54話 三強
「ひなこも戻って来たし、俺からの質問いいか?」
「ええ、あたしが知ってる範囲で答えるわ」
まず聞くべきことは決めてある。
「俺らの監視にカメリアが選ばれたっていってたが、他には誰がいる?」
「監視役を任されているのは、あたしと、あたしが率いてる新鋭隊の第一部隊のメンバー四人だけよ」
「四人……。そいつらも、お前の時みたく俺らを襲ってくる可能性があるんだよな」
「それなら大丈夫だと思うわ」
そうはっきりとカメリアは言い切った。
「なんでよ」
「第一部隊はあたしがリーダーなのよ。リーダー不在で部下が勝手に動くと思う?」
「だが、お前の敵討ちとかで来るかもしれんだろ」
「それならあり得ないわ。あいにく、そんな一時の気の迷いで行動するような子たちじゃないから。あたしの帰還を待つか、この任務から降りるはずよ」
よほどに自信のあるメンバーたちなのだろう。そう語るカメリアの顔を見ていれば、根拠はなくとも優也も信じるに値するような気がしてきた。
「そんじゃ、他の『美少女』で俺らを捕まえようとしてるやつらはいないのか? 例えば、別の新鋭隊の部隊とか」
「他にはいないはずよ。新鋭隊ならもう一つ、第二部隊があるけど、動きはなかったわ」
どうやら、新鋭隊という組織には、カメリア率いる第一部隊と、第二部隊というのが存在するらしい。
「けど、第二っていうからには、カメリアの第一部隊の方が強いんだよな?」
これはあくまでも優也のイメージに過ぎない。番号の若い方に強い人が集まっているという印象がある。
「まあ、普通ならね。けど、他の研究所の支店には新鋭隊は第一部隊までしかないから。本部くらいよ、第二部隊まであるのは」
「それは規模が大きいからか?」
「いいえ、違うわ。だから、普通は、って言ったの」
「どういうことだ?」
「忌々しいことだけど、あたしらより第二部隊のアイツの方が強いわ。だから、第二部隊ができたの」
「待て、意味がわからん。てか、アイツって?」
「第二部隊は、部隊なんて言ってるけど、メンバーは一人だけなの。アイツが研究所に来るまでは、新鋭隊は、あたしが率いてる第一部隊だけだったの。けど、アイツが強すぎて、第二部隊が作られることになったのよ」
「そんなに強いのか、その第二部隊のリーダーは」
「まあね。『美少女』史上稀に見る逸材なんて言われてるわ。まあ、『美少女』全員でみれば三強にすら入らないけどザコだけど」
やたらに念のこもった言い方。二人の間には何かあったのだろうか。
そんなに強いというのならば、今後とも出会いたくはないが。しかし優也たちを襲ってくる危険性がないというのならば、ひとまずは安心である。
「三強?」
「研究所に登録されてる『美少女』の中で、異能力使用を前提としたトップ3のことよ」
「強いってことか?」
「まあ、その解釈で間違いないわ」
「そん中に、お前やひなこは?」
「入ってるわけないでしょ。ちなみに、アンタらが戦った門番遥も違うわよ。あたしらがランクインしようなんて、何人分の指がいるか分かったもんじゃないわ」
「んじゃ、誰がいるんだ?」
「言っても分からないでしょ」
間違いない。優也が存じ上げる『美少女』は、先程違うと否定された三名のみなのだから。
「一応言うと、一位がコード・ゼロ、二位がブレティラ・ストリアタ、三位が紫雲れんげよ」
「? 紫雲れんげって確か、『石拾い』とかいう異能力を持ったやつか?」
「ええ、そうよ。知ってたの?」
「まあな」
門番との戦いの際、優也が逃げ込んだ部屋で見つけた資料に載っていたのを覚えている。
「そいつを俺らの仲間にできたらなと考えてたからな」
「あら、それなら残念ね」
「どういうことだ?」
「紫雲れんげは、現在レンタル中よ。ちなみに、あたしたちと同じ研究所本部所属の『美少女』ね」
「んじゃ近くにいるのか?」
「それは分からないわ。でも、日本のどこかには。確か、どっかの芸術家が一生コースで借りてるって噂だけど」
「一生コースか……」
となると、この先出会える可能性が低いということ。
「えー、会いたかったなぁ、れんげちゃん」
大層残念そうにため息を漏らし、肩を落としているのはひなこだ。彼女の場合、残念がる理由が少し違うように感じられる。
それにしても紫雲れんげがレンタル中でなければ、研究所本部を壊滅させれば、出会えたかもしれないと考えていたのだが。
しかし、無い物ねだりをしても仕方がない。運良く紫雲れんげと出会えることを願うよりも、他の作戦を考えた方が余程現実的だ。
「三強とかいうランキングの一位と二位、あー……、なんだったか、なんとかゼロと、ブレ……なんとかは、どんなやつなんだ?」
「コード・ゼロと、ブレティラ・ストリアタよ」
「あー、そいつら」
一位のコード・ゼロは覚えれたが、二位の方は数時間後には忘れていそうな名前である。
「コード・ゼロはあたしも知らないわ。会ったこともないもの。もしかしたら、他の支部か、海外の支部の所属なのかもしれないわね」
「自分が所属してる支部以外の『美少女』とは会ったりしないのか?」
「なかなかないわね。あたしみたく新鋭隊とかなら、外に出ることも多いから機会はあるだろうけど、普通『美少女』が居住区から出るときは、誰かにレンタルされた時だから。外部との繋がりなんて滅多にないわよ」
前に、似たようなことをひなこが言っていたのを思い出す。あの時は、ひなこの両親について話していたときだったか。
研究所は、サービス、つまりは『美少女』のレンタル以外では外との繋がりをシャットアウトしているために、彼女らは親や家族と会うことすらないのだという。
『美少女』の少女らは会いたいと感じないのだろうか?
……いや、それは分かりきった質問だ。
『美少女』は研究所に思考を操られているわけで。そもそも、そうでなくとも、彼女らは、この世に何かしらのトラウマを抱えた子たちばかりだという。寂しいや会いたいと思うのならば、最初から研究所なんて施設には入っていないことだろう。
「ブレティラは?」
「アイツね……」
途端、カメリアの表情がきつく変わる。
「イタリアの研究所に所属してる『美少女』だったと思うわ。あたしも一度だけ会ったことあるけど、超がつくほど性格の悪い女よ」
「お前みたいにか?」
「ああ? なんか言った?」
「……いや、なんでもないです」
そんなに怒らなくても……。
「今後出会ったとしても、アイツとだけは関わらないことね」
「そんなに性格の悪いやつなのか?」
「例えるなら悪魔ね。アイツは、人を人として見てないもの。もちろん『美少女』もね」
「人間を物として見てるってことか?」
「物以下ね。アイツにとって自分以外の存在なんて、ただそこにいるだけ。利用できると思えば利用するし、いらなくなればすぐ捨てる。ブレティラにとってこの世の全ては必要なものであり、必要ないものなの」
「そんなやつもいるんだな」
人間十人十色というが、それは『美少女』になっても変わらないということか。
「でも、ひなこも、門番やお前を倒したんだ。もしかしたら三強にだって敵うかも」
「不可能ね」
「言い切れんだろ。なあ、ひなこ?」
「うん。わたしも強くなったとおもうよ」
「あたしを負かせた程度で図に乗らないことね。命取りになるわよ。三強からしたら、ひなこなんて、ひよこ同然よ」
「ひなこだよ!」
「いや、そこはひよこでいいだろ」
「あっ、そっか」
カメリアがそこまで言うのだから、調子には乗らない方がいいのだろう。
けど、
「だとすりゃ、そんなやつらが俺らを捕まえに来たら一貫の終わりだな」
「その可能性は低いと思うわよ」
「そうなのか?」
「さっきも言ったけど、紫雲れんげはレンタル中だし、ブレティラについちゃ、行方不明なのよ」
「行方不明?」
「彼女、レンタルが終了した直後から行方をくらましたのよ。それ以来、見つかっていないわ」
「そんなことがあったのか」
「だから、どっかでくたばっていたとしてもわからないわね」
「…………」
敵といえども、なるべくその現実は避けたいものである。
「一位のコード・ゼロは?」
正直言って、この『美少女』が一番遭遇したくない人物である。
「コード・ゼロは本部所属じゃないもの。わざわざこっちまで来ることはないと思うわよ。まあ、そういう点ではブレティラも同じね」
「そっか。……つっても、安心はできないよな」
「当たり前よ」
カメリアを倒した今、次に研究所が誰を使者として優也たちを襲わせるか分からない。三強でないにしろ、ひなこより強い『美少女』がいないとは考えづらい。
そうならないためにも、
「研究所本部を壊滅させるのが先決だな」
最終的に行き着くのは、ここなのだ。
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