36話 落とし物はどこですか?
「探すったって、どこで無くしたかわかんないんだろ?」
「うん……。でも見つけないと。大切なものだから」
それほど思っていてくれていることは素直に嬉しいが、見て分かるほどに焦っていては、探し出せるものも、きっと見失ってしまう。
「とりあえず落ち着け。まず、どこで無くしたか思い出してみるんだ」
「それが思いだせないの」
「そんじゃ、どっから買い物袋を持ってない?」
「んー…………」
ひなこは、記憶の奥深くに潜り込む。
「……このねこさんをもってるときには、もうなかった気がする」
「てことは、ゲーセンか……」
確かに。思えば、ゲーセンでクレーンゲームをプレイしているときに、優也はひなこから買い物袋を預かっていない。もしも預かっていたのならば、その隙に彼女へのプレゼントを抜いていたであろう。
ひなこが持ったままという線は薄い。なぜなら、あの袋を持ちながらゲームをプレイできないからだ。
となれば、あの時にはすでに買い物袋を無くしていたと考えるのが妥当である。
「とりあえずは、ゲーセンで探してみるか」
「うん……」
いつも元気いっぱいのひなこが、ここまで落ち込んでいると、彼女が彼女でないようだ。
「…………」
ひなこを楽しませるために連れてきた、今回の買い物。
一刻も早く見つけ出して、彼女の笑顔を取り戻そう。
数十分前、そう決心した優也。
「……ゲーセンにも無かったし、フードコートでもなかったか」
「…………」
残念なことに、ゲームセンターで、優也たちが歩いた道を辿ってみたが、買い物袋は見当たらなかった。もしかしたら誰か拾ってくれているのかと、店員にも確認してみたが、そういった落とし物は届いていないそうだ。
その前、二人が昼食をとったフードコートも探すも、座っていた席やその辺りには無かった。
「これより前っていうと……」
「……わたしがころんだときかも」
「ああ。あん時か」
そういえば、優也がひなこをフードコートに連れて行ったのは、彼女が空腹のあまり、通路で倒れたからだった。
確かに、その時に落として、腹ペコに加え、ご飯を食べられるという嬉しさのあまり、気付かずに歩き出したと考えれば、ひなこの場合は自然である。
「あの場所に探しに行ってみるか」
「うん……。あるかな……?」
「あってほしいけどな」
あるさ、と言ってやれたら、どれだけ良かったのだろうか。だがそれは、ただの優しい気遣いに過ぎない。そんな無責任なこと、優也には言えなかった。
しかし現実的にそこにある確率なんて、どれだけ低いだろうか。ひなこが転んだのは通路の真ん中だ。そこに買い物袋が落ちていたとして、あれから数時間が経過している、未だに落ちている可能性は、今までに道行く人たちが全員無視した確率と同じだ。それがあり得たとしたのならば、買い物袋は見つかるだろう。
(鼻から無いと決めつけるのもな)
あってほしいと願うひなこに失礼だ。
だが、これだけははっきりと言い切れることがある。あそこになければ、もう見つからない。なぜならば、転んだ直前まで、優也が買い物袋を預かろうと挑戦し、その存在を確認しているからだ。
(ひなこには悪いが、そん時は諦めてもらおう……)
それから少しして、優也とひなこは、最後の望みである場所へと到着した。
「…………なさそうだな」
「…………」
辺りを見渡せど、人ばかり。どこかに置かれていたり掛けられている様子もない。
ここまで無いとなれば、やはり拾った誰かに盗まれてしまったと考えるのが正解だろう。
しかし、その事をひなこに告げるには、あまりにも残酷で、優也にはできなかった。
とはいえ、横で、見るからに悲しむひなこを見ていると、諦めろ、とも言えない。
ここで自分がするべきことは、彼女を励ましてやることだろう。
「まあ、また買ってやるから、そんな落ち込むなって」
「あれじゃないとやだ」
「嫌て……」
駄々こねる子どもか、こいつは。
「おんなじ服だったら問題ないだろ」
「ちがうもん」
一体何が違うというのか。
「つっても、見つからねえんだし、このままじゃ無くしたままだぞ?」
「それはそうだけど……」
あの時に購入した物でなければ気に入らない、と。
さて、どうしたものか……。
頭を悩ませる優也のそばへ、歩み寄る人物が一人。
「ゆーくん、こんな所にいたんだね。やっと見つけたよ」
「おお、珠音か」
「何度も電話したんだよ?」
「まじか。悪い。気付かなかった」
スマホを取り出して確認してみれば、珠音からの着信が二件。何か急ぎの連絡だったのだろうか。
「どうかしたのか?」
「うん。ひなこちゃんが無くしたって言ってた服、インフォメーションに確認してみたんだけどね、」
「みつかったの⁉︎」
誰よりも早く反応し、先走ってしまったのは、ひなこであった。
「ひなこ。だから、少しは落ち着けって」
「…………」
焦る気持ちは十分に分かり、そこまで大切に思ってもらえてるのだと嬉しいが、正直に言って、こんな彼女見ていられない。
「悪いな、珠音。そんで、どうだった?」
「落とし物の中には見つからなかったみたい。ごめんね?」
「いや、珠音が悪いんじゃねぇんだから、謝ることねぇよ」
落としてしまったことに気付かなかったひなこ自身が、もっと言えば、ひなこに持たせてしまった優也の責任だ。
珠音は無関係でありながら、こうして協力してくれているのである。何人も彼女を責めることはできないし、彼女が責任を感じてはならない。
「それでね、見つかったら連絡するって言ってたから、紛失届にゆーくんの名前と携帯番号書いておいたけどよかったよね?」
「助かる。何から何まで悪かったな」
「ううん。気にしないで」
そうは言っても、何かお返しをしなければ気が済まない。
「なんか俺にして欲しいこととかないのか?」
「してほしいこと?」
「ああ、なんでもいいんだ。飯おごってほしい、とかなんでも」
「うーん……。あっ、それなら」
「なんかあるのか?」
ならば、それを今回の件のお礼とすることにしよう。彼女のことだ、変なことを頼んできたりしないことは知っている。
珠音は、肩から掛けていたバッグの中から何かを取り出そうとして、
プルルルル、と着信音が鳴りだした。
「……あ、お父さんだ」
どうやら、珠音の父親からのようだ。
「お父さん、どうしたの? え? …………、あ、うん。今ゆーくんと。…………そっか、分かった」
通話終了をタップして、珠音はスマホをバッグの中へとしまった。
「ごめん、ゆーくん。お父さん、待ってるみたい」
「おう、そうか。こっちこそ、引きとめて悪かったな」
「ゆーくんに頼みたいこと、今度話すね?」
「わかった。んじゃあな。気をつけて」
軽く手を振って、人混みの中へ消えてゆく珠音と別れた。
「…………」
優也が横を見やれば、ひなこは未だ落ち込んだ表情でいる。
「そろそろ元気出せって」
「…………」
「クレープでも食うか?」
「うん」
そこは即答なのな。
「クレープ食ったら、とりあえずはまあ、いったん家に帰るか」
「……わかったよ」
あとは親切な人がインフォメーションへ届け出てくれるのを信じて待つしかないのだろう。
そして、その時まで、元気なひなこが帰ってくることはないのだろうか。




