76話 秘伝の剣術を教わりました
「さて、まず何から始めたものかしらね」
ここは、優也の家からほどよく離れた位置にある河原。そこに局所的な結界を展開し、その中に優也とカメリアは向き合っていた。
ここに二人がいる理由は他でもない。二日前、優也が彼女に特訓を頼んだからである。
研究所本部襲撃の時に、結果的に所長を倒し本部を壊滅させたといえど、このままでは自分は誰一人として守れないと優也は自覚した。だから、こうして彼女に鍛えてもらおうと決意したのだ。
実はひなこも同じことをカメリアに頼んでおり、昨日はひなこの特訓をカメリアはしていた。家に帰ってきた彼女は、それはそれは疲れきっており、あのひなこが晩飯にろくに手もつけず眠ってしまっていたほどだ。
ちなみに、ひなこにはこの特訓のことは秘密にしてある。彼女には一度断られているし、変な心配をかけないようにするための配慮だ。カメリアがうまいことひなこを説得し、今彼女は家で留守番をしている。
「ユウヤはひなこと違って、戦いの根本から教える必要があるわね」
「根本?」
「第一の目標は、あたしの攻撃をかわせれるようになることかしら」
「それなら、ひなこに教わったぞ?」
「ああ、それであの時あたしの攻撃を避けれたのね。でもあれって、目に見えた攻撃だけでしょ。そんなの、誰だってできるわよ」
「誰だって……」
人が何時間を苦労して得たとは知らずに。それを当たり前のように言いやがって。
しかし何も言い返すことはできない。実際、視界外の攻撃を優也は避けることはおろか気づくことすらできなかったのだから。
「どうすりゃいい?」
「一番簡単な方法は殺気を感じ取ることね。それが分かるようになれば、目をつむってても避けれるようになるわ」
「本当にそんなこと……」
できるのだろうか。そんな漫画みたいなことが。
「だったら試してみる?」
挑発じみた表情で言うカメリア。
「避けれなかったら?」
「避けれるわよ。少なくとも、ユウヤの攻撃なら」
「ほう」
ならば、その挑発、乗ってみようではないか。
「あたしの武器、貸すわ。七星じゃないけど、おんなじような物だし、使えるでしょ」
細身の剣を虚空から取り出すと、それを投げ、優也の足元に刺した。
「本物使うのか?」
「当たり前でしょ。でなきゃ、リアリティがないもの」
一体どれだけ自信があるのだろう。
「さ、どっからでも来なさい」
優也が剣を手に取ったことを確認すると、カメリアは静かに目を閉じた。
「…………」
こういう状況、普通ならば背後から襲うのが一番気づかれにくいような気がする。しかしあえて、それを逆手にとって正面から突っ込むとしよう。
剣を構え、優也は抜き足差し足でカメリアへと近づく。
「…………」
自身の鼓動が、まるで耳から聞こえているような感覚。
人に武器を向けることは、決してこれが初めてではない。しかしいざ落ち着いた状況で、それをふるうとなると、平常心ではいられない。
誰かと戦うということは、これほど覚悟が必要なものなのか。
「……っ‼︎」
もはや勢いに任せて、優也は剣を振り下ろした。
「…………?」
斬った、という感覚はない。むしろ、中途半端な位置で腕が止まっている。
見れば、刀身がカメリアに当たる前、そこで静止していた。
その下では、呆れた表情でこちらを見つめるカメリアの姿が。
「あのね……、斬るつもりがないなら、避ける必要もないんだけど?」
「そうは言ったってな……」
普通の人間は、避けれるから大丈夫、なんか言われても、目を閉じた人に剣をふるえるかってんだ。
皆もそうだろう。友人と遊んでいて、同じ状況になったとして、容赦なく包丁を振り下ろせるかって話。
答えはノーだ。
「武器も扱えないようなら、特訓、やめたら?」
「待てよ。俺は武器を使うなんて一言も」
「あら、そうなの? あたしはてっきり、そのつもりだと思ってたけど。だからあたしに頼んだのかと思ってた。ひなこの七星だって扱えるわけだし、それがないにしろ、代わりの武器を使って戦うんだと。……違った?」
「…………」
違わない。まったくその通りである。そのつもりで、ひなこと同じように剣術を得意とするカメリアに頼んだ。
「ユウヤの覚悟ってその程度? ひなこを守りたいんじゃなかったの? 人に武器もふるえないような半端な覚悟じゃ、むしろ足手まといよ」
「足手まとい……」
優也のためを思ってカメリアが言ってくれたのは分かってる。
だから、その言葉が何より心に響いた。
「……悪かった。もう一回頼む」
「ええ、どこからでも」
再び目を閉じるカメリア。
今度は迷わない。彼女の夢を実現するため。そして彼女を守るために。
「あぁぁああッ‼︎」
剣を振り下ろした。
目は閉じなかった。だから見えた。華麗に、優也の剣筋を避けるカメリアの姿が。
偶然ではない。その剣の軌跡を読み取り、無駄なく彼女はかわしてみせた。
「……ね。避けれるでしょ」
「ああ……」
これが自分にも取得できるというのか。
「今の剣術、良かったと思うわ。伊達にあの子のそばにいるんじゃないのね」
「それは……」
「わかるわよ。あの子の刀の扱い方、そもそもあたしが教えたんだから」
「そうなのか?」
「昔に少しね、基礎みたいなのを教えたことがあるのよ。剣と刀じゃ扱い方が違うから、本当は自分流を見つけて欲しかったんだけど、前の戦いで、正直に昔のことを守ってるんだなって思った。だから、昨日の特訓では少しでも自分の戦い方を見つけれるように剣術を叩き込んであげたわ」
それでめっきり疲れていたわけか。
「んじゃ、俺にも同じことを?」
「いいえ、ユウヤの場合扱うのが七星とは限らないでしょ。だから、ユウヤには特別にあたしの流派を教えてあげる」
剣とも限らないんだが……。
「でもいいのか? そんな伝統的なものを簡単に教わって?」
「簡単? そう思ってる間はいつまでたっても会得できないわね。あたしの流派は、子孫に受け継がれて、一族以外知ることのできない門外不出の、由緒正しき剣術なんだから」
「俺はカメリアの一族じゃないんだが?」
「うっーー⁉︎ ううっさい‼︎ ユウヤは特別なのッ‼︎ わかった⁉︎」
「お、おう。わかった」
さて、何が特別なのだろう。




