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異世界では経験値が必要です。  作者: きうろ
外伝 -夢- YAYOI 
94/101

Worst possibility

 

「ちょちょちょっ!!まっ待って!!ストップ!!叩かないでっ!お願い!!」

「…っ!!」


 身を縮ませ両手で顔を隠し、鞭で叩かれぬようにと必死になる。少女にも見える女性は戸惑い困ったような悲しい顔でこちらを見ているのが指の隙間から見えたが、いったい何を思っているのか考察する事は出来なかった。


「あ、あの…。私の名前は、ノウ…って言うんですか?」

「……多分…いや、分からない。」

「え?でもさっき…」


 確かに言った。そして私がこの顔や体が自分のものではない事に驚いたように、それ以上に、自身と思っていた人物と一致していなかった事に驚いていた様子だった。いつの間にか臨戦態勢は解け、うな垂れたように座り込んでいた彼女にそれ以上何も聞いてはいけない雰囲気が漂った。


「…ねぇ。ちょっと聞きたいんだけど、いいかな?」

「?!! は、はい!あ、攻撃しないなら…あはは…。」

「ふふ。大丈夫、ごめんね驚かせて。」


 ゆっくりと腰を上げ乾いた砂を払いながらこちらに近付いてくる。手にあった筈の鞭がいつの間にか消え、ストンと隣に座り込んだ。体操座りのような格好で、胸が窮屈そうに足に圧迫されているのを苦笑いするしかなかった。

 覚えている事全てを知りたいという彼女に前世の記憶以外話せる事は全てを話した。何故か全てを信じてくれる気がし、転生したという事や、夢で見た光景、自身に似た神に会った事、グリノとパノンという魔族に世話になり裁判にかけられ追放された事。ゆっくりと思い出すように出来るだけ丁寧に、全てを話し終えるまでどれだけ時間が掛かったかは沈みかけた夕日が教えてくれ、その間彼女は相槌を打ち目を離さずしっかりと聞いてくれた。


「…で、今に至る…って事かぁ。ヤヨイ・シロノ…。」

「はい…。」

「………グレン。」

「………?」

「…ハァ。」


 深いため息の訳は分からなかったが、とても落ち込んでいるように見えた。恐らく彼女にも何か理由があるのだろうがこう何度も顔を見てため息吐かれるのも気分がいいものではない。


「あ、あの…。」

「ああ、ごめんね。グレンっていうのは…君と同じ顔をした僕の友人なんだ。」

「はぁ…。同じ、顔。」

「…順を追って話そうか。そのグレンはある亜人の子と共に女神、姉、そして亜人の子の記憶を探す旅に出たんだ。」

「亜人…聞き間違いじゃなかったんですね…。まぁ魔族も居れば亜人も居るかぁ。って女神?!会えるんですか?!」

「で、そこからその2人の消息が分からなくなった。」

「え?!いきなりストーリー終わっちゃった…!」

「ここからは僕の物語さ。元々冒険に出る予定だった僕は3人の仲間とアルファル法国という場所へ向かった。で、実はそこに女神が居るって仲間から聞いてね、もしかしたらグレンにも会えるんじゃないかなって思ってたんだけど…。」

「会えなかった?」

「……そんなもんじゃなかったよ。滅びてた。」

「え。な、なんで?何があったんですか?!」

「さぁ。僕には分からなかった。でも…仲間もグレンの知り合いらしくて…これはグレンがやったんだって…。」

「そ、そんな悪い子だったんですか?」

「違うっ!!!グレンは理由も無くあんな事はしない!!」


 理由があれば平気でやってしまうのかそのグレンという子は!とツッコミを入れたかったが、あまりにも真剣な眼差しに負けただただ息を飲んでいた。深く深呼吸をし平静になろうとする彼女はそのグレンという子を信じているのだろうと、なんとなくだが分かったような気がした。

 いったい何時どこからどうやって集めたのか分からない枝を少し目を離した隙に目の前に大量に置き、指を鳴らしたかと思えば枝に火が点き、焚き火というには少し大きい、小さめのキャンプファイヤーを作った。唖然とする私を無視するように話を続けたが、あまり話しが入ってこなかった。


「グレンは…友達の為に頑張って、努力して、犠牲になって、泣いて笑って苦しんで、絶望して…でも、希望に向かって歩ける勇気ある子なんだ。」

「え、いやこの枝とか火…どうやって……」

「確かに国1つ平気で壊せるような力はあったけど…人のために動ける人がそんな事絶対にしない!」

「あ、そんな力あったんだ…。てかこれ枝多くない?めっちゃ燃えて…あっつ!」

「…少し熱くなりすぎたね。でも本当にグレンはそんな事しないよ。で、話の続きなんだけど」

「いや、そうじゃなくてこれ!あっつい!!ちょっ!砂かけるよ?!あつっっ!!」

「そこから僕達は僕とツクヨミちゃん、マイム君とミントちゃんの2手に分かれてグレンと亜人の子を探したんだ。僕達は亜人の子を、マイム君達はお姉さんの方を探しに。そうすればグレンも見つかると思ってたから…。」

「よくこんな状況で話せるね!!?ちょっと髪の毛燃えてるの気付かないの?!遠い目してる場合じゃないって!!あっつ!!なんで消えないのこれっ!!」

「え?ああ、ごめん。ちょっと弱めるね。」


 やっと気付いてくれたのか前髪の一部をチリチリに焦がしたまま、今度は指を鳴らす事無くただ少し見つめただけで砂をかけようが何をしようが全く弱まらなかった火の勢いが小さくなった。


「…あの、それって…もしかして魔法…ですか?」

「うん。もしかして…魔法使えないの?」

「は、はい。」

「そっか。じゃあ今度教えてあげるね。」

「え!!本当ですか?!!」

「うん。色々調べてみたいし。あ…てかもう暗いね。」

「は?え、だから焚き火したんじゃ…。」

「そうだね。でも外より部屋の方がいいでしょ?宿屋あるからそこでお話しよ。」

「は、はぁ…。」


 なんだかとても振り回されているような気がしてドッと疲れたが黙って着いて行く。やはり見た目と同じく幼いのか、それとも少し変わっているのか、その両方なのかは定かではないが、今は名も知らぬこの人だけが頼りなのは確かだ。またどこから出したのか分からない服を移動しながら着る姿はかなり手馴れていた。これは旅をして身につけた(すべ)なのだろうという事にしてツッコミはしないでおく。


 町に辿り着き固唾を呑んだ。

 まるでジャングルのようなその場所には似付かないそれなりに立派な建物が立ち並び、建物は木造だったり石造りだったりと様々だが人が住むには十分だった。そしてそれよりも驚いたのが住人の容姿だ。人間と同じくらいの大きさの猿や犬などの様々な動物達が2足歩行で移動していた。そして言葉を喋っているのだ。ファンタジーではよくある光景なのだろうが、いきなりこんなのを見せられると平常心を装おうとしてもかなり挙動不審になっているのが自分でも分かる。とっさに彼女の服を掴み逸れないようにしたが、そこまで人通りが多いわけでもないので何してるんだ?といった表情で見られたが無視させてもらった。

 建物の中に入りお金のような物を渡し奥の部屋へと案内されていたが、直視出来ない私はここが本当に宿屋なのかどうかすら分からずただただ着いていくのに必死だった。


「着いたよ。もう周りに誰も居ないから大丈夫だよ。」


 まるで心情を見透かしたような発言に驚きつつもホッとし掴んでいた服を離した。よく見ると掴んでいた部分は皴ができかなり汗ばんでいた。


「あっ!す、すみません!」

「ん?ああ、いいんだよ。適当に座ってよ。」

「は、はい。」

「で…何か質問はある?無かったらそのまま話続けるけど…。」

「あ、えーっと…じゃあ、お名前を聞いてもいいですか?」

「名前?…あっ!ごめっ!!ハイル!!ハイル・ス・ティートンだよっ!言ってなかったね!」

「ハイル、さん。あと…一緒に旅してるって人は…?今は居ないんですか?」

「ツクヨミちゃん?うん、ちょっと色々あってね。戻ってくるとは言ってたけど今はそれどころじゃないんだよね…はは。」

「そうなんですか。じゃあ…んっと…とりあえず今はいいです。後で聞きます。」

「おけ。なら話を続けるけど、その前にお腹空かない?そろそろ料理持って来てくれると思うから食べながら話そうか。」


 そう言ったと同時にタイミングよくノックの音がし、可愛いフリルの付いた服を着た小柄な犬の亜人が料理を運んできた。目の前に運ばれた料理は見た目も匂いもとても美味しそうで、2日も食事をとっていなかったのと匂いの所為で腹の音が鳴った。恥ずかしくなり腹を押さえ俯いているとハイルがクスッと笑い、遠慮なく食べるよう促した。実際料理はとても美味しく、空腹も相まって料理を取る手が止まらなかった。


「話の続きだけど、実際グレンやお姉さん、亜人の子は見つからなかった。グレンと亜人の子はアルファル法国近くの小さな町で目撃はされてたんだけど、法国に向かう前のようだったし。お姉さんに至っては名前と年齢以外の情報が無い状態だったからね。ここクーカに来る前にも色々と探したんだ。グレンを見たって友人から連絡もあったんだけど……本当に本人だったのか。」

「あ…。あの、さっき私にやったカンテイってのはハイルさんしか使えないんですか?名前を調べる為の魔法…だと思ったんですが…。」

「いや、ほとんどの人が使えるよ。というより鑑定石ってのがあってね。今では持ってない人が居ないくらい普及してる。もちろん友人も鑑定石を使った。だけど…『鑑定不能(アンノウン)』の文字が出たらしい。正直、それを聞いただけだともしかしたら本人なのかもって期待したんだけど…。」

「カンテイ…鑑定不可能だったのに?」

「うん。それほどグレンはすごい人だったんだ。当時最高最強の冒険者の称号を持ってた人でさえ束になっても敵わないって言われてたからね…。しかも、たった6歳で。」

「ぶっ!!ろっろく…6歳?!!」

「うん。ヤバイでしょ!あれから2年も経ってるんだからそれくらいって思ったんだけど…()()()()する奴はグレンなんかじゃない。」

「あんな事って?何か酷い事でもしたんですか?」

「酷い…なんてもんじゃない…。ごめん、これ以上は…。」

「あ…ごめんなさい!誰にだって話せない事くらいありますよね…。」

「…いや、話さないといけないんだろうけど…まだ心の整理がついてないからね。話を戻すね、って言ってももう終わるけど、それからもグレンを探して…探して…今に至るって訳。君を見つけた時は本当に嬉しかったんだよ。」

「なんか人違いだったみたいで、すみません…。」

「ううん。まだ良く分かってないけど、僕は君も探してた。」

「え?私を?」

「さっき言った亜人の子。その子の名前は『ノウ・ノウ』。 君と同じなんだよ。」

「え…。亜人って事は…じゃあ…同名の別人、って事ですか?」

「いや、そうでもなさそうなんだ。この鑑定石を使ったら分かると思うんだけど…君は亜人族。正真正銘僕の知り合いのノウちゃんだよ。」


 ハイルが一体何を言っているのか理解できず、首を傾げたまま硬直してしまった。亜人とはさっき料理を運んで来た2足歩行の子犬や、道ですれ違った大きな体格の猫や熊、虎のような容姿をした者達の事を言う。人間の姿をした私のどこが亜人なのか口に含んだ料理を咀嚼しながら体を見渡し確認したが、やはり亜人には見えなかった。


「っん…いやいや、だって私亜人族じゃ…人間の、ハイルさんと同じだし…グレンって子と同じ顔って…」

「うん。正直言うと僕にも分からないから推測になるんだけど…君の話が全て本当なら、君はノウの体に宿った誰か…いや、ヤヨイ・シロノなんだろう。」

「…はぁ。」


 本格的に理解出来なくなってきたので適当に相槌を打っていたのだが、それを見透かしたようにハイルは合ったままの目を離さぬまま少し微笑んだ。


「魔族の村での裁判で『交わりし血を持つ者』『忌み子』って言われたのは鑑定結果と見た目が掛け離れていたからだと思う。」

「あぁ…。そういう事かぁ…。」

「で、君の見た夢、記憶は……グレンのもの、だね。」

「……はぁ。…すみません、ちょっと…てか全く分からないんですけど。」

「だよね…。僕も信じられないんだけど…君が見た夢、一部しか知らないけど実際にグレンが体験した事なんだ。そうだな…大きな化物って言ってたけど、名前はマンティコア・ロード。グレンの腕とルード君の体を引き裂いた魔物。一命をとりとめたけど意識不明になったルード君…あ、体を切られた子ね。その子を助ける為に僕が教えた空想のアイテムの素材を自力で集めて錬金術で作り出した。でも実際は求めていた物とは違うもので…暴れるグレンを僕とハルウェルトさん…白髪の女性が抑えて…同じくらい絶望していたライト君が前を向けって(なだ)めて…。君が見た夢は、実際に起きた事なんだ。ノウちゃんも知らないグレンの…。」


 ハイルの説明で夢に出てきた人物の名前を知る事が出来たが、同時に少年だと思っていた子がまさか目の前に居る巨乳少女だったとは予想だにしなかったので、そこに一番驚かされた。

 夢ではなく実際の記憶を垣間見ていたという説明だったが、そうなると余計に分からない事が増えた。


「あ、あの男の子ハイルさんだったんだ…。じゃなくて…んっと…私はノウさんの体だけど、何故かグレンって子の記憶を持ってて…つまりグレンって子の心も宿ってるって事…ですか?」

「可能性は…あるね。ただ、そうなるとグレンの体はどうなってるの?って話になるね。」

「そうですね。」

「で、その夢の続きなんだけど…腕を再生されたって言ってたよね?」

「あ、はい。なんか腕を治してもらったと思ったらその腕噛んだり引っ掻いたり…。」

「……君には理解出来ないかもしれないけど、ルード君が意識不明になったのは自分の所為だと思ってたんだ。だから自分でも腕を再生出来たはずなのにやらなかった。それを…善意があったとしても治されるのは…苦痛だったんだと思う。ライト君の為にも治してあげたいとは言ってたけど…正直グレンの心情は経験した事の無い僕には分からないけど…けど…相当辛かったと思う。グレンは、そういう人だよ。」

「………笑ってた。」

「ん?」

「腕を治した人…笑ってた。ずっと、周りで人が倒れてた時も…。……神と同じ顔。私と同じ…顔。もしかして…あの人…。」

「………ッ!!ねぇ!その時ノウちゃんって!!」

「居なかった…。ど、どうしよう…!私っ!!!」

「違う!まだ決まった訳じゃない!!」



 ハッとしたように手が止まり青褪め強張った表情同士がにらみあう。

 恐らく同じ結論に至ったが、()()の矛先は恐らく別々だっただろう。

 私はやはり私自身の事しか考えられず、ゆっくりと視線を掌に向け、この手が夢で…いや現実で過去にグレンという少年にしたであろう『心無き善意』、()()()()()()()()()()()()()()、そしてそれらが全て私自身(ノウ)が行った事なのではという不安が襲い掛かり、気付けば多量の汗が額を濡らしていた。


 私は人殺しなのかもしれない。



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