叫んだ。




スシャアァーーッ



フィアの目の前にまばゆい光が放たれた。


光は結界となって飛ばされたウェンを風の衝撃ごと包み込む。


フィアの目の前には、

見事にウェンを包み込んだ丸い球体の結界があった。

ウェンは目をぱちくりさせて包んだ結界を見つめ、結界の中で座り込んでいる。


ウェンは怪我もなく無事のようだ。

フィアの周囲にいた人々は突然の出来事に立ち尽くすか

尻もちをつくだけにとどまった。

被害はない。


・・よかった。


フィアは息をつき、

光の魔力の流れを意識しながら結界を解いた。


光がウェンを地面へと導いてふわりとウェンが地面に降り立つ。


ウェンはまだ自分に何が起きたのかよくわかっていないようだった。

降りたった自分自身の身体をきょろきょろと見渡している。


「・・大丈夫?」


フィアはウェンに駆け寄って問いかけてみる。


「うん、大丈夫みたい。ありがとう!助かったよ」


にこっと笑顔でウェンはフィアに頷いた。


「よかった・・」


フィアがほっと息をついている間に、

中央にいたイーグルやマスターと上位のギルドメンバー、

ウェンの片割れであるウィンや赤髪の青年が

舞台を降りてフィアとウェンの傍にぞろぞろと集まってくる。


「ウェン!大丈夫か??」


「平気平気!この子が助けてくれたよ~」


ウィンの言葉に笑顔で答えるウェン。


「・・ありがとう。ウェンが世話になった」


「い、いえ・・」


ウィンの生真面目な台詞に

フィアは自分は大したことはしていないと首を振る。


「・・すまない、配慮が足りなかった」


ウェンに謝罪するイーグル。


「謝らないでください、イーグルさんっ

あの状況で加減までされたらさすがにへこみますって~」


ウェンは相変わらずの笑顔でイーグルに軽く応対する。



「フィア、ありがとう。

君のおかげで被害は出ずにすんだよ」


ギルドマスターが上位のギルドメンバーを率いてフィアに礼を言いに来る。


「いえ・・そんなことないです

ーーそれよりも、お久しぶりです。マスター」


「ああ。久しいね。今日は鍛錬に?」


「はい。でも、ここにマスターがいらっしゃると聞いたので」


「そうかい。まだみていってくれるかい?」


「はい、もちろんです」


フィアとマスターは二人静かに言葉を交わした。

やりとりは親子・・いや、祖父と孫のようだ。


「巻き込んですまなかった・・」


イーグルもまたフィアに謝罪を申し出る。


イーグルからすれば手加減はある程度したはずだが

咄嗟のことで少し力を入れすぎたのだろう。

飛ばす方角も頭には入れていなかったはずだ。


「いえ、距離があったので大丈夫です」

フィアも恐縮しながら首を振る。


「他の奴らじゃ、大丈夫だなんて言ってくれないぜ、

激怒されて逆ギレされての大パニックだ。よかったなイーグル」


上位メンバーの一人がイーグルの肩をぽんっと軽く叩いて言った。


「そ、そんなことないよなぁ?みんな!」


それを聞いたフィアの傍にいた男が周りを見渡して声を上げる。


「そ、そうだ!ガキが一人二人飛ばされてきたところで

怒ったり驚きやしないさ!な?」


「お、俺たちをなめんなよ?

も、もうちょっと近くで見てたって軽く対応できたさ!」


「そうそう、もし仮にぶち当たっても

怪我なんてするほどやわな奴は周りにはいないぜ!

ぎゃ、逆ギレなんてしねーよっっ」


周囲は強がりを見せて笑い合う。


「イーグルさん、オレには手加減しないでくださいよ」


赤髪の青年が闘志を孕んだ紅い瞳で

イーグルに視線を向ける。


燃えるような明るくて濃い赤。


爛々と輝く瞳は早く勝負がしたいと

せがんでいるようにも見える。


「ああ、もちろんだ」


間をおかずに赤髪の青年の腕試しが始まった。


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