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この力は何の為に

 「………ひどいそんがいだ」


 いや、まったく。

 思わずティグレさんの発言が平仮名になるぐらい。

 

 油断と混乱で大打撃を受けた我が軍。

 実を言えば、死者数そのものは意外と少ない。これは連中の数がそもそも少なかった事に加えて、下手に足を止めれば包囲される危険がある事から一撃離脱に徹したせいだろう。結果として、一撃ズバッ!とやられても案外文字通りの意味で「傷は浅いぞ!」だったり、深手でも命には別状ない、という者も案外いた。

 死者自体はむしろ混乱した結果発生した将棋倒しで下敷きになった事で出た方が多い。

 しかし、その反面、重軽傷者の数は実に多い。軽傷者の数まで含めれば全員が何等かの怪我を負っている程だ。


 「結果としてだが、案山子は失敗だったな」

 「面目ない」

 「いや、頼んだのは俺だ、常葉のせいじゃない」


 ふう、と二人で重い溜息をついた。


 「結果としてだが、カノンに頼る事になっちまったな……ほんとモンスター族はこっち来てから強いよな……」

 「ゲームで制限がかかってたのがなくなったからね」


 そろそろカノンによる攻略が開始される頃か。

 そう思いつつ、被害をまとめる書類仕事に専念する二人だった。




 ――――――――――




 ブルグンド王国側は大騒ぎだった。

 当然だろう、死を覚悟して出撃したはずがまさかの大勝利だ。最近は暗い話題が圧倒的に多かっただけに誰もがうかれていた。


 「奴らもたいした事なかったな!」

 「おおよ!次は全員で殴って、奴ら全員叩き潰してやろうぜ!!」


 そんな声も街中では聞こえる程だった。

 そして、それは上層部も似たり寄ったりだった。

 無論、彼らはこれで終わったとは思っていない。だが、今日ぐらいはいいだろう、そんな気持ちだった。


 「まあ、精々楽しむがいいヨ。夢のまま終わらせてあげよウ」


 そんな呟きを漏らす鳥人の姿に気づく者は誰もいなかった。

 カノンの能力は風を操る。

 しかし、一口に風を操ると言っても実際にはその幅はかなり広い。例えば……気圧を変化させるというのもそうだ。

 気圧がどんどん低下していくとどうなるか?

 気圧が低い、という事はすなわち空気が薄くなるという事でもある。大気が薄くなれば……人が必要な酸素の量も十分な量が得られなくなる。低酸素症に陥った人は……自然と意識を失う。


 「やっぱり俺達の力は異常だナ」


 そして感覚も。

 と、声を出さずに呟いた。

 低酸素症では確かに意識を失う。だが、同時に重篤な症状や命を落とす者もいるのもまた事実だ。事実、こうして街中を見ても、多数の死者が出ている事を知る事が出来る。


 「この力も、死者が出てもなんとも感じない心モ」


 余りに危険すぎる。

 幾ら魔法に長けたエルフ族が、といっても小部族のエルフ達が大きな代償もなしに召喚する事が出来た相手がコレとは余りに異常にすぎる。

 

 「とはいえ、未だ特に異常もなシ」


 森が枯れる事もない。

 召喚に関わったエルフ達は元気なまま。

 自分達は精神面はともかく、肉体面は万全の状態。

   

 「……とりあえずは常葉に人形を送ってもらうカ」


 かくして、制圧兵器と化したカノンと、拠点制圧の為の歩兵を常葉が生み出し。

 僅か一晩で領都は陥落した。

 翌朝、うかれて酒を飲んで、目が覚めてみれば拘束されていた事に気が付いた人々はただひたすらに呆然としていたという。 

  

さて、本当に代償ないんでしょうか?

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