ノウ
「いやいやー、寝ないでよー。」
また体が揺らされる。
目を半開きにし、すっごい嫌な顔をして「なに?」とノウを睨んだ。
「ねぇねぇ、私にも魔法教えてよー。」
すっごい小声で俺の耳元で囁く。
監視役には聞こえないだろう。けど、恐らく見られているはずだ。
「今度でいいじゃん。寝てんだけど。眠たいんだけど。」
「お願いー!じゃないと毎日起こしに行くよ?!」
最低だな、こいつ。と、顔を崩さないまままた睨んだ。
「ふぅ」とため息をつき、周囲に魔法を放つ。
「もう普通に喋って大丈夫だぞ。みんなに聞こえないようにしたから。でも、姿は普通に見えるから布団に入ったままな。」
と言い、上布団を2人の頭まで隠す。
「すごい!どうやったのー?!」
まだ小声で喋るノウに「風魔法」と簡単に説明する。「そんなこともできるんだねー!」と驚いていた。
「いや、ノウさ・・・お前、魔法使えるだろ。」
「へ?」
俺は鑑定でノウのステータスを知っている。俺の今のステータス程ではないが、MPや魔攻、魔防が異常に高い。魔法を使えないとおかしいレベルだ。それに、他にも異常な部分はあった。
だがノウはきょとんとしていて、よく分からないといった顔をしていた。
「ん?使えないの?」
「え・・・使えないけど・・・もう使えるの?私。」
「へ?」
「え?」
「いやだって・・・お前・・・あれ? 今30歳過ぎてんだろ?」
「え・・・えええええ?!!!!!」
「ええええええ?!!!!」
ノウが本気で驚いて大声で叫んでいた。
そのノウの反応に俺も驚いてしまった。
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【ノウ・ノウ】女 亜人族 Lv22 35歳
[治療師]
HP 244/244
MP 757/757
攻 34
防 57
魔攻 268
魔防 470
経験値あと2721でレベルアップ。
【能力】
[治療Lv9][魔力操作Lv5][料理Lv2]
【特殊能力】
[嗅覚]
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ノウのステータスを再度確認する。
どう考えても魔法を使えないとおかしいのだ。
「私は・・・4歳だよ・・・?そんなに、おばさんじゃないよぅ・・・。」
「あ・・・でも・・・あぁ・・・分かったから泣かないで、ごめんな。」
俺をジッと見つめ、涙をぽろぽろと流しだした。
流石に嘘をついているようには見えず、申し訳なくなって謝った。しかし、おばさんて・・・子供から見たらそうなのか・・・な? 中身30歳の俺には少しきつい一言だった。
でも、なんで泣いたんだこいつ。
目を腕でごしごしと拭き、涙を払う。涙で腕が濡れ、毛と毛がくっついている。それを魔法を使い、「ごめんな、俺の勘違いだった」と言いながらドライヤーのように乾かしてやる。
謝罪ついでに、俺がなぜ魔法を使えると明言したのかを説明する。『鑑定』を持っている事を話したのはノウが初めてだ。「俺のこのスキルがおかしくなったのかもしれない」と付け加えると「絶対そうだよ。」と少し睨まれた。
なんとか機嫌を直したノウに魔法を教えてやる、つもりだったのだが、布団の中では練習になるような魔法を思いつかない。
なのでノウに素直にここでは魔法は使えないと説明し、明日ちゃんと教えるから、と言い諦めてもらった。
ノウと世間話をした。というより、質疑応答だろうか。割合を言えば、2:8でほとんどノウの質問攻めだったが。
俺は、『キビッシュ』について大人も知らない動物について聞いた。どうやら、外で飼っていた猫の名前らしかった。しかし、飼っている猫と同じ種類の亜人種て・・・と少し笑ってしまった。ノウは捨て子のようだった。気付いたら外にいて、彷徨っていたとこを人攫いにここに連れて行かれたそうだ。
(というより、記憶喪失なんだろうな。)
とそう思うようにした。
ノウはかなり質問してきた。
鑑定結果、魔法について、俺自身について、そもそもなぜ知っているのか、ほとんどの質問はちゃんと答えたが、言えない事ははぐらかしたり、素直に言えないと答えた。
話をしているうちに口数が少なくなり、お互い目が半開きになり、何を喋っているのか分からない言葉をぼそぼそと言い合う。
そしてそのまま2人眠りに落ちた。