南方防衛
これはもう撤退を条件に明け渡すしかないのではないか。
そんな話になっていた時、飛び込んできたのは極めつけの凶報だった。
「北方要塞が陥落しただと!?」
「いえ、正確には皇国軍の新兵器により要塞が大破した為、後退、再編したとの……」
「同じ事だ!!」
全員の顔が蒼白になっていた。
無理もない、とジェラール公爵は自分の顔色も似たり寄ったりだろうと思いつつ、焦りを隠せない。それだけ魔法で伝えられた緊急の連絡は衝撃だった。
『ケレベル要塞崩壊、北方軍要塞より後退』
ケレベル要塞は王国の北の守りの要だ。
その重要性は南の軍都サフィロの比ではない。当然、実戦経験豊富な精鋭が多数詰めていたはずだ。それが陥落した……。
皇国の新兵器という言葉も気になる。
だが、今は全てを後回しにして考えねばならない事があった。
「状況が変わった。おそらく、いや間違いなくこれから王国は大変な騒動となるだろう。そして、だ」
皇国の侵攻と、南方連合軍の侵攻、これらに全く関係がないと思うか?
そう問いかけると全員が沈黙した。
それが答え、とも言えるだろう。すなわち……。
「やはり関係があると見るべきでは?」
「さよう、皇国が大規模な動員と侵攻を開始すると同時に、南方からも突然連合した南の連中が束になって襲い掛かる。これが偶然な訳があるまい」
「だとすると拙いぞ、我々が動くのを奴らが黙って見ているとは思えん」
もし、無関係ならば南部諸侯としては一時和解して、北に援軍に向かう、という選択を取っただろう。
ケレベル要塞が陥落したとなれば、今は間違いなく王国存亡の危機だ。
無論、ケレベル要塞から後退した後もそれなりの砦はあるが、ケレベル要塞ほどの規模のものは存在しない。当然、北での戦闘は激しく、厳しいものになるだろう。
「だが、そうなると奴らを撃退しなければ諦めないだろうな」
裏で手を結んでいるとなると、軽く追い払った程度では済まないだろう。
南部の諸侯達が北へと援軍に行くのを阻止するだけでも十分すぎるほどの価値がある。アルシュ皇国とてここでケチったりはしなだろう。
となれば、一旦追い払おうとも追撃をかけて、しつこく時間稼ぎをされたら……。どちらにせよ一つだけはっきりした事がある。
「勝たねばなるまい」
ジェラール公爵の言葉に全員が頷いた。
「どの程度の協力かは分かりませんが、そう深いものではないでしょう」
「同感です。頑強に王国の統治下に入るのを拒みながら、皇国の統治下に入ろうとするとも思えない」
「かといって、対等な関係など皇国の連中が認めるとも思えん」
最後には全員が頷いた。
皇国の、もう王国が独立して長い年月が経つのに未だ「我々の方が上」という態度にはむかつくのだ。そんな皇国が未だ正式な国でもない相手に譲歩するとは誰も考えもしなかった。まあ、そんな皇国が相手だからこそ、全員が降伏など考えもせず、抗戦を選んだとも言えるが。
北も南も関係なく、王国貴族の皇国嫌いは筋金入り、という事だ。
「しかし、どうやって勝つ?そのような状況では王都に救援を求める事も出来まい」
求めた所で無駄だ、とは言わなかった。
というより、皇国との戦いが非常に厳しい局面に突入している状況で「援軍が欲しい」など口が裂けても言えぬと誰もが思ったとも言う。だからこそ、「出来ない」という言い方をした。
だが。
「……奴らのままなら、まだこちらにも勝ち目はある」
軍都を落とした軍勢が合流する前に叩くのなら。いや。
叩かねばならない。
かくして、王国の南では今一度の戦いが確定したのだった。
北が拙い
となれば、南も奮起する
それぐらいには王国貴族の皇国嫌いは徹底してます