中学2年の誓い
迫害され続けながらも、僕とユウは中学2年生の終わりを迎えようとしていた。
僕達は絶望していなかった。
僕は痛みを気持ちよさに変換し、ユウは何事も全て前向きに捉えることができるからだ。
例えば、昨日の給食の件で考えてみよう。
昨日の給食のメニューは、白米、鮭のムニエル、みそ汁、牛乳、牛乳寒天だった。
まあ、極々一般的で、何の面白みもない献立だろう。
若干の違いと言えば、僕の白米の上には鰹節がのっていたことぐらいだ。
まぁ、正確には鰹節じゃない。鉛筆の削りカスだ。
見た目はそんなに変わらないから普通に逝ける。
クラスのボス格女子である沢村が僕の目の前で、僕の白米の上で鉛筆を削って鰹節ご飯にしてくれた。
唾のおまけつきだ。「お前にはこれで十分だろ?」という罵声のデザートも付けてくれた。
――嬉しかった。
「こんな酷い事よくできるなッ!」って言いながら、全力で白米を口に掻き込んだ。
当然完食した。
ユウの方はというと、牛乳寒天に入っているミカンを全部くりぬかれ、代わりに固形のプロテインが入れられていた。
「おい、筋肉バカ。嬉しいだろ?」というデザート付き。
ユウは「最高だッ! 丁度筋肉が栄養を欲しがっていたところだ!」と言いながら、口に掻き込んでいた。
そんな感じで僕達は自殺することもなく、無事、中学2年生を終えようとしていたわけだが、ある日、ユウがこんなことを言い出した。
「聡、俺、そろそろ彼女欲しいわ……」
僕は耳を疑った。僕達に彼女? 現在進行形で女子達に迫害されている僕達が?
親友の目を覚ます為、僕はユウの肩を揺さぶった。
「おい、ユウ! 目を覚ませ! 今俺達の置かれている状況をよく見つめなおせ! 常人なら既に自殺を図っていてもおかしくないレベルで迫害されている現実を!」
ユウは僕の言葉が聞こえていないようで、どこか遠くを見つめている。
どこを見つめているのか気になったので、視点の先を追うと、壁のシミだった。
――やばい。
僕は生まれて初めて『死の危険』というものを感じた。
僕は今までユウを見ながら、あいつも何だかんだで苛められている現状を楽しんでるのだなーなんて、軽く考えていた。
しかし、違った。
ユウは死にかけていた。
1にブルマ、2にブルマ、3、4が無くて、5にブルマボールだった親友がこんなにも虚ろな目をしている。
今思えば、ユウに流される形だったのかもしれない。
僕はユウの目を真剣に見つめ言った。
「彼女つくろう!」
僕の賛同を得られたことで、ユウの精神はこの世へと再臨した。間一髪だった。
あのまま僕が部屋を出ていったら、きっと大量のプロテインを飲み、自殺を図っていただろう。
僕は自分の考えを、整理するようにしてユウに話した。
「ユウ、中学で彼女を作るのはあきらめよう」
ユウの目が死んでいく。待て、待つんだ、逝くんじゃない。
本題はその先にあるのだから。
「中学は捨て、高校デビューするぞ!」
「高校レビュー?」
「そ……違う! 高校デビューだ!」
高校デビュー
――それは中学まで冴えなかったものが、高校に行って華々しい学園生活を送ること。
僕は知っていた。高校デビューは大抵失敗に終わることを。
よく考えて欲しい、高校デビューを考える奴は大抵、元々にして魅力がないから中学生までモブだったのだろう。
魅力があれば、そもそも華々しい学生生活を送っていたはずなのだ。
魅力がない者が、ちょっと見た目を変えたくらいでデビューできる?……甘い。
僕はそんな甘々な考えで『高校デビュー』を口にしたわけではない。
なぜなら、何を隠そう僕とユウのスペックは高いからだ。
僕は剣道で都の強化選手に選ばれ、全国大会には出場できてはいないものの、それなりの好成績を修めている。
この前の大きな大会でも個人戦で都の3位に入ることができた。中学2年生でだ。
ユウもそうだ。
使えない3年生のせいで、今年の夏は全国への切符を逃してしまったが、今年は僕達が3年になる年だ。
ユウは1年生からずっとレギュラーを張るエースストライカー。
更にすごいのは僕達二人共、かなり賢い。
校内のテストでも常にベスト10に入る成績を誇る。
まあ、友達が少ない為、遊びに割く時間はそんなに必要ないからなのだが……。
それはさておき、そもそも僕達2人がこんな迫害を受けていることがおかしい。
本当ならクラスの中心、いや学校の中心人物となり、彼女の10人や20人はいてもおかしくない人材だ。 そのはずだ。
つまりだ、僕達の過去を知る者さえいなければ、僕達は学校の中心人物に成りえる。
僕は熱血高校球児の目をしながらユウに思いのたけをぶつける。
「ユウ! 推薦入学を狙うぞ!」
「水洗入学?」
「そ……違う! スイセン入学だ!」
推薦入学
――それは学業やスポーツで優秀な成績を修めた者の学費を無料にしたり、入試の免除をすることで優遇し、自校へ優秀な人材を招き入れる入学システム。
僕達は、都内ではなく、都外へ進学すべきだ。
都内では同じ中学校出身の者と鉢合わせする可能性があるからな。
都外の学校の推薦を勝ち取るためには、それこそ全国レベルで名前を売る必要がある。
というわけで
「ユウ! 僕達は夏の最後の大会で必ず全国まで行って、結果を出すぞ!」
僕の考えを聞き、ユウの目に生気が宿る。
「やってやろーぜ! 聡!」
「ああ! 勿論だ! ユウ!」
僕達は拳をぶつけ合い、誓うのであった
……高校デビューの為に