新年特別回
あけましておめでとうございます
「しかし、改めて思う事だが……便利だよなあ」
ティグレが椀を受け取りながら言った。
「異世界で雑煮が食えるとは思わなかった」
そう、今彼らの目の前には雑煮が並んでいた。
当り前だが、ここが異世界である以上、雑煮を作るにはいささかならず材料が足りない。
例えば、餅を作るには当然、もち米が必要になる。
もしかしたら、こちらの世界にも、もち米はあるのかもしれない。ただし、一つだけ間違いない事実としてエルフ達は知らないし、米も見つからなかった。
しかし、常葉は植物の精霊王だ。
すなわち、それは植物由来の食材であれば何とかなるという事を意味する。
もち米を生み出し、一気に育て上げた樹木を用いて餅をつく為の臼を製作し、杵に関しては基本木製の槌なので、これはこちらの技術者にも問題なく作ってもらう事が出来た。
後は簡単だ。
ぺったんぺったん、何せ体力に関しては以前に比べれば圧倒的に現在が上回っている。
リアルならとっくに息が上がってしまうであろう作業でも「良い汗かいたな!」ぐらいの感覚で作業が出来た。
足りない知識は互いに補い合い、何とか彼らは雑煮、少なくともそう呼べるだけのものを作り上げたのだった。
「マリアちゃん料理上手だから助かったよ」
「お母さんのお手伝いしてるから……」
常葉とマリアが良い雰囲気で語り合っている横では。
「むう、嘴では食いづらいナ」
「あーそうだよね、お箸で小さく切るしかないんじゃない?」
と、カノンと紅がわいわいと賑やかに語り合っていた。
「これでおせち料理がありゃ完璧だったんだが」
「さすがに素材とかまで分かんないよ」
そんな光景を横目にぼやいたティグレにユウナが答えた。
「そんなものに関しては私の作成知識にもないしね」
と、咲夜も苦笑して言った。
そう、さすがに、おせち料理だけはどうにもならなかった。
例えば、昆布巻き。
何をどう巻けばいいのか、そもそも昆布はどのような風にして味付けすればよいのか。
黒豆も同じだ。黒い汁はどのようにして作るのか。
栗きんとんぐらいならまだ分からないでもなかったが、生憎ほとんどの料理に関してはどうにもならなかった。
しかし、それならせめて雑煮ぐらいは、と彼らは協力して頑張った。
本来は昆布出汁を作りたかったし、昆布ぐらいなら常葉が作れたのだが、生憎ただ昆布を作ればいいという訳ではない。それを出汁を取る昆布として使う為にはやっぱり加工が必要になる。しかし、そこまではさすがにどうにもならなかったので、諦めて干し魚を使って出汁を取った。
かまぼこだって作れてない。
それでも、何とか形になった雑煮だった。
それを同じく苦心惨憺して作り上げたコタツに足を突っ込んで食べる。
「こっちの世界の正月相当の儀式とやらも一度見てみたい気もするな」
「だとすると来年もいないといけない、って事になるよ?」
ああ、そりゃ駄目だな。
と、ティグレも笑って答えながら、雑煮をすすった。
今回は敢えて、これだけにしている。
……こちらの料理も美味いものはあるのだが、今日ぐらいは正月らしさを味わいたかったからだ。
「こうして雑煮を食ってるとさ……」
「「「「「「?」」」」」」
「俺らもやっぱり日本人だなあ、って思うよ」
そうティグレが笑うと、周囲も「同感」と笑うのだった。
海外に旅行とかに行くと、ご飯と味噌汁がむしょうに食べたくなったりします
そういう時、「ああ、自分も日本人だなあ」と思ってしまいますね
本年もよろしくお願いします