70話 変わってる二人
「それで? 雪女はどうするつもりなの?」
「とりあえずは『結晶』を壊す。それ以降のことはこれから考える」
カメリアの説得に成功したところで、優也は白雪へ向き直る。
「つうことだ。悪いが『結晶』を壊させてもらうぞ」
「無理。却下」
「は?」
まさかこの期に及んで、こんな冷徹な態度を取れる人がいるとは思わなかった。
「ねえユウヤ。やっぱこの女、息の根を止めておいたほうがいいんじゃないかしら」
「と、とりあえず落ち着けカメリア」
気持ちはわかるが、その物騒な物を再び手にするのはやめてくれ。そして氷銀に向けて構えてるつもりなんだろうが、その間には俺がいる。
「今のこの状況で、お前が選べる選択肢なんてないんだぜ」
「では貴方は、私に人間として最低限の権利も与えないということ?」
「そういうことじゃねぇよ。じゃなくてな……」
彼女になんて説明をすれば理解してもらえるのだろうか。
いやそもそも理解してもらおうとすることが間違っているのか。『結晶』破壊を彼女が納得しないのだとすれば、次なる手はこれだ。
「それじゃあ俺たちに協力してくれ」
「は?」
「はあ?」
揃って問い返すカメリアと白雪。
実はお前ら仲良いだろ。
「ちょっ、なに言ってんのユウヤ⁉︎ コイツの協力なんて死んでもゴメンよ。それならあたしから降りるわ」
「お前がこいつを嫌ってんのはわかってるが、早まんないでくれ」
「だいたいコイツがそんな提案に乗るとでも」
「その代わり一つ条件があるわ」
「ハア?条件?」
今日はえらく忙しいやつだなカメリア。
「私のことを、姫、と呼びなさい」
「姫?」
なんで姫?
氷銀白雪を姫……。氷銀白雪、姫……。……氷銀、白雪姫……。
「もしかしてお前ーー」
「それ以上言ったら殺す」
喉元に当てられる扇子。
「優也くん!」
「ユウヤ!」
とっさに彼のもとへ近づこうとするひなことカメリア。その二人へ、白雪は鋭利な氷柱を向けた。
「……で、わかった?」
「あ、ああ。わかった」
たかが扇子だが、されど扇子のように感じられた。
「それじゃあ呼びなさい。貴方に協力するしないもそれから」
「協力しないってこともあんのーー」
さらに力を込められる扇子。質問も良しとしない姿勢。
なんで追い込んだはずの優也が、逆に追い詰められているのだろうか。
「わかった呼ぶから。呼ぶから、ひなことカメリアに向けたそれをしまってくれ」
あと扇子もどけてくれ。
「仕方ないわね」
優也の意思が通じたのか、白雪が扇子と氷柱の武器をなおす。
早く呼べと言わんばかりの視線を受けながら、優也は口を開いて息を吸い込む。
ーージリリリリリリリ‼︎
その瞬間、耳をつんざくような警報が辺り一帯に鳴り響いた。
「な、なに?」
「急になんだ?」
こういう状況になれているのかカメリア含め第一部隊と白雪は落ち着いた様子。
「火事か?」
まさか。この建物にいるのは、ここにいる八人で全員のはず。
「ユウヤ、所長は?」
「『結晶』と『原石』を呑み込んで、それで……」
「殺したの?」
「ああ」
「確実に? 死んだのを確認した?」
「いや、それは。だがあれは……」
所長の最後の姿が思い出される。今でも自分がやったと信じられない。
「所長の仕業ね」
「どういうことだよ。死人に何ができるって」
「生きてたのよ」
「はあ?」
四肢を失い、体のいたるところを滅多刺しにされた彼が生きていたとはどういうことか。
「それ以外考えられないわ」
「だからどういうことだよ」
「起爆装置が作動したのよ。あれは研究所最奥の研究室にしかない。しかも起動の権限があるのは所長だけなの」
「おい。マジかよ……」
所長が生きていたということもそうだが、起爆装置って……。
「ここを爆破するつもりか⁉︎」
「どうやらそうみたいね。あたしらもろとも研究所を吹き飛ばすつもりなのよ」
最後の最後で、とんでもない足掻きを見せてきたな。
「とりあえず逃げるわよ」
「逃げるって」
「いいから早く! 走るのよ!」
カメリアに続いて、研究所の出口へ向けて走り出す新鋭隊第一部隊とひなこ、優也。
「ひなこ、大丈夫か? もしあれだったら背負うぞ?」
「うん、だいじょぶだよ。わたしのことなら心配しないで」
「しんどくなったら遠慮せずに言えよ」
「ありがと」
ふと、一人足りないことに気がついた優也は、後ろを振り返った。
「おい! 氷銀! 何やってんだ!」
「だから私のことは姫ってーー」
この状況になっても、そんなことを言う白雪を、優也は手を引っ張って問答無用で連れて走り出す。
「どういうつもり? 貴方に連行される覚えはないのだけど。それとも私に恩を着せたつもり?」
「恩だ? そんなもん勝手に着せられたと思っとけ。いいから走るぞ!」
「……なにがしたいの、貴方」
「言ったろ、俺はお前を協力者にするって。こんなとこで死なれちゃ困るんだ」
「最終的に決めるのは私とも言ったけど。協力しないという選択肢も私にはあるのよ?」
「好きにしろ。断られたら諦めるさ。こんなこと、無理強いして頼める願いじゃねえって俺が一番わかってる」
この夢の実現に、どれだけの危険が伴ってくるか、それは優也が身をもって体験したこと。
「だけどな、それでお前が死んでいい理由にはならんだろ。こうも言ったよな、お前には生きててほしいって」
「……変わってるわね、貴方」
「よく言われる」
優也からしてみれば、敵だったからとか、そんな理由で見殺しにする方が、よほど変わってると思う。
「大体、私は死のうなんて思ってないけど」
「だったらなんで逃げなかったんだよ」
「逃げる理由もなかったから」
「そうかい」
さっきの言葉、そのままそっくり返してやろう。
変わってるな、お前。




