高校デビューは準備万端
中学2年の誓いから僕達は死に物狂いで努力した。
まずは肉体改造。ユウは元々趣味筋トレと言い切ってしまうぐらい、貪欲に筋トレをしていたため、この点に関しては今までと変わらずだ。
しかし、僕は違う。僕は剣道の練習に時間を割いてはいたが、筋トレはしていなかった。
練習を頑張れば、勝手に筋肉つくんじゃね? と思っていたからだ。
その考えをユウに一蹴された。
サッカー少年だけに。
ユウ曰く、剣道の練習だけではつく筋肉量に限度があるということだった。
格下相手なら、その筋肉量で十分だが、同格や各上には通用しないらしい。
同格や格上と戦う際には、必ず無理をしなくては勝てない場面が存在する。
その無理をしなくてはいけない場面でどれだけ無理ができるか、それを補うのが筋トレだと言う。深い。
何度も何度も剣道の練習をしていくと、体が勝手に動きを最適化していく。
簡単に言うと、無駄な動きをしなくなるということだ。
それは褒められるべきことなのだろうが、ユウ曰く、それは違う。
体が最適化されるから、練習を楽にこなせてしまう。
楽をした結果が勝負所での敗因につながるというのだ。
僕は半信半疑だったが、ユウに言われるがまま、努力した。
その結果、今まで同格レベルだと思っていた相手を練習試合で圧倒した。
そうなってくると楽しくなる筋トレ。
僕は一日置きに欠かさず筋トレした。
ユウ曰く、筋肉を休ませることも重要だという。
その結果、余計な脂肪は完全に落ち切り、格闘家の様な体つきへと変貌した。
そして、中学最後の大会で、全国大会個人準優勝の成績を残せた。自己ベストだ。
ユウの方はというと、今までその屈強なフィジカルでゴリ押ししてきたようで、巧みな相手からは上手くファウルをとられてしまい、重要な場面で退場してしまうことも多々あったそうだ。
だから僕は教えた。駆け引きって奴を。
相手をうまく死角にして、審判から見えないように反則をする技術。
相手をうまく誘い込み、相手の反則を誘う技術。
流石にチームプレイを教えるのは、畑違い過ぎて無理だったが、1対1の戦いなら、剣道と似た部分があって教えやすかった。
その甲斐あってかはわからないが、ユウはファウルやイエローカードをもらう場面が激減して、チームの勝利に貢献した。ユウの方は全国大会3位。素晴らしい。
そして、僕達が狙っていた私立高校から無事オファーがきた。
『私立王位学園』――文武両道を掲げ、生徒数6000人オーバーのマンモス高校。
学問においては、この国『アカマル』の偏差値トップ大学だけに留まらず、海外の一流大学への進学率も国内ナンバー1。
スポーツの分野においては、野球やサッカーをはじめ、各スポーツでトッププロを多数輩出している名門高校だ。
すごいのは進学先だけじゃない。
設備も超一流。
全寮制の高校で推薦組は個室完備。一般生徒は相部屋。
学問充実の為、学問棟という施設があり、生徒が何時でも自習できる自習室や蔵書が完備されている。
スポーツも、高級ジムかと見まがう程、施設の数々が完備されており、正に至れり尽くせりだ。
唯一のマイナス面は田舎の山奥に囲まれた場所にあって、少々不便といったところぐらいだ。
都内から出て、高校デビューを画策している僕達にとっては都合がいい。
その為、学費は目が飛び出る程高いのだが、僕達は推薦、つまり学校側が「来ていただけませんか?」と頭を下げている状態だ。
勿論、学費は無料。個室へ一直線。
苦しゅうないもっとちこう寄れって感じだ。
「「お疲れー!」」
僕とユウは『パイゼリヤ』という外食レストランで勝利の祝杯を挙げていた。
勿論、オレンジジュースでだ。
「……にしても、学業でも特Aクラス入学可能ですって通知は驚いたな!」
ユウが嬉しそうに僕へと微笑む。
『王位学園』は4つのコースに分類される。
1つ目は、普通科クラス――これは一般入試で普通な成績を修めて入学した者が配属されるクラスで、最も生徒の数が多いクラスだ。因みにスポーツで推薦を受けた者もここに所属する。
2つ目は、特進クラス――これは学問で優秀な成績を修めた者が入れるクラスだ。このクラスは学費が半額になる。
3つ目は特Aクラス――全国の中学校からこの子は神童だ。と言わんばかりの生徒の成績や内申書を中学校側から送り、王位学園が精査し、入学してもらうという特殊なシステムを潜り抜けた者が集まるクラスだ。なんでもこのクラスの卒業生から多数の官僚や偉人を輩出しているらしい。
そして4つ目は落胤クラス――このクラスは入学時点ではいないらしいが、学業についていけない、スポーツ推薦で入ったのに結果を残せないといった、所謂『落ちこぼれ』が集まるクラスだ。ここには入りたくないな。
僕とユウは、特Aクラスに配属しませんか? という打診がきた。
今迄の努力の賜物だな。
僕達が今迄の苦労を思い出して、喜びを分かち合っていると見慣れた顔が『パイゼリヤ』へと入ってきた。
クラスのボス格女子沢村のグループだ。高西の姿も見える。
「へえ、お前等いいご身分だな!」
ガンッと料理が並んでいるテーブルに足を乗っける沢村。
行儀が悪すぎる。
僕達が黙りこくっていると、ボス格女子は続ける。
「私らが、これから高校受験に向けて勉強会ってのにお前らは祝賀会か? 随分楽しそうだな?」
今は時期としては秋。受験シーズンはこれからだ。
僕とユウは推薦で受験は免除されているから関係ないが……。
そんな僕達のことが気に食わないのだろう。
ボス格女子は「とっとと帰れよッ!」という捨て台詞と共に去っていった。
僕達を迫害へと追い込んだ女生徒
――高西千鶴が僕達をきつく睨んでいることが心に引っかかった。