ティグレのお仕事?
何とか書けました
「何故俺達が戦わなくてはならない!!」
やっぱし出たな、こういう奴。
予想はしていた。
エルフの族長ら、部族の長達は皆覚悟を決めている。これ以上下がれないと理解しているからこそ、彼らは俺達を異世界から召喚するという事をしてまでも自分達の場所を守る覚悟を決めざるをえなかった。
一方で、それを理解していない奴もいる。そう、今正に叫んでる若い奴みたいにな。族長の息子だそうで、当人曰く『人族が攻めてくるというなら、より森の奥深くに移動すればいいじゃないか』という事になる。
そうだな、戦いだけを避けるならそうなる。
だが、現実には無理な事も族長らは理解しているし、それを主張しもした。
エルフの部族はそれぞれに縄張りというか、互いの生存圏を持っていて、その範囲内で基本、狩りをして、採取をして暮らしてゆく。そうして近隣の部族と時折、品を持ち寄って互いの土地では手に入らないような物を交換したりもする。
では、余所から他のエルフが逃げて来たとして、「そりゃあ大変だったね」とすんなり受け入れてもらえると思っているのだろうか?
部族が全滅して、一人二人のエルフ族の生存者が逃げて来た、というならまだそういう事も期待出来るだろう。だが、部族丸ごと逃げて来たとして、受け入れてもらえるとでも本気で思っているんだろうか?百人が生きていくのに十分な森の恵みがある地でも、二百と倍になったら対応出来ると思ってるのかね?少なくとも、元から暮らしてた連中の生活環境は悪化するだろうし、それで不満が溜まっていけば最後には「余所者は出て行け!」という事になる。
行く先があればいいが、なければ?
ま、んな先の事考えもしてねえんだろうな。連中の本音は「死にたくない」「戦いたくない」だ。
分からんでもない。
そして、妙な事に『ワールドネイション』により深くはまってた俺達三人、俺、常葉、カノンの三人はそうした忌避感がない。女性陣四人には割かし普通の戦争や、それに関わって死ぬ事への恐怖があるってのにな?何でかねえ?仮定は思いつくが、今の状況じゃありがたいな。
「おい、〇無し。それでお前らはさっさと逃げる支度中ってか?」
嘲笑を込めて声をかけた。
おいおい、そんな驚いた顔するなよ。というか、やっぱり気づいてなかったか。
そりゃあ、部族の集落の中じゃあ、やりづれえよなあ?自分達の祖父母や親、友人達が「自分達の住む場所を守る」ために戦う準備をしている中で、「俺、戦いたくない!」なんて言えんわな。ましてや、今、こいつらのど真ん中にいる族長の息子、なんて立場の奴にはな。
もっとも、族長の息子が中心にいるからこそこうやって一つの集団になってんだろうが……。
「何だと!」
「〇無しがお気に召さないなら腰抜けでいいか?それとも負け犬がお好みか?」
ま、こいつみたいなのが出てくる事は予想していた以上、対応も既に決まってんだよ。
「お前達だってそうだろう!父達にいきなり関係もない場所に呼び出されて!まったく関係もない俺達やこの土地を守ってくれと言われて納得いってるのか!?」
そういう物言いは嫌いじゃないぜ。
こいつもだが、俺達を単なる戦闘用の道具や見下すんじゃなく、あくまで巻き込まれた挙句戦いに巻き込まれた被害者だって扱いしてくれんだからな。
「そうだな、だが俺らが故郷に帰るにゃあお前らじゃ意味がねえんだよ」
「……っ!だがっ!」
「大体だな、お前ら、明日からメシが半分になっても我慢出来るのか?」
きょとんとした顔になった奴らが大部分だった。
それすら理解してねえのか……。
「お前らの住んでる所に、他の連中が人族に追われたから住ませてくれ、って来たらそうなるに決まってんだろうが。それとも、森からこれまでの倍の量を奪い取るか?我慢出来るギリギリまでメシの量減らして、森からもギリギリ大丈夫なとこまで奪うか?ちょいと森に何かあったらたちまち飢えちまうだろうなあ?」
周囲を見回す。
ようやっと理解出来たのか、目を逸らす奴ばかりだな。
そうさ、森って奴は思ってる以上に繊細なんだよ。常葉の奴がいるから、多少の無茶は利くが、逆に言えば常葉の奴がいなけりゃ無理をさせる訳にゃあいかない。こいつらは長い間、そんな森と共に暮らしてきた連中だ。それが理解出来ねえ訳がねえ。そして、目を逸らして喚き散らす程バカにもなれねえ訳だな。
……物語の小物な悪役みてえに喚けたら楽だろうによ。
お前らは黙って俺達の為に戦っていればいいんだと叫べりゃ楽だろうによ。
「分かっただろうが、お前らの親父さん達はそれを理解してるから、逃げるのをやめたんだ」
「だが、それでも……俺達は死にたくないんだ」
やっと本音が漏れたか。
族長の息子のそれに反論する奴はいない。
死にたくない、戦いが怖い、けど逃げ場はない。
分かってんだよなあ、こいつらも……。
「逃げ場はねえ」
びくりと全員が身をすくめる。
「死にたくねえなら、俺にしてやれるのは一つだけだ。鍛えるのを手伝ってやる」
「……いいのか?」
頷くと、連中の間で相談し始めた。
……というか、今の俺、仕事ねえんだよな。
常葉はめっちゃ忙しいんだ。事前の仕込みやら、戦力の創生やら一番忙しい。
カノンも偵察やら何やらで忙しい。
嬢ちゃん達は今はとにかく少しでも鍛えないといけないからやっぱり忙しい。俺達に比べりゃ弱いが、実の所チュートリアル終わってたお陰で、今の嬢ちゃん達、ここのエルフ達よりHPとかMPとかステータスとでもいやあいいのかな?そういう面では上なんだよな。
……かといって、俺とは嬢ちゃん達の戦い方って違うんだよなあ。精々、模擬戦の相手ぐらいしか出来ねえ。
なんでまあ……俺にも出来る事探してたらこんな事になったんだよな。
「分かりました、正直逃げたいですが……故郷を守りたい気持ちがあるのもまた事実です。……よろしくお願いします」
「おう、こちらこそよろしくな!」
ま、少しでも死ぬ奴の数を減らせるといいよな。
書きあがって思った事
はて?当初はもっと族長の息子ゲスな発言して、ぼこられたりするはずだったのに何故こうなった?
当初の予定では夜の闇に紛れて、逃げ出すシーンとかイメージしてたのに書きあがったらこうなってました