20話 ひなこVS門番
バックステップからの、
「てやぁッ!」
地を蹴って、刀を一振り。
ひなこは、襲いかかってきたゴーレムを真っ二つに分断する。
その先では、門番が一人、こちらを見て立っている。
今のワンシーンだけを垣間見れば、戦況は、ひなこ側が有利であるように感じられるだろう。しかし、実際はその逆。ひなこが門番に追い詰められていた。
理由は簡単。異能力によって作り出されるゴーレムは倒せても、その本体、門番自身を、ひなこは攻撃できないからだ。なぜなら、門番は、ひなこが救いたいと願う『美少女』の一人なのだから。
「…………」
優也を逃してから今まで、ひなこがゴーレムを倒し、門番が新たなゴーレムを生み出し、ひなこが、またそれを倒す、という繰り返し。
正直、あと何体のゴーレムを倒せるだけの余力が残されているか分からない。
力尽きるまでには、この状況を打開する策を講じなければならないのだが。
「ひなこちゃん、そろそろ諦めたほうがいいんじゃないかな。私も、ひなこちゃんとは戦いたくない」
「だったら! ここでわたしを見逃してくれれば……」
「それはできない。研究所からの命令だから」
「どうして⁉︎ 研究所に利用されているんだよ⁉︎ 門番さんだけじゃない。ここにいる『美少女』みんな!」
「そうだとしても、私は研究所に救われたから。恩を返しているだけなの」
そういえば、研究所の『美少女』は、皆、研究所に助けられた、救われたと言う。ひなこの知る友人も、昔にそう言っていたのを思い出す。
救われたから恩返し。そういう点で言えば、門番の行動は、むしろ正しいものといえよう。
「ひなこちゃんは昔の記憶がないからわからないだろうけど、きっと研究所に助けられているんだよ。そんな恩人を裏切るの?」
「わたしは……、たとえ助けてもらったとしても、恩返しのために世界を壊したくなんてない!」
彼女が、こういうことを平気でする性格でないことは、ひなこがよく知っている。おそらくは、研究所に操られているのだろう。
しかし、威勢が良いのは口だけで、いぜんとして戦況は門番が有利だ。
むしろ、先のひなこの宣言で、完全にひなこと門番は決裂してしまった。もともと望みなど薄かったが、これ以降説得の余地は完璧にないといえよう。
「そろそろ、本気でいくよ、ひなこちゃん」
「…………」
ひなこは身構える。攻撃態勢ではなく、あくまでも、攻撃に対処する態勢で。
門番は、右手で廊下の壁に触れた。途端、そこから次々と石柱が出現し、ひなこへと向かってくる。
「てやッ!」
壁から突き出てくる石の柱を、ひなこは七星で一刀両断。
砕け散る石の陰から、現れる門番。振り下ろされる拳。
「っ⁉︎ ぐっーー、ぐぁッ‼︎」
とっさの判断で防御するも、続くストレートに、防ぐ両腕を貫かれ、ひなこは後方へ大きく吹き飛ばされてしまう。
数メートルは宙を舞い、地に何度もバウンドしてから、ひなこは廊下に寝そべる形で静止した。
「…………」
門番の拳が、ただの拳だったら、ここまでではなかっただろう。だが、今の彼女の両腕には、まるで手甲のような石でできたものが装備されていた。
「ここまで傷つけたくなかった……」
地に横たわるひなこを、心配そうに見下ろす門番。
「研究所を敵に回したら、命がいくつあっても足らない。これはひなこちゃんのためでもあるんだよ?」
そう言って、ひなこへ手を伸ばす門番。
「はあーーっ‼︎」
最後の力を振り絞る勢いで、ひなこは門番へ向けて刀を振った。
しかし、その刀は、門番に届くことなく、その動きを止めてしまう。もちろん、ひなこの無意識が働いたのである。
その様子を見た門番が、呆れるように言う。
「……もう諦めて、ひなこちゃん。ひなこちゃんじゃあ、世界を救うことはできないよ」
「そんな……」
「ーーそんなことはないぜ、門番さんよぉ!」
突如現れた声に、ひなこと門番は、同時にその声がした方を見やった。
「優也くん⁉︎」
なんと、そこにいたのは、石崎優也だった。




