31話 運VSゲーム
「んじゃ、抽選会場に行くか」
「うん!」
今回の目玉イベントである抽選へと向かうため、優也とひなこはフードコートを後にし、通路へと出た。
「運がいいつってたが、全部参加賞だったらどうする?」
さすがの彼女でも落ち込むのだろうか。
「………………」
しかし、待てど暮らせど返事がない。
「ひなこ?」
まさか、また空腹で倒れてるんじゃないだろうな?
振り返って見てみれば、まさか、そういうわけではなく、フードコートを出て間も無くのところで、ひなこは立ち止まっていた。
「どうした? なんか見つけたのか?」
「ん? 優也くん、あれはなに?」
ひなこが指差すは、フードコートの横にある、ゲームセンター。その入り口に置かれたクレーンゲームだ。
「クレーンゲームって言って、お金入れて中の景品を取るゲームだな」
「おもしろそうだね! やってみてもいい?」
「構わんが、簡単には取れんぞ?」
「優也くん、わたしはね、」
「運がいいんだろ? 聞いたよ」
とはいえ、クレーンゲームは運だけで取れるものではない。
「ま、少しやってみるか」
もしかしたら、が起こるかもしれないし。
優也もゲームセンターなんて久しぶり、クレーンゲームは特にだ。取れないからやらないだけでもあるが。
抽選会場へ向かう前に、二人は少し寄り道。時間はたっぷりあるから問題ない。
「どれか欲しいものはあるか?」
「んっとね……」
何台も並べられたクレーンゲームの景品を見てまわるひなこ。
やがて、一つの台の前で立ち止まる。
「これ。これが取りたいな」
「どれだ?」
ひなこが選んだのは、猫をモチーフにしたであろうキャラクターのぬいぐるみだ。
クレーンゲームにも様々な種類があるが、彼女が選択したのはオーソドックス、箱に入った景品を持ち上げて、取り出し口まで運んで落とすというもの。
非常にシンプルだが、クレーンのアームを引っ掛ける場所が限られているので、優也的には難易度は高い。しかも、ぬいぐるみを箱に入れてるだけに、かなり大きい。
ちなみに、一回一〇〇円、五〇〇円入れると六回プレイできる。
もちろん投入する金額は、五〇〇円である。
「やり方、知ってるか?」
「ううん。知らない」
「んじゃ、まず俺がやってみるから見ててくれ」
「わかった」
優也は、ゲーム台の前に立つ。
「ここにあるボタンで、このクレーンを動かすんだ。まず左に動かす」
ボタンに連動し、クレーンが動き出す。
「ここだと思ったところでボタンを離すんだ。そんじゃ、クレーンも止まるから、今度は、さっきの隣のボタンを押して奥に動かす」
優也の操作で、クレーンは景品の真上へと移動した。
「あとは取れることを祈るしかないな」
「そんなにむずかしそうじゃないね? なんだかいけそうな気がするよ」
「見てる側は、な。やってみりゃわかるさ。案外思うところに動いてくれないんだよ。あと、」
話をしている間にも、クレーンはアームを広げ、景品へ到達、箱の側面に設けられた穴にツメが入り、
「アームが軽い」
少し動いて、クレーンだけが上へと戻っていった。
正直、クレーンゲームで一番景品が取れない理由はアームの軽さだ。これが問題なけりゃ、クレーンゲームはそれほど難しいゲームではないだろう。
「ま、こんな感じだな。わかったか?」
「うん。がんばってみるよ」
「おう。頑張れよ」
優也は選手交代。今度は、ひなこがゲーム機の前へと立つ。
「まずは左へ動かすんだよね」
クレーンが横へと動き出す。
「ここ!」
クレーンの位置は、
「うーん……、すこしズレたかな?」
「まあ、そんぐらいだったら問題ないだろ」
景品が取りづらくなれば、店員に頼んで元の位置へ戻してもらえばいいだけだ。
「次は奥だね。……でも、どこまでいったらいいのかわからないよ?」
「そんな時は、台の横から見ながらボタンを押すんだ」
「? こう?」
「そう。それなら奥行きがわかりやすいだろ」
「ほんとだ!」
クレーンが動き、景品の上へと到着する。
あとは、運任せだ。
「………………、あっ! あ、あぁ……」
「まあ……、クレーンゲームは、何度も挑戦あるのみだから」
「うん。まだチャンスはあるからね」
とは言ったものの、結局、ひなこがチャレンジした五回、すべてが失敗に終わってしまった。
「うぅ……、優也くん……」
自信満々だっただけに、その結果に、ひなこは半泣き状態だ。
「どんまい。まあ、クレーンゲームなんてこんなもんだ。何回も挑戦して取るもんだからな」
その末、景品を獲得できる。しかし、その頃には取った景品の価値より高い金額を払ってしまっているものだ。
とはいえ、さすがに初ゲームセンターで何も得ずに帰るというのはかわいそうか。
「取れるかわからんが、俺的にこれよりも簡単に感じる台に移るか?」
「そんなのがあるの?」
「まあな」
取れる保証はないが。
そうして優也が案内したのは、アームが三つあるタイプのクレーンゲームだ。
「これなら、まだ景品が安定して運べるからな。やり方は、さっきのと同じだ」
「わかった。やってみるよ」
欲しい景品を探し出すひなこ。
そして、一台のゲーム機の前で立ち止まる。
「これを取ろうかな」
「わかった」
優也はお金を投入。
ひなこか選んだ景品は、可愛らしいクマのキャラクターのキーホルダーだ。
これならば、先ほどのぬいぐるみよりは断然に小さく軽い。
「………………」
よほど、先の結果に納得していないのだろう。ゲームに向かうひなこの顔つきは、真剣そのものだ。
一回目、失敗。
二回目、失敗。
そして、三回目。
「…………あっ! 優也くん! 取れた! 取れたよ!」
クマのキーホルダーが、取り出し口へと落っこちた。
「おっ。よかったな、ひなこ」
「うん!」
キーホルダーを手に、ひなこは満面の笑みを浮かべている。
やはり、彼女は笑っている方が似合う、なんて思う優也であった。




