89話 邂逅
太陽が真上にくる少し前、優也とひなこは元研究所本部へとやって来ていた。
ここで寺都芽久実が待っている。そしてついに、彼女が研究所第六研究室室長の岡谷太一を探す理由が明らかになる。
「寺都さん、どこにいるのかな?」
「第六研究室じゃないか。思い返せば、あいつとはあそこで会ってばっかだし」
過去に彼女と遭遇した回数、三回。内二回が第六研究室の中だ。
「普段、寺都さんってどうしてるんだろうね?」
「私生活のあいつか? 想像もできんな」
「どこに暮らしてるかもしらないもんね。学校は白雪ちゃんといっしょなんだよね?」
「みたいだぜ。言われりゃ、あいつの白衣の下に着てるのって制服っぽいしな。それに、姫がそう言ってんなら、そうなんだろうよ」
その言葉に、ひなこがくすりと笑った。
「なんかおかしなこと言ったか?」
「ううん。でも、優也くん、ふつうに白雪ちゃんのこと姫って呼んでるから」
「まあな」
彼女の前でなければ呼ぶ必要もないのだが、どうにもこっちの呼び方で慣れてしまっている。
「どう? 白雪ちゃんは」
「どうって?」
「ん? 優也くん的にはどうかなって」
「どうって聞かれてもな。何に対する感想を聞かれてんのかもわからんし」
「そっか。カメリアちゃんもそうだけど、白雪ちゃんも報われないねえ」
「報われる? なんのことだ?」
「こっちの話」
「なんだ。教えてくれよ」
「優也くんが気づいてあげるべきだと思うよ。もっとカメリアちゃんや白雪ちゃんのこと見てあげてね」
「?」
なんのことだかさっぱりである。彼女らを見た結果、何に気がつけばいいというのか。
そんなことに頭を悩ませていると、二人の後ろから、一人の声がやって来た。
「お久しぶりです、石崎優也さん、ひなこちゃん」
記憶に残っていた、どこか聞き覚えのある声。
振り返ってみて、それが彼女の声であったことを思い出す。
「門番」
「門番さん!」
そこに立っていたのは、優也が自身に隠された力『石裂き』のことを知り、二人が初めて『美少女』から人間に戻した少女、門番遥であった。
「門番さん!会いたかったよー!」
「私も会いたかったよ、ひなこちゃん」
門番遥の姿を認識した瞬間、ひなこは彼女に抱き寄る。
「久しぶりだな」
「お久しぶりです。私のこと、覚えていらしたんですね」
「当たり前だろ」
最後に門番の姿を見たのは、彼女を人間に戻したあの時だ。それ以来、彼女の行方は知りたくとも知ることができなかった。
まさかこんなところで出会うことになるとは。
「今までどうしてたの?」
「研究所に追われてたから、身を潜めてたの」
「やっぱり門番さんも追われてたんだね」
「うん。普通の人間に戻れたとしても、私が『美少女』であった過去が消えてなくなるわけではないから。それに、私は研究所へ入退出する人の監視を任されていた、いわば門番を務めていたし、研究所からしても生きて逃がすわけにはいかなかったんだと思う」
「なんか悪かったな」
「いいえ、貴方が謝ることではありません。悪いのは研究所ですから。私は人間に戻していただいて感謝していますよ」
「そうか」
そう言ってもらえると、なんだか嬉しくなってしまう。
「あと、私のことは、遥で結構ですよ。私の苗字は確かに門番ですが、そう呼ばれていたのは研究所での立場もあったので」
「遥ちゃん!」
「切り替え早いな⁉︎」
今までこう呼びたかったと言わんばかりに、ひなこは喜んだ表情を浮かべていた。
「まあそう言うならそう呼ばせてもらうよ。それじゃ、俺のことも優也でいいよ」
「わかりました、優也さん」
「それで、遥はどうしてここに?」
「突然研究所からの追っ手がいなくなったので、一度こちらを訪ねてみたのです」
「そうだったのか」
彼女が追われなくなったのは、もちろん優也たちが研究所の所長を倒し、本部を壊滅させたからであろう。
「もう気づいてるかもしれんが、ここは研究所本部じゃなくなった。というのも、俺ら二人が——」
「所長を倒したのでしょう?」
「——…………」
なんだか先を越されてしまった気分。
「流石はひなこちゃんと優也さんです。本当に研究所本部を壊滅させるなんて」
「知ってたのか」
「カメリアさんから聞きましたので」
「カメリアから? 会ったのか?」
「今朝早くに。私がここに来た時には、すでにカメリアさんたちはいらしてましたよ」
「たちってことは、アンたちもか?」
「はい。それと、寺都芽久実さんも」
「寺都とも会ったのか」
「寺都さんとは少し話をしまして」
「話? なんの?」
「寺都さん、岡谷太一さんを探しているそうですね」
「ああ。みたいだな」
「彼とは私も面識がありましたので。寺都さんに、私も協力することにしたのです。それに、貴方たち二人にも協力したいんです」
「俺らに?」
「はい。二人の望みは、『美少女』を人間に戻すことですよね。それに私も協力させてほしいのです」
「だけどな、俺が言うのもなんだが、これは危険なことなんだ」
「知っています。それでも協力させてほしいのです」
「下手すりゃ命だって落としかねねぇ。そんなことに……」
自ら協力したいだなんて。そんなことを言い出す人がいたとは……。
しかし遥の目を見ていればわかる。彼女のその気持ちは本物。本気で協力してくれると言ってくれているのだ。
「……わかった」
「ゆ、優也くん。ほんとにいいの?」
「お前がためらうなよ」
「そだけど……」
ただの普通の一般的で平凡な男子高校生に、突然協力してほしいと頼んできたのはいったい誰だったか。
「でも、最終的にかけつけてくれたのは優也くんだったよ?」
「それはそうだけど……」
なんだこの逆に言い負かされた感。
「けど遥ちゃん、もう『美少女』じゃなくなったから」
「ああ、そうだな」
異能力を使えない。
そんな協力者が無意味だといっているのではない。同じく『美少女』ではないカメリア・フルウも、十分と言えるほどに役に立ってくれているし、支えにもなってくれている。
そうではなく、ただ純粋に気が引けてしまうのだ。この夢の実現が、とても危険なことであることを知っているからこそ。
「それならば、ご安心を」
「え?」
優也が目の当たりにしたのは、遥の両腕に石でできた手甲のようなものが装備されていたことだ。
「それって……」
見覚えのあるそれは、遥と初めて戦ったあの日に、彼女が異能力で具現化した物、『美少女』にしか使えない武器であった。




