魔法と職(ジョブ)
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
『運命なんて心の底では全く信じてないからみんな行動してんだろ。寝て起きたら全て解決してるなんておとぎ話の世界だけだ。』 G・L
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「ねぇ女神様、なにしてくれてんの?」
恐らく今の自分を鏡で見ると、引き攣った笑顔で額に青筋が浮かんでいるだろう。
憎しみを込めて放った言葉は女神を土下座の体勢に戻すのに時間は掛からなかった。
こう何度も女神(自称だが)が頭を下げるのはいかがなものかと首を傾げてしまうが、それ相応の事をしたのだからやはり頭を下げるべきだ。
体勢が解除された途端、落ちた。それはもう、紐なしバンジーの如く。
女神が土下座をするのだから、見えない床があると思っていたのだが、奴は宙に浮いていたのだった。
宙に浮く術を持たない俺は女神の部屋?を体感数百mを今まで出した事のない悲痛な叫び声をあげて落下していった。
どんどんと小さくなっていく女神を数秒眺めていると、一瞬姿が消え目の前に現れ、どうやったのか落下を止めて床を作った。
産まれたての小鹿のように足がガクガク震えながらも顔だけは本気で怒っている今に至る。
「す、すみません…。ちゃんとお詫びしますので…。」
その侘びに期待なんて出来るわけも無く、また土下座している女神を見下し収まらない怒りを少しずつ瞼に溜まっていく涙と荒い息に変える。数分経っても怒りが沈下する事は無かったが、とりあえず話を進める事にする。
「で…俺は異世界行って何をすればいいの?」
この一言で女神は首をグイっと上げ、驚いた顔でガン見してくる。
涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっていた女神の顔を見て身を仰け反り、「美人が台無しだ」という言葉も出ないほど引いてしまった。
「き、来てくれるのですか?!」
「いや…。…話を聞く限りじゃ行くしか出来ないんだろ?」
「確かにそうですが…ありがとうございます!」
女神は袖で涙と鼻水を拭き、少し袖を見つめたあと礼をするようにまた頭を下げた。
「それでは、説明しますね。」
と、どこから出したのかスッと立ち上がりながらテーブルと椅子を用意し、俺を座らせティーカップを渡した。
空のコップを渡され、喧嘩を売っているのかと少し女神を睨むといつの間にか湯気が立ち視界を妨げた。驚きコップを覗くと紅茶のような薄い橙色の液体が波を立てていた。俺が驚いていると、女神はクスリと笑いながら正面にあった椅子に座り面と向かってる状態になった。
「私の世界では、魔法、スキルと言うものが存在します。今見ていただいたのも、魔法の一部です。それらを使用できるようになるには訓練が必要です。そのうち田中さんにも扱う事が出来ます。」
と笑顔を向けてきた。
正直、俺を殺した相手とはいえ、とても美人なのでその笑顔に一瞬怒りを忘れドキッとしてしまった。大事な事なので2度言うが、俺を殺した相手なのに。
続けて女神が口を開く。
「そして、先程見せた魔法の他に、自分自身をスキルアップさせる『職』と言うものが存在します。」
「ジョブ?」
「はい。このジョブシステムは、魔法の力をさらに強化させる可能性があるのです。というより、強化してくれます。例えば…そうですね、賢者のジョブを手に入れたら、コップ1杯の紅茶ではなく、滝のような量が出せる位には強化されます。」
「それってすごいの?」
いまいちピンとこない。すごいって言うのは分かるのだが…
「す、すごいですよ!たぶん!今は世界に2人しか居ないんじゃないかな?」
「そのジョブってどうやったらなれるの? 職安? ダー〇の神殿みたいなとこ行くの?」
「いえ、ジョブは一人一個。それぞれの個性のようなもので、決まっているのです。」
「じゃあ、戦士のジョブの人は魔法使えるけど戦闘には使えないくらいのもの止まり…ってこと?」
「そうです!さすがですね!」
何がさすがなのか分からないが、一人一個は何かしら才能があるという事なのだろうと解釈した。
女神の言う異世界の世界観がいまいち分からなかったので戦士で例えたのだが、どうやら本当に存在しているようだ。
「そっちの世界には敵?みたいなのいるの?魔法を使わないといけないような、賢者が必要になるようなすごい怖い輩が。」
「はい、居ます。世界を救ってもらいたくて…。そのために田中さんをころ…召喚したのです。」
「殺したって言いそうになったな…。」
「ごめんなさい…。」
「まぁ素直に謝るのはいいけど…気をつけろよ。」
その言葉で女神はしゅんと縮こまった。
「で、俺はどんな個性があるの?適性のジョブ教えて。」
女神は縮こまったままどこからか、ざっと見た感じ50枚ほどの丸めてある紙を取り出した。
「これが、田中さんのジョブです。」
「ん?どれ?」
「この紙に書かれているジョブ全てです。」
ブッっと飲みかけの紅茶を吹いてしまった。
「ジョブって一人一個なんじゃないの?!」
「はい。そのはずなんですが…田中さんはなぜかこれだけのジョブを使いこなせる才能がありまして…。恐らく、この世界で勇者として生まれるはずが間違えて地球に生まれてしまったのではないかと…。」
「いやいや、間違えるも何も、魂の循環?で地球人は地球でしか生まれ変われない!みたいな感じじゃないの?!」
「そうなのですが…そうとしか思えなくて。 私もよく分からないのです。」
女神に分からない事を俺が分かるはずがなく、ただただどう反応していいのかも分からぬまま女神が丸まった紙をテーブルの上で広げだし、それを眺めていた。
「……なに、これ。」
「すごい才能ですよー!これなんか!ほら!茶道とか、ペンキ塗りとか!」
「いや…あの…これでどうやって世界救うの?」