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南方攻勢終結

 王国軍の決死隊。

 それも、命がけで活路を切り開く、という意味での決死隊ではなく、最初から生還を考えず、自分達の誇りを示す為に戦う事だけを考えた死を前提とした文字通りの意味での決死隊。

 たかが五百、されど五百。

 それが馬蹄を轟かせて、突撃を開始した。


 その時、連合軍はどうしていただろうか?

 実は、特に何もしていなかった。

 いや、生活に必要な一般的な事、食事の支度や寝床の片づけ、兵士らしく武器の手入れなどはしていたが、まともに警戒している者は誰もいなかったと言ってもいいぐらい気が抜けていた。もちろん、事前に部隊長クラスには敵を威圧する為に数だけの案山子を用意する旨は伝えられていた。それを部下に伝えた部隊長も多かった。

 しかし、だ。

 いざ実際に見て、果たしてそれが案山子だと思えるだろうか?

 威圧の為に、案山子兵は見た目はしっかりしていた。

 それは彼らの考える案山子とはまるで違い、自分で動き、武器を持ち、鎧を着込んでいた。

 実際は動けるだけで、武器は見た目だけ、鎧はそう見えるだけの薄い木製だったが、見た目というのは実に重要だ。実際は同じ能力でも、見た目がきちんとした礼儀正しい人物と、見た目がだらしなく口調もいい加減な人物だったら、前者が採用されるだろう。

 そうして、見てくれ重視の案山子兵を見た結果、兵士達はどこかでこう思ってしまった。


 「なんだ、案山子なんて言ってたけど強そうじゃないか」


 それは彼らの抱いていた案山子と、現実に見た案山子兵の圧倒的なイメージの差にあった。

 ボロ切れで出来た粗末な人形が頭にあった兵士達は、眼前の屈強に見える動く案山子に対して安心感を持ってしまった。それが今の現状だった。

 そして、数千の人間が日常のおしゃべりをしながら日常生活を行い、その外では数万規模の案山子が歩く。

 たったそれだけの事でも、数が集まればそれは結構な騒音となる。そう、五百の無言の騎馬兵の突撃がかき消される程度には……。


 「ん?なんか音がしなかったか?」

 「え?気のせいだろ?」


 そんな会話を交わした直後。

 

 「!?て、敵だあああああっ!!」

 「ぎゃっ!!」


 王国軍が突入してきた。

 そうして、王国軍が突入した先で経験し、見たのはあっさりと吹き飛ばされる見た目だけは重厚な兵士と、油断しきった兵士達……。

 そんなものを見れば、体験すれば士気も上がろうというもの。


 「これぞ好機!!全員、つっこめえええええええ!!!!!!」

 「「「「「「おおおおおおおおっ!!!!!!」」」」」」


 元より全員が全員命を捨ててきた集団だ。一丸となって突っ込み、当たるを幸いと薙ぎ払った。

 結果、大混乱が生じる。


 「敵ってどこだ!?」

 「違う!敵じゃない、同士討ちだ!おちつけっ!!」

 「馬鹿野郎!!本当に敵が来てんだよ!!」

 「畜生!敵はどこにいるってんだよ!?」


 こうなると数が多い事が災いとなる。

 時間帯がまだ黎明という事も災いした。

 何せ、大半の兵士が寝起きか、寝ている状態から飛び出してきて、まだ頭が働いていない。

 おまけに、黎明という時間帯は人がいるのは分かるが、咄嗟に顔が分かる程ではないぐらいに薄暗い。

 死を覚悟した側は多少味方に当たろうが、気にせず武器を振るうが、そうでない側は間違えて味方に攻撃してしまった事に動揺し、また或いは味方かと思って躊躇った所を攻撃されと収拾がつかない状況となりつつあった。

 そして、寄せ集めの連合軍だった事で顔を覚えきれていない事もあった。

 最後は誰と言わず、一人、また一人と逃走を始めた。

 そうして、その流れは次第に大きくなり、全軍壊走へとつながった。


 最終的に、決死隊はまさかの一部が生還。

 死者総数二百八十名余。

 一方、連合軍側は実に死者総数は千を超えた。

 怪我人に至っては怪我をしていない者がいない、と言われた程の大混乱だった。

 この結果を反省し、連合軍は軍を分け、それぞれに得意な分野で協力して活動していく事になる。

 そして、これはブルグンド王国最後の奇跡の戦いと称される事となった。


 何故、最後となったのか?

 ……それは領都がこの翌日、誰もが歓喜に塗れ、街中が勝利の美酒にありつく中、陥落したからだ。


 「やれやれ、油断した連中の後始末とは面倒な事だネ」 

混乱すると数が多い方が不利になるというお話

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