68話 死を以て彼女の敗北となる
「…………」
首に剣を当てられたまま降参も抵抗もしない白雪。
決して勝利を収めるまで武器を納めることのしない湊。
両者の無言のにらみ合いが続く。
「正直驚いたわ。あんたたちが、あの雪女を追い詰めるなんて」
今まで壁にもたれて戦いの行方を見届けていたカメリアが、湊らから離れた位置に立っていた萌香、薫のそばへ歩み寄る。
「この作戦、湊さんが考えたんですよ」
「湊が?」
「はい」
何事にも慎重な彼女が、これほどまでに大胆な作戦を立てるとは驚きである。
確かに湊の剣術には流石の白雪も一筋縄ではいかない。しかし、通常でいけば前衛対異能力メインの後衛。明らかに白雪が優勢だ。
そんな白雪の隙を突いた本作戦。一見すれば慎重で、とても素晴らしいものではあるが、あの白雪が湊の存在を忘れるという前提のもと成り立つものでもある。もしも白雪が少しでも湊のことに気を配っていれば、メンバーは全滅だ。
それを考えれば、なかなか踏み切りにくい作戦でもある。
現に、カメリアならば実行はしていなかっただろう。
「最初、カメリアさんを救うために救出隊の話を持ち出したのも湊さんなんですよ」
「萌香じゃなかったの?」
「あ、アタシも言おうと思ってたんすよ⁉︎ けど湊に先を越されたんす……」
「別にあんたを責めてるんじゃないわよ」
誰が言い出したとかは重要ではない。ただ、湊が言い出したというのが意外だっただけだ。
「…………」
「どうかしたんすか、姉御?」
「いいえ。あたし、あの子のこと少し勘違いしてたみたいね」
「?」
心配性で優柔不断だと思ってた。けど、いざという時の決断力は他のメンバーの誰よりあるのだろう。
「……さて、いい加減あの二人のにらめっこをやめさせないとね」
未だに両者一歩も譲らない湊と白雪。その二人の元へ、カメリアが歩み寄る。
「みっともないわよ、雪女。負けた時ぐらい見栄はらずに素直に認めなさいよ」
「は? 貴女にだけは言われたくないわね。最後まで無様に足掻いて、挙句部下の手まで借りるような、みっともない爆発女さん」
「…………」
ほんと一言一言、人の腹の立つことしか言わない奴だこと。
「なっ! 姉御はーーんんっ」
もちろん反論しようとする萌香を手のひらで黙らせ、カメリアは喋り出す。
「そうね。あたしは出来の悪いリーダーかもしれない。私用にこの子たちを使ったことは反省してる。でもね、あたしは目的があって最後まで必死に足掻いてた。それが例えどんなに無様でも、あたしは後悔なんかしてない。アンタとは違う」
「…………そ」
とてつもなく面白くなさそうに白雪は、そう短く呟くと、湊の剣から首を離した。
「私の負け。それでいいわ」
半ばやけくそな敗北宣言。その後に白雪は続ける。
「それじゃ、私を殺しなさい。貴女も気づいてると思うけど、私は研究所に操られてなんかいないわ。これは本意そのものよ」
「そうよね。誰かの言いなりになることが嫌いなアンタが、意思操作なんか受けるはずがないものね」
「わかってるじゃない。流石は爆発女ね」
「あら、珍しく褒めてくれるのね。あたしも、アンタのことぐらいお見通しよ、雪女」
白雪自ら述べた様に、彼女は研究所からの意思操作を行われていない。ひなこを連れ去ったことも、カメリアらと戦ったことも、全ては彼女の意思そのものだ。
そんな彼女を生かしておけば、今後優也たちに与える影響は計り知れない。ここで始末しておいて損はないだろう。
それに、新鋭隊第二部隊隊長の白雪は『美少女レンタル』の対象外だ。彼女が死ぬことで制約第二番による存在抹消を行われる者もいない。
「最後に一つ確認しておくわ」
「なに?」
「あたしたちに協力する気は?」
「貴女が土下座して頼んでもあり得ないわ、爆発女」
「なら安心しなさい。アンタに土下座するなんて死んでもあり得ないから、雪女」
カメリアは剣を取り出し、それを構えた。
「それじゃ」




