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北の一幕

 「やれやれ、退屈じゃのう……」


 ラウザ公女はつまらなそうに呟いた。

 こんな事を彼女が言っているのも、彼女は未だ最初の野営地から動けていなかったからだ。


 「戦況はどうなっておる?」

 「はっ、ケレベル要塞を抜いたものの、未だ谷を抜ける事が出来ず……」

 「分かった、つまりは昨日と変わらぬままじゃな」


 という点にある。

 ケレベル要塞は山間部を縫うように設けられた街道上に作られていた要塞だ。

 つまり、ケレベル要塞を抜いても谷間の街道を歩かないといけない事には変わりはない。


 「迂回は?」

 「要塞を抜けた後、幾つか間道らしきものは見つけたものの……」

 「軍を通すには不向きか」


 これまた事実だった。

 確かに小部隊が動ける程度なら可能だ。

 だが、大部隊を動かせる程ではなく、おまけに長らくブルグンド王国側の領域だった事もあって至る所に警報が巧妙に仕掛けられている。これらを解除しながら進むのは腕利きの偵察兵でも困難だ、と早々に判断された程だ。

 おまけに、それらを進んだ先には迎撃に恰好の場が設置されていて、到底利用出来るようなものではなかった。

 

 「おそらく、ケレベル要塞成立前から今までずっと維持され続けてきたものかと」

 「で、あろうな」


 ケレベル要塞が成立する前は当然だが、互いに陣地を作り、間道を抜け、相争ってきた。

 当時から整備され、その後ケレベル要塞が構築された後は万が一抜かれた時に備え、整備され、長い事使われる事がなくてもきちんと維持されてきた。


 「まったく!連中の生真面目さが今回は恨めしいな」

 「はっ」


 もっとも、口だけだ。実際、ラウザ公女も参謀達も苦笑ではあるが笑っている。

 もし、逆にここで至る所手抜きだらけだったら、「こんな奴らに我々は今まで苦労してきたのか」と感じていただろう。

 いや、人によっては違う感想を持つ者がいるかもしれないが。楽な方がいい、という意見を持つ者だっているのは当然だ。そうした人物にとってはケレベル要塞の堅牢さに安心して、後ろはボロボロだったら良かったのに、なんて感想を持っていた事だろう。

 

 「いい加減、諦めればよいものを」

 

 ラウザ公女がこんな事を言うのも理由があって、ケレベル要塞で巨大砲を運用した中央軍は現在、北方諸侯軍と絶賛交戦中だった。

 

 「まさか、あれで最初の上層部が軒並み死んだ挙句、あの場にいられなかった二番手連中が手柄を求めて直訴するとは思わなんだわ!」


 それが理由だった。

 あの巨大砲の運用時、中央軍の首脳陣は軒並み巨大砲の傍にいた。魔導砲というものをよく知っているラウザ公女なら間違ってもそばにいたくないが、彼らはそれがどんなものかなどまるで知識がなく、巨大で且つ強力な要塞を破壊出来る兵器としか知らなかった。

 結果、兵士達の言葉もまともに聞こうとせず、それどころか善意から退避を進める兵士を他の兵士に命じて遠ざける始末。

 当り前ながら、巨大砲の周囲にいれば衝撃で悲惨な目に遭う。それで動けなくなった所で爆発が起き、見事なまでに主要司令部要員全滅となったらしい。

 これだけでも馬鹿馬鹿しい話だったが、結果としてチャンス!と見たのが二番手に位置する者達、副参謀らが一気に指揮官らになりあがった訳だ。

 そして、ここで問題となったのが、巨大砲の成果だ。

 最終的には死者だからこそ、というべきか、死んだ指揮官らの成果とされる事になった。ここまではいい。

 しかし、そうなると新たに指揮官となった者達は「まだ何の成果も上げてない」という事になる。そこで彼らは皇帝に陳情し、次の戦いで中央軍が前に出る許可を求めた。

 そして、二番手、とはいえ彼らもまた高級貴族であった事から皇帝も無視出来ず、最終的に許可が出た訳だが……。


 「二番手は二番手となるだけの理由がある、という事だな」


 確かに攻める方法が限られるのは確かだ。

 しかし、ひたすら交代して絶え間なく攻め続けるだけとは芸がないにも程がある!

 大体、増援を受け続けている王国の連中とてそれなら交代して防衛し続けているに決まっているだろう。

 かといって、彼らの指揮に下手に口を出す訳にもいかない。それは横紙破りと看做される上、もし、その作戦で成功したとしてもそれはラウザ公女の成果と看做されてしまうからだ。

 これが木っ端貴族の提案した作戦なら握りつぶす事も出来るだろうが、ラウザ公女の場合、例え彼女自身が黙っていた、あるいは黙っていても良いぞ、と言ってくれたとしてもそうはいかない。皇王の妹君の立てた作戦を採用しながら黙っていたとなってはばれた時に大変な処罰を受ける事になってしまう。


 「まったく……!南と王国の行動次第では大変な事態を招いてしまうぞ……!」


 そう苛立ったように呟くラウザ公女だった。 

  

ラウザ公女が懸念してる事

それは南と皇国が交わした約束に関する事にあります

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