22話 石裂き
全てのゴーレムを倒し終えたところで、ふとひなこが質問。
「でも、どうやったら、門番さんの動きを止めれるんだろ?」
「まあ、そら確かに問題だよな」
隙を見せてくれるような相手ではないだろう。それに、ひなこの性格上、門番を弱まらせるという選択肢はない。
「……水で動きを鈍らせるとかできないのか? ほら、あいつ、あんなん両腕にかかえてんだし。泥団子作るときって、水入れて固めるだろ? あんな感じに水で重くなんねぇかな?」
「うーん……、どうだろ。地に水は、属性でいったら逆効果だけど……」
確かに。優也が知る属性相関でも、地属性の弱点といえば風属性で、水属性には有利な立場にある。
「やってみる価値はあるかもだけど、わたし、火属性だよ? 水なんか使えないけど……」
「それなら任せろ。いい考えがある」
火を使って水を発生させる方法が一つだけある。とくに、建物ならではの方法だ。
「どうやるの?」
「なんだっていい。火を放ってくれ」
「?」
「いいから」
「わかったよ」
七星を虚空にしまい、ひなこは右手を突き出した。
「はあッ!」
手のひらに、サッカーボールほどの火球が出現。それは、轟音とともに、ものすごい勢いで放たれた。
彼女も言っていたが、その火球は、家で見せてもらった火の玉なんか比にならないほど、凄まじい火力であった。
しかし、やはりというべきか、火の球は、まっすぐ門番へは向かわず、左に逸れて一つの部屋を破壊、焼き尽くし始めた。
爆発の衝撃が門番へ襲いかかるも、それを、軽々と、自身の右側に作り出した壁で防御する。
「お二人が何を企んでいるのか分かりかねますが、攻撃が当たらなければ私は倒せませんよ」
「ああ、確かにな」
しかし、これでいいのだ。なぜなら……。
途端、ジリリリリ、と甲高いベルの音が辺りに鳴り響き、直後、天井のあらゆるところから、水のシャワーが噴き出し始めた。
「これは……」
そう。火災時に活躍する、スプリンクラーを作動させたのだ。
火で水を作り出す、簡単な方法である。
なにも、『美少女』には異能力で対抗しなければならないなんてことはない。科学の力だって利用できる。
「何かと思えば……。私に水は効きませんよ。むしろ、ひなこちゃんの方が戦い辛くなると思うのですが」
思えば、門番の言う通り、この作戦が失敗すれば、火属性のひなこにとって、最悪な戦場ということになる。もとい、この作戦が失敗に終われば、優也たちが捕まるだけの話だが。
「これで終わりですか?」
「ああ、これで終わりだ」
だから全てを本作戦に賭けている。
「では、私からいかせてーーーーっ⁉︎」
一歩、足を踏み出した門番は、そのまま膝を折った。そして、力を失ったように、両腕が床に崩れ落ちる。
「一体何が……」
予期せぬ自身の異変に、驚きを隠せない門番。しかし、両腕を見て、その答えを確信する。
「まさかーー!」
「そうだ、門番。あんたの両腕に装備してるそれ、土と砂を固めて作ったもんだろ。土は水を吸うからな」
正直無理矢理で駄目元だったが、どうやら成功したようだ。運が味方してくれるとは、まさにこのことだろう。
「だったら外せばいいだけの話です」
「させるか!ひなこ‼︎」
「了解だよ!」
絶妙なコンビネーションで、ひなこは火球を放つ。先ほどより威力は幾分も低いが、それでも十分だ。
火球は右へ曲がり、門番の左側に着弾すると、先同様、爆風を巻き起こす。
「っ!」
両手の手甲を外す作業を中断して、門番は壁を作り出す。しかし、手甲同様、作りは同じだ。
脆くなった壁は、爆風を耐えきることはできず、むしろ、砕け散った残骸が門番に襲いかかった。
「きゃあっ!」
石くずの混じった爆風で、門番は、スプリンクラーによって消火された部屋に吹き飛ばされた。
優也とひなこは、門番が消えていった部屋へ入り、瓦礫の中で意識を失って倒れている彼女を発見する。
想像していたよりも、作戦が大成功したらしい。
「これで、どうするの?」
「俺が、門番の『結晶』に触れる。それで、終わるはずだ」
「どういうこと?」
「まあ、見てろって」
とはいっても、これが成功するのかも怪しい話であるが。
しかし、優也には成功する自信があった。
「悪い。失礼するぞ」
優也は、門番の胸元に手を近づけ、彼女の着ている服を少しだけ脱がした。
「ゆ、ゆ優也くん⁉︎」
「勘違いすんな!断じて変態に目覚めたわけじゃねぇよ!」
「そうなの?」
なんで疑問形なんだよ……。
ひなこの中での優也のイメージを知ってしまったような気がした。
そんな悲しみをさて置き、ひなこの言った通り、門番の『結晶』は、胸元にあった。
再度言うが、下心があって、こんなことをしているわけでは断じてない。その証拠に、『結晶』以外はちゃんと見えないようにしている。
見たいか見たくないか、という話は置いておいて。
「…………」
固唾を呑んで、優也は、そっと『結晶』に触れた。
その瞬間、『結晶』が光り出した。しかしそれは、ひなこと契約した時のような光ではなく、次第に輝きを増すと、限界が訪れたように、『結晶』もろとも砕け散った。
「ふぅ…………」
こうして、すべての計画が成功に終わった。




