96話 彼女にとって、それは今さら
「相変わらず、ここの飯は美味いな」
「そう? ありがとう」
優也は、テーブルに並べられた料理を次々と口へと運んでいく。
「これ、珠音が作ったんだろ?」
「えっ? どうして?」
「昔から珠音の飯を食ってきたんだ。それくらいわかるさ。それに、ここで出てくる親父の飯だって食いなれてるからな」
「……うん。私が作ったの」
やはり。彼女の作る料理には、どこか温かい気持ちになる。いわば、愛情がこもっている。
珠音の父が作る料理も絶品だが、珠音の料理も絶品だ。
ただただ飯を口に運ぶ優也の隣で、制服にお盆を持った珠音が、ふと笑う。
「ゆーくんがここに来てくれるの、久しぶりだね」
「んあ? そうか?」
「うん。ここんところ、忙しそうだったから」
「………………」
明元ひなこと出会い、彼女の夢であるすべての『美少女』を元の人間に戻すことを叶えるため、それに協力し、研究所に追われながら、ひなこが研究所に捕らわれ、無事奪還し、研究所所長を倒し、本部を壊滅させた。
思い返すだけでも、それだけの出来事が起きていた。
しかし本部を壊滅させたといえど、それは彼女の夢の一過程に過ぎない。今も夢を達成させることは継続中だ。
実際今もそう。夢の実現とは違えど、寺都芽久実が探している岡谷太一という研究者を見つけるために、シナプス計画の中枢、他の『迷い子』たちを操っている結野こころという少女を探している。
効率化の問題からひなことは別々に行動しており、何かあればすぐに携帯へ連絡するように指示している。
「ひなこちゃん?」
「ん?」
「携帯電話、横に置いてすぐに取れるようにしてるから」
「ま、まあな。そんなとこだ」
あいも変わらず勘が鋭いこと。
珠音のことだから嫌がればこれ以上探ってくるようなことはしないだろうが、ボロが出てしまわない内に本題へ入るとしよう。
優也が珠音の食堂へやって来たのも、なにも腹が減ったからとか、近くを通ったからとかではなく、ある目的があってのことだ。
「実はな、珠音に聞きたいことがあって来たんだ」
「聞きたいこと? なにか悩み?」
「悩みとは違うんだけどな、この写真見てくれ」
「?」
優也は大切に保管してあった一枚の写真を取り出す。
一人の少女、結野こころが写されたものである。
「ゆーくん、まさか——!」
「ん?」
「やっぱりロリコンだったの⁉︎」
「なわけねぇだろ!てかやっぱりって⁉︎」
完璧なるとばっちりだ。断固として否定。自身は健全だと主張する。
「だって、この写真って、あの時もゆーくんが持ってた物でしょ? それも大切そうに」
「いや、今は大切そうに持ってたのを否定しないが、あん時は俺落としてただろ」
これを持ち歩く時、どれだけひなこに忠告されたことか。絶対に汚すな、と。この写真が原本じゃなく複製だというのに。
「違うの?」
「ちげぇよ」
「そっか、なら安心」
「安心?」
「うっ、ううん、なんでもないよっ!」
慌てた様子で珠音は写真を手に取ると、それを矯めつ眇めつ。
この食堂、昔からの常連も多いが、案外新規客も来る。このこころという少女が一人で来店したという可能性は低いだろうが、何かの機会で見かけた恐れもある。
「……うーん、私は知らないかな」
「そうか」
「よかったら、お父さんやお母さんに聞いてみようか? それに、私の家食堂だから、来たお客さんにも聞けるよ?」
「いいや、それはいい。珠音が知らないならそれでいいよ」
「そっか。ごめんね、力になれずに」
「気にすんな」
「私も、どこかで見かけたりしたら、連絡するよ」
「それも大丈夫だ。知らないなら、このことは、珠音は聞かなかったことにしててくれ」
この件、『美少女』が絡んでいるというだけに、あまりおおごとにするわけにはいかない。巻き込む人間は最低限にすべきだ。それには無論、珠音も含まれる。
「……危ないことなの?」
「なんでそんなこと聞く?」
「ゆーくん、私を巻き込まないようにしようとしてるでしょ? そういう時って、決まって危険がともなうことだから」
「それは……。正直わからん。けど、俺はただの人探しだと思ってる。ただこの先に、俺が叶えたい夢があるんだ」
「……そっか。なら私は何も言わないし、今のは聞かなかったことにしておく」
「悪いな、心配ばっかかけて」
「ふふ。今さらだよ、ゆーくん」
「そうだな」
珠音は過去の優也を知っている。心配ならば、あの頃からかけていたか。




