ドナドナ
グシャ。
という音が近いだろう。
自分の顔面から奏でた音は直接響く為、近くに居る者達が聞くよりも、もっと生々しかったと思う。
静寂が続いた。
といっても、たかが数秒。
その静寂を我慢出来なかったのか、ちらほらと「クスクス」「ぷっ」と笑いを堪えきれないでいる人の声が漏れる。目を瞑って居た人も「どうなったの?」と血の付いていない剣と俺を交互に見て近くに居る人に尋ねていた。
(選択は間違っていないはずだ…。こんなところで浮遊魔法を使うのは得策じゃない。しかし、笑ってないで助けろよ…!赤ちゃんが殺されかけたんだぞ!)
周りの、傍観者を決め込んでいる捕虜達の反応に怒りが込み上げてくる。
その怒りも、地面に激突した痛みによってすぐに掻き消された。それに、まだ安心出来ない。兵士や捕虜たちは俺が死んでいると思っているだろうが、金髪30代後半兵士は攻撃を避けられたのだ。死んでからでも怒りで攻撃してくるかもしれない。そう思い、『敵対感知』を発動させる。
(やっぱりか……!!!)
敵対感知を発動した瞬間、すぐ近くに反応が出たので、寝返りを打って仰向けになる。
ガキンッ
俺がさっきまで居た場所、ほんの数十センチ隣に剣が数センチほど突き刺さる。
避けられた事に気付いたのか、笑われた事に腹を立てたのか、その両方なのかは分からないが、金髪30代後半くらいの兵士はものすごい形相で俺を睨み付けていた。
もう一度寝返りを打ち、4つんばになり、急いで捕虜の方へ逃げていく。
金髪30代後半兵士が俺を追いかけようと、刺さった剣を引っこ抜き、よく聞き取れなかったが何かを叫んでいた。
普通ならすぐに追いつくのだが、俺が落ちた位置と捕虜の居る位置が割りと近かったため、捕虜を隠れ蓑にした。金髪30代後半兵士は迫って来ようとしていたのだが、一人の兵士に頭を殴られて止められていた。
「恥を知れ!!それでも偉大なるブルクレン国の兵士か!!!」
と、捕虜達全員に聞こえるような大きな声で俺を斬ろうとした金髪30代後半兵士は上司のような奴にどやされていた。
その時、一部からざわめきがあったのを俺は聞き逃さなかった。
俺は知らない男性の腕の中に居た。
「ぼうず、よく逃げてこれたな。奇跡に近いぞ。というより奇跡だ!」
俺を抱えたどこにでも居そうなメタボ体系の髭を生やしたおっさんが俺に話しかけてきた。ドラ〇エのト〇ネコに似ていたので、トルさんと呼ぶ事にする。
近くに居る捕虜達も、俺の方を見て、「すごいな!」「よくやった!」と(助けようとしなかったくせに)訳分からん事を言っていた。
俺は今すぐにでもここを抜け出したいのだが、トルさんは俺の頭を守るように抱えていて身動きが取れなかった。
どうやって抜け出そうかと考えていたのだが、それを裏切るように、ブルクレンの兵士たちが捕虜たちを別の場所に誘導させようとした。このままではまずい、と思い、トルさんから離れようと暴れたのだが、「大丈夫だ。俺が絶対守ってやるから。」と手を緩める事はなかった。
移動の途中、金髪30代後半兵士が見えたので、腕の隙間から念のため『鑑定』をした。年齢はやはり38歳で、レベルも同じく38だった。名前は[ロハス・ハーヴェル]。ステータスは割りと高い。念のため覚えておこう。
因みにトルさんは、トルリオという名前だったので、そのままトルさんと呼ぶ事にする。
焼け焦げた家や、倒れている町の人達を眺めながら城下町を離れる。
途中で俺の家が見え、グエンとミーリの事を考えていたら泣いてしまった。トルさんはそんな俺を見てギュッと抱きしめる力を強めた。
馬車に乗り込む。
いったいどこに連れて行かれるのか不安を隠しきれない捕虜たち。
それでもトルさんは俺をしっかりと抱えて、自分に言い聞かせるように「大丈夫、大丈夫」と小声で俺に語りかけてくれた。馬車が動き出したと同時に緊張の糸が切れ、眠ってしまった。
それから3日後。
出発時には30台ほどあった馬車も、途中で別方向に向かい、今では5台。
馬車の中で兵士に渡されたなけなしの食料で食いつなぎながら、目的地に到着した。
奴隷市。
どうやら俺たちは奴隷になるようだ。




