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南方攻勢11

 後に語られる王国最後の奇跡。

 その戦いは万を超える規模に膨れ上がった敵の姿を確認した時から始まったとされている。


 この状況を作り出したティグレ達は圧倒的多数を演出する事で、敵が諦めて降伏する事を狙っていたとされる。

 常葉とこはが作り出した兵達は確かに数こそ多かったが、その大部分は案山子同然だった。

 確かに常葉とこはは兵を作り出す事が出来る。しかし、それは即座に多数を生み出すものではない。

 ……いや、出来ない事はないのだが、それに関してこちらの世界で知った事は手間を省けば、その分、何かが抜ける、という事だった。


 例えば、それなりに強い兵士を短時間で多数生み出したとしよう。その場合、判断力に大きな問題が生じる事はまず避けられない。

 そう、いわゆる狂戦士と呼ばれる類のように、作成者である常葉以外の全ての生命を敵とするような代物となってしまう。

 これがまだ周囲全てが敵で、殲滅あるのみ!というならまだ使えるのだが、今回の場合は味方も多数存在する状況。到底そんなものを出す訳にはいかない。かくして、出来上がったものは見た目こそそれなりに立派だったが、内実は動けるだけ。

 作成者曰く「生れたばかりの赤ちゃんになら勝てるかも」という見た目重視のハリボテだった。

 

 ここでティグレや常葉にとって大きな誤算が連鎖的に生じてしまう。

 

 一つ目はティグレ達の所に桜華から連絡が入った事。常葉が生み出した子である桜華と彼は連絡を取る事が出来た。

 その内容は軍都の元指揮官から「話がしたい」旨が伝えられた。

 ここでまず、常葉が移動する事になったが、高速で移動する必要があった事からカノンに乗って移動した。結果、現場にはティグレのみが残った。

 

 二つ目は大軍の存在に何より油断したのが味方であった事。

 何せ、見た目だけは立派な数万に達する軍勢が到着したのだ。戦闘で疲れていた兵士達にとっては「これならもう大丈夫」と油断が生じてしまった。


 三つ目は王国軍の覚悟がこれで定まってしまった事にある。

 この時、王国の諸侯達は相談の末、名誉を取った。

 新しい南方諸侯が裏切った上、ここで旧来の南部諸侯まで裏切れば、南部の名誉は地に落ちる。

 彼らは覚悟を決め、若い者達は残らせた上で、せめて最期に見事な死に様をと参加する者は貴族兵士を問わない文字通りの無礼講での宴会を行った。


 ここでティグレだけになっていた弊害が出た。

 これまではカノンが盗聴を続けていた。

 しかし、カノンは常葉を軍都へと運んでいた上、そのまま常葉のサポートに回っていた。

 何せ、常葉もカノンも元は学生。交渉事となると不安を両者共に内心では抱えていた。そして、ティグレ自身も既に休んでいた。これは仕方ないだろう。指揮官である彼が常に緊張状態にあって、疲労を抱える訳にはいかなかったからだ。

 結果、敵の確認は一般の見張りに託された。

 無論、ティグレは「何か異常があれば叩き起こせ」と命じてはいたのだが……。


 「なんか賑やかだな」

 「宴会してるみたいだな」

 「指揮官に伝えるかあ?」

 「大丈夫だろ。てか、寝てるの叩き起こして伝えるのが『敵が宴会してるみたいです』なんて言えるのかよ?」


 といった会話があったらしい。

 結果、彼らは「放置しても大丈夫だろ」と勝手に判断してしまった。

 もし、ティグレがこれを知っていたら、別の反応をしていた可能性は高い。玉砕覚悟で打って出ようという敵が人生の最期と思い定めての宴会を行う、というのは割と聞く話だったからだ。しかし、その機会は与えらえる事なく終わった。

 そうして、翌早朝。

 南部連合の兵士達が寝ぼけ眼で起きようという時間帯。

 城門が開き、ブルグンド王国軍が打って出る。


 この時の兵力は数の上では南部連合軍およそ五万。

 王国南部諸侯軍は僅かに五百余。

 数の上では実に百倍の兵力差という圧倒的な差があったが、内実はハリボテ兵士で数を誤魔化した事で油断しきった寝起きの兵士達に対して、相手は生を捨てた死兵達で構成された完全武装の軍勢。それがこの後の結果にも大きな影響を与える事になった。

 王国軍の突撃に対し、何とこの時、油断しきった見張りの兵士達は「交代来てないけど大丈夫だろ」と、既に見張りの場を離れていた。

 しかも、大多数にとって皮肉にもハリボテ兵士数万が、完全に王国軍の軍勢を隠す目隠しになってしまっていた。 

 王国軍が数百に過ぎなかった事も影響した。

 結果として、彼らが突撃を開始した時、既に覚悟完了していた彼らは恐怖を紛らわす声を上げたりもせず、無言のまま突入した結果、接敵する正にその瞬間まで誰も南部連合軍の兵士達は気づかなかったとも言われている。

 そんな状況となれば、どうなるか。

 悲鳴が上がりだした事で、何かが起きていると気付いた者もいたが、後に生き残った者は「喧嘩でも起きたのかと思った」と述べている。


 かくして、ほとんどの者が気づかぬ間に崩壊は始まった。 

歴史ものの視点風で

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