『シェラー』
※胸糞注意
結果を言えば、ハルウェルトさんに任せて正解だった。
鑑定石・強とエリクサーの売り上げは上場。素材も初物なのでかなり早いペースで売れていった。まだまだ在庫はあるが、かなり高い金額なのに大量に買う人も居るのは研究に使うためだろう。
他にも、新薬【マジックポーション】【マジックブレイク】【マッスルビギナー】という今まで無かったものから、各種状態異常回復薬の強化版が店頭に並び売り上げに貢献していった。まだ万能薬は出来ていないが、だんだんと近付いているような気はしている。
因みに、回復石も店に並んでいる。というより一番売れている目玉商品だ。MP自動回復はマジックポーションがあるから付けていない、というのは建前でハイルから止められた。
ハルウェルトさんに頼んでから3日目でおっさんはもう新店や増築などを考えていたが、そんなに甘くないと俺やハイルがきつく言ったのだが諦めた様子はなかった。
道具屋、魔道具屋から店が潰れるという苦情があり、利益の70~80%を錬金屋に(内、7割は俺に)収めるという条件で道具屋たちにも素材以外の物を置く事をOKした。錬金屋から貰える金額よりかは少ないが、そこまでお金は必要なかったので別段気にする事はなかった。
しかし全てが順風満帆という事ではなく、何かしらの問題が最近目立ち始めた。
『グレン、また来たよ…。』
『こっちにも来た…。ハルさんには申し訳無い事しちゃったな…。』
『だね…。僕の分も謝っといて…。』
『ああ…。そうする。』
問題の1つが今、眼前にある光景だ。
ブルクレンの兵士が5人ほどでハルウェルトさんに寄ってたかって質問攻めしている。俺とジークハルトさんはその光景をただ見ていることしか出来なかった。
「だから無理だって言ってるでしょ!」
「その者の居場所だけでも教えて下さい!」
「無理なものは無理!!そういう約束なの!!もしそんな事したら私が殺されちゃうのよ!!」
「そこをなんとか…。」
「あなた達…私が殺されてもいいって言うの?!今子供達と訓練中だから邪魔しないで!どっか行って!」
手の平で払うような動作をし、シッシッと兵士を追いやっていく。俺は人を殺したり、そんなこと考えた事もないのにハルウェルトさんにはそういう風に思われているのか…とかなり残念な気持ちになった。兵士の姿が見えなくなり、ハルウェルトさんに駆け寄り、深く頭を下げた。
「すみませんでした…。ここまで考えてませんでした、僕のミスです!」
「ん?気にしなくていいのよ、国ってのはいつもあんな感じなんだから!」
「でも…僕が頼まなかったらこんな事には…。」
「だから気にしなくていいって!私が話す気ないって分かればすぐに収まるよ。それより、もうすぐで来るけど大丈夫?」
「ありがとうございます…。…はい、大丈夫です。」
顔を上げるとジークハルトさんが手を掴んだ。柔らかい手の感触と共にひんやりとした指輪の冷たさが伝わってきた。
「効くといいね!」
「…うん!」
「それまで訓練の続きをやろうか!もうすぐでジークに追いつけるかな?」
「あ、それは無理ですね。ジークはだいぶ魔力操作を使えるようになってきてるので。」
「マジか!我が子ながらすごいな…。」
「グレンのおかげだよ!それに、家でもやってるもん!」
復習をしていると聞き、素直に嬉しくなり手に力を入れギュッと握った。ジークハルトさんはチラッと俺を見て顔を赤く染めてはにかんでいた。もしハルウェルトさんが居なければ襲っていたかもしれないほど可愛く、天使そのものだった。
訓練を再開して1時間ほど経った頃、ハルウェルトさんが周りを気にしだしたので訓練を終わらせて椅子を作り座って待つことにした。その間、今から来る人物の事を聞いたのだが、[エイワルド・ホーキンス]という名前で、少し性格に難があるそうだ。
「来た。」
15分程経ち、ハルウェルトさんが向いている方向を見ると、2人の男女が話をしながらこちらに向かって歩いていた。距離はかなりあったが、スキルのおかげで視認できた。
「……なんでジルバールさんが居るの?」
「え!お父さん?!どこ?!見えない!」
「…道に迷ってたんだよ。」
「こんな所で?!何もないのに?!あれ、ジルバールさんが…どこ行ってるの?」
「…家に戻るんだろう。」
「よぉ!久しぶり!」
「…遅かったな。」
「いやぁ!実は来る途中で魔物の軍団と遭遇してな!倒しながら来てたら遅くなっちまったよ!ははは!」
「はぁ…。ジルから連絡あったよ。」
「へ?いや…ほら…ね!(子供の手前、道に迷ったとか言ったら恥ずかしいじゃん!)」
「もうこの子達知ってるから…。」
「え…嘘…酷い!!ハルのバカ!!薄情者!!そんな奴だと思わなかったよ!」
「私は何も言ってない。この子には丸見えだっただけ。」
「嘘つき!俺の方から全然見えなかったし!」
慎重160センチほどの薄い青い長髪の男性がハルウェルトさんと言い争い?をしている。遠くから見たら女性に見えたが、というより今でも女性に見えるのだが、若い男性の声だった。白い綺麗な肌で髪から出た少し尖った耳がこの人はエルフ族なのだと認識させた。
「あの…初めまして。グレン・リィドです。エイワルドさんですよね?今回はよろしくお願いします。」
「ん?おお!君が噂の!ハルから聞いてるよ!化物なんだってね!あはは!」
ハルウェルトさんを冗談交じりに睨むと、しまった!という顔をしてすぐに逸らされた。
「化物、ですか…酷いですね…。僕は人間と認識されてないんですかね、この人には…。」
「かもな!てかハル、こいつ念話で言ってた奴と同一人物?」
「あ…あぁ、そうだ。パーティの件は断られたがな。」
「いらねぇだろこんな奴…。おい!鑑定したけどお前雑魚じゃん!レベル25でそのステって!逆に化物だわ!肉壁にもならねぇよ!!きゃはは!!」
「エイワルドッ!!」
「………。」
「ははは!化物君は言い返すこともできねぇのかよ。で、眠りについた王子様はどこにいんの?治してやるからさっさと連れてけよ。」
「…こっちです。国内の病院なので。案内します。」
容姿にそぐわない言動に残念に感じた。「きゃはは」と甲高い笑い声が耳につく。エルフはもっと落ち着いていて、優しく清楚なイメージだったのだが、幻想だったようだ。ため息が出たが、ジークハルトさんが手を強く握り小声で「グレンは化物じゃないよ」と言ってくれた言葉で心が洗われた。後ろでハルウェルトさんに怒られているエイワルドは態度を崩す事はなかった。
念話でハルウェルトさんに謝られたが、正直何も思ってないので笑って許した。エイワルドに鑑定石を、と聞かれたが、口が軽そうなのでそれは本気で断った。それにこいつは、嫌いだ。レベルやステータスだけで人を判断しようとする。いきなり見下したような目で見てきたのがいい証拠だ。俺が5歳児という事を忘れないで欲しい。
病院の中に入ると、シェラーを見れると噂になったのか沢山の医師と看護師が部屋の前に立っていた。後ろを見るとその様子に満足したような顔を浮かべているエイワルドが居た。部屋の中に入るとルードを囲むようにノウ、ライト、リリア、それとハイルが座っており、傍にジルバールが立っていた。ハイルはノウとリリアとは初対面のはずなのに何故か仲良く話をしていた。
「グレン…と、ジーク!久しぶり!! あ…ハルウェルトさん、今日も兵士が来たみたいで…すみませんでした。」
「いいんだよ。それにその話は今はよそう。」
「ハイル久しぶり!グレンから色々聞いてるよ!」
話をする2人を止めジークハルトさんとハルウェルトさん、それとエイワルドを紹介した。ジークハルトさんの紹介をした時ノウが少し不機嫌そうな顔を見せたが、気付いてない振りをした。ノウ達を紹介しようとした時、エイワルドが身を乗り出した。
「あれ、ノウじゃん!なんでこんな所にいんの?化物君の知り合い?」
「え?え?だ、だれ?」
「ちょッ、エイワルドさん!ノウの事知ってるんですか?!」
「知ってるもなにも、昔パーティ組んでた事あったんだ!駆け出しの頃でお互い使えねぇクズだったんだけどな!ははは!まぁ今は昔話や自己紹介よりもこっちの眠ってる王子様だろ?」
戸惑う俺とノウ達を他所にエイワルドがルードに近付いていく。ルードに手を向け手の平から赤い光を出し、光は伸びるようにルードに近付きスッと心臓付近に透き通るように入っていった。
辺りは静まり返り、みんなそれを見入っていた。
「どういった魔法なんですか?」
エイワルドを邪魔するつもりはなかったのだが、ふいに言葉が出てしまった。ハッとしたが、問題ないかのようにエイワルドが口を開いた。
「精神に干渉するんだよ。こっちの魔力と相手の魔力と繋がって。混乱とかだとすぐに治るんだが、意識不明となると眠ってる精神をたたき起こさなきゃならない。自分から眠ってる場合は説得。クソ面倒で割に合わねぇから仲間にしかやらないって決めてたんだけど…パーティメンバーの頼みだからな。感謝しろよ。」
「なるほど…ありがとうございます。」
魔力と魔力を繋げるなど、考え付かなかった。それも、繋げて相手の精神、意識に入り込むなど…。しかし、考えてみれば念話と少し似ている。それに召喚獣がやって見せた記憶の付与。もしかしたらシェラーとは念話の上級版なのかもしれない。
「あ、ダメだ。」
「へ?」
何の感情も無く呟くエイワルドに全員が向き、何を言っているのか分からないといった顔をしていた。もちろん俺もすぐには理解できず、「失敗!無理だわ!」と笑いながら言うエイワルドの言葉でやっと全員が理解できた。
「…嘘…だろ…。」
祈るように見ていたライトが消入る様な声でルードに顔を向けた。
ルードを挟んでライトの真正面にいた俺はライトを見ていられずエイワルドにもう一度やってくれと頼んだが、断られた。
「意味ないって。それより化物君達さ、この子に何したの?めちゃくちゃ怯えてたんだけど。」
「それは…。」
置いて逃げたなどとは言えなかった。実際そうなのだが不本意だった。しかし、助けれなかった、置いていってしまったという後ろめたさがあった。
「一緒に連れて逃げたかったさ…。それをあいつらが邪魔したんだよ…。」
ライトが歯を食い縛り、ズボンをギュッと握り、エイワルドを睨みつける。まるで、何も知らないくせに言うな、と言ってるように聞こえた。
「ああ!何もしなかったのか!なるほどな!そりゃ怯えるわ!」
「エイワルド!!ちゃんと説明しただろ!」
「いやいや、あんなの俺は信じないよ、ハル。パーティに誘いたいすごい子供が居るって来てみたらこの雑魚ステ。敵がすごく強くなくても10層主に勝てなくて当たり前だろって!そんな幼稚な嘘によく騙されたな!なんでそれでダンジョン入ったんだよ!ネタだろ!!きゃははは!!ライト君はまだ行けるけど、ばけも…ッ!」
「エイ…それ以上言ったらぶちのめすぞ。」
何故かジルバールさんがエイワルドの胸倉を掴み、今まで見た事のない冷たい目で睨んでいた。思い掛けない人物からお叱りを受けたエイワルドは、「え?え?」と小さく戸惑いなぜ怒っているのか分からない様子だった。
「な、なんでお前が怒ってんだよ…。関係ないだろ…。」
「関係なくてもお前の発言は目に余る。この子たちに謝れ。」
「なんで…本当の事だろ…。」
「エイワルドさん。謝らなくていいです。その代わり、シェラーについて詳しく教えてもらえませんか?」
「あれ以上教えてどうなるんだよ…」
「…教えてやれ。」
「……ッチ…。さっきも言ったけど、魔力と魔力を繋いで精神に干渉すんだ。相手の魔力に自分の精神を入れるイメージだ。奥のほうに入ったら相手が居るから話かけんだよ。」
「意識はこっちにもあるんですよね?」
「ああ。さっき喋ってたろ。念話しながら喋ってる感覚に近いな。」
「なるほど、ありがとうございます。」
部屋の扉に近付き、医師と看護師から遮断するように扉を閉め鍵をかける。
エイワルドの元へ行き「今日はありがとうございました。」と握手を求める。「は?」と首を傾げ戸惑いながらも握手に応じたエイワルドの魔力を吸収し、転移魔法で遠くへ飛ばした。
エイワルドがいきなり消えた事にその場に居た全員が驚き戸惑い、数名が何が起きたのか理解した頃、ジークハルトさんが泣きそうな顔で怒りを顕にした。
「お父さん!お母さん!もうあんな人とは関わらないで!!グレンが…みんなが可哀相!!」
「ああ…すまない…。レアな魔法を使えるからとメンバーに入れたのが間違いだった…。」
「いや、ハルに紹介したのは俺だ…。ごめんな、嫌な思いさせて…。グレン君も…ライト君、リリア君、ノウ君…本当にすまなかった…。」
「いえ…で、グレン、出来そうなの?」
ライトの背中を擦りながら不安そうにリリアが聞いてきた。
「ああ、たぶんな。ちょっと…ルードと話してくるわ。初めてだからルードに集中するな。」
「頼むグレン…俺…もう…」
さっきまでの威勢が消え、ポロポロと涙を流すライトがこのまま消えてしまうのではと思えるほど小さく見えた。エイワルドの言葉に一番傷付いたのはライトだろう。俺はその傷を癒す方法を1つしか知らない。一度熟練者が失敗した事を俺がやって成功するかは分からなかったが、力強く頷き、ルードに手を向けた。
魔力操作で俺とルードの魔力を繋げる。自分の意識を魔力に乗せるイメージをし、少しずつルードの魔力に入っていく。