最早学生寮じゃない……
「暖かな春の訪れとともに、私達は私立王位高校の入学式を迎えることとなりました。本日はこのような立派な入学式を行っていただき、大変感謝しています――」
壇上に新入生代表の女生徒があがり、代表の言葉を読み上げている。
暗き中学生活を乗り越え、僕達は高校生になった。
僕は、入学式に出席している。
「なーに、たそがれてんだよ」
僕がつらかった過去を思い出しつつ、新たな門出を迎えた嬉しさをかみしめていると、ベリーショートの金髪、耳には黒い輪っかのピアス、褐色の肌に、引き締まったいい体をした少年が、僕の脇を小突きながら茶々を入れてきた。
――そう、ユウだ。
ユウは中学を卒業して髪を染めた。
僕達が入学した私立『王位高校』の校則はゆるい。
染髪、ピアス、制服のアレンジなんかも許されている。
それは、この学校が成果主義を掲げているからだ。
学業、スポーツ、もしくはその両方で成果を上げてさえいればお咎めを受けることはない。
僕もユウを見習って髪を染めた。
僕の髪は銀色に染まっている。
左耳にはユウとお揃いで買った黒の輪っかピアスが付いている。
一応、言っておくが僕は同性愛者ではない。
2個セットのピアスだったため、割り勘で買った方がお得だからだ。
高校生の生活事情は厳しいのだ。
「何だか感慨深くてね」
僕の言葉を聞いて、ユウが遠い眼をした。
暗き中学時代を思いだしているのだろう。
僕はユウが逝ってしまわないように脇を小突いて現世に意識を呼び戻すとユウは思い出したように僕に話しかけてきた。
「それよりもすげえ設備だったな! やっぱ特Aは扱いが違うな!」
僕達は本来、スポーツ推薦枠だ。
つまりは普通科クラスへの入学。
寮の個室が使えること、学費が無料になること、スポーツに関する設備を優先的に使えるようになることぐらいしか一般生徒との違いはないはずだった。
……まあ、ぐらいというか十分すぎるのだが。
入学式の1週間前に寮入りしたのだが、学生とは思えないほどの待遇だった。
僕達が入る寮は8階建ての鉄筋コンクリート造りだ。
この建物が広大な学校敷地内に複数建っている。
1~5階は普通科クラスの学生寮。
6~7階は特進クラスの学生寮。
そして最上階が僕達、特Aクラスの学生寮となっている。
普通科クラスの学生寮は2人1組の相部屋となっており、家具は2段ベッドと勉強机が2つ用意されているだけ。風呂とトイレは共有となっている。
特進クラスの学生寮は少しグレードがあがり、個室になる。
間取りは1K。
家具は小型のテレビとベッド、勉強机、本棚が備え付けられている。
ユニットバスと簡易なキッチンが部屋ごとに完備されている。
本来は、僕達もこのグレードとなるはずだった。
最後に、特Aクラスの学生寮。
間取りは3LDKだ。
家具は大型の4Kテレビ、4Kモニター付きのPC、空気清浄機、マイナスイオンが出る冷暖房、加湿器、社長椅子付きの高級木製デスク、勉学に必要になるであろう参考書一式が詰まった大きな本棚、マッサジーチェアがあった。
風呂とトイレは分けられており、風呂からは学内を8階から見下ろせるよう設計されたガラス張りの窓が付いている。
トイレは便座が自動で上げ下げされ、自動洗浄される高級品だ。
――最早学生寮ではない。
因みに僕達が入ることになった寮――青空寮に所属する特Aの生徒は僕とユウだけだった。
僕達の天下だ。誰にも僕達を止められない。
「ついに僕達のターンがきたな」
僕はユウにサムズアップする。
辛い下積み時代を乗り越え、過去の偉人達は大成した。
僕達も迫害されてきた中学時代があったからこそ、今がある。
――過去の偉人達に習おう。
「――その時は、優しく力を貸してくれると嬉しいです。新入生代表 『白花華憐』」
僕とユウがそんな会話をしていると新入生代表の言葉が終わった。
壇上から新入生代表の女生徒が降りてくる。そして
――僕と目が合った。
ビリッときた。なんだか動悸が激しい。
ニコリと微笑みながら会釈された瞬間、時が止まったかと思った。
僕は視線を下に下げると下半身にテントが張られていた。
「お、おい聡……」
焦った声でユウが僕の名前を呼ぶ。
わかっているさ。僕だって中学の悲劇を繰り返したくはない。
僕は素早くユウの後ろに隠れ、ササッとポジションメイクする。
何をって? ナニをさ。
僕がメイキングを終えると同時に、中年のおばさんが壇上から生徒へ向けて言葉を放った。
「皆さん、大変お疲れさまでした。これより、クラスごとでホームルームをしていただきます。生徒は自分のクラスへと移動を開始してください」
ガヤガヤと騒ぎながら、皆それぞれのクラスへと移動を開始する。
「じゃあ聡、俺達も行こうぜ」
僕とユウは特Aクラスの教室へと向かった。
――
「……マジかよ」
僕は教室というからには、質素な机と、質素な椅子が所狭しと並べられ、質素な黒板に質素なチョークが立てかけられている、質素な教室を想像していたが全く違った。
社長椅子と高級デスクが一定間隔を保ちながら、規則正しく並び、その上にはノートパソコンが置かれている。
黒板はない、その代わりに大きなモニターが設置されている。
そして床には赤い高級そうな絨毯が敷かれ、歩けど歩けど、靴音は一切ならない。
そして何よりも驚いたのは、僕の時間を止めた美しい少女
――白花華憐が同じクラスだった