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美少女はじめました  作者: 針山田
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16話 居住区と、ひなこの部屋


 レンタル待ちの『美少女』が生活をする空間である居住区。そこに足を踏み入れて、正直優也は驚いた。

 優也が思い描いていた居住区というものから、実際の居住区が大きく逸脱していたからだ。

 『美少女』はひどい仕打ちを受けていると、ひなこから聞いていたし、居住区の出入り口は、まるで監禁するように『美少女』が出られないよう頑丈に作られていた。それらのことから優也が勝手に抱いていた研究所という組織のイメージを根本から覆すような、そんな景色が、そこに広がっていた。

 通路の両側には木製のドアが等間隔にあり、延々と続く廊下には高価であろう絨毯が敷かれている。また、開いたドアから中を覗いて見れば、畳五畳ほどの大きさではあるが、ベッドなどが置かれた部屋があった。まるで、学生寮の一部屋のような、そんな印象。

 通路を少し進んでみれば、テーブルがいくつも並べられた広い空間を発見する。『美少女』たちの交流スペースだろうか。


「ここで、ひなこたち『美少女』は暮らしてたのか?」

「うん。そうだよ」

「…………」


 決して贅沢とはいえない。しかし、少しばかりかの、生活を楽しめるような、そんな気遣いがあるように感じられた。それは、優也の思い描いていた研究所ならば無縁の気遣いであろう。

 どれが、研究所の本当の顔なのだろうか……。

 歩くひなこに優也もついて行き、部屋のドアを開けていくが、相変わらず、人は誰もいない。


「結界が張ってあるんだったら、ひなこ以外の『美少女』がいてもおかしくないよな?」

「うん」


 とはいっても、誰一人存在してないのが現実だ。ひなこですら、珍しく頭を悩ませている様子。


「そういう結界とかってあるのか?」

「というと?」

「選んだ人だけ中に入れるみたいな」

「ない、とは言いきれないけど、わたしは聞いたことがないかな」

「そうか」

「でも、もしもあったとして、そうするメリットはなんなんだろう?」

「メリット?」

「わたしを捕まえるんだったら、『美少女』の数は多いほうがいいでしょ? わざわざ、わたしたちだけ結界に閉じこめた理由はなんなんだろうなあって」

「まあ、確かにな」


 メリットは何か、と問われれば、答えがわからない。

 ひなこの強さが、他の『美少女』にどれほど通用するのかわからないが、多勢に無勢、数が多ければ相手側の勝率が高くなるのは間違いない。


「じゃあ、ここは結界の中じゃねぇってことか……?」


 しかし、警戒を緩めていいというわけではない。ここが結界の中でないと決まったわけでもないのだから。それに、ここは敵の本拠地なのだから。


「結界が張ってないんだとすりゃ、みんな、どっか違う場所に行ったとかか?」

「なんのために?」

「……まあ、それこそ、メリットはなんなんだよって話だよな」


 優也たちから逃げるために、とは考えにくいか。なんせ、優也たちを追ってるのは研究所自身なのだから。


「なんにせよ、そろそろ戻らねぇか? 誰もいないつっても、俺らを監視してる『美少女』がいるかもしれないんだろ?」

「うん、そうだね。でも、その前に、わたしの部屋に行ってもいい?」

「部屋って、この居住区にある?」

「そう」

「別にいいが、なんか忘れもんか?」

「そんなとこかな。わたしの大事なものなの。逃げるときいそいでたから、忘れてきちゃって」


 それがなんであるのか、ひなこは話すことなく、再び廊下を歩き始めた。そのあとを、優也がついて行く。

 しばらく歩いて、他と変わらない、一枚の木製のドアの前で、ひなこは立ち止まった。


「ここがわたしの部屋」


 それにしても、ここまで来るまでに、多くの部屋を通り過ぎてきたが、全ての部屋に『美少女』がいるのだとすれば、優也が想像していたよりも『美少女』と呼ばれる者たちは、数多く存在しているらしい。ここより先にも、まだ部屋があるわけだし。


「んじゃ、俺はここで待ってるから、中に入って、その忘れもんとやらを取ってこいよ」

「ダメだよ」

「なんで」

「こんな危険なところに、優也くんを一人で残すわけにはいかないもん」


 そんな危険なところに行こうと言い出したのは誰だったか。

 そう問うてやりたかったが、その気持ちを優也は抑え込む。なぜなら、彼女について行くと言い出したのも優也自身なのだから。


「言うても、ドア一枚隔てるだけじゃねぇか。別に遠くに行くわけじゃないんだし。なんかあったら助けを呼ぶって」


 それに、と言いかけて、優也はその口を閉じた。

 その不自然な優也の行動に気がついたらしいひなこは、首を傾げる。


「もしかして、なにか気にしてる?」

「…………」


 自分でも言っていたが、本当に勘が鋭いこと。まるで、どっかの誰かさんと話しているみたいだ。

 というか、この状況下、男が遠慮する理由なんて一つしかないわけで。そこまで気付いているのなら、きちんと最後まで察してほしいものだ。その点に関しては、どっかの誰かさんとは違っている。


「大丈夫だよ、優也くんなら」


 その自信はなんなのか。ところで、一体何が大丈夫というのだろうか。

 しかし、その場から一歩も動こうとしない優也を見かねてか、ひなこから行動に出る。


「ほらほらはやくはやく」

「ちょっ……、心の準備が……!」


 そんな優也の緊張なんていざ知らず、ひなこは強引に優也の手を引いて、部屋の中へと引きずり込んだ。


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