152話 挑める戦いには挑んでいくスタイル
今日の一限目は英語の授業から始まった。
「しかも抜き打ちテスト……」
抜き打ちテストって酷い仕打ちだと優也は思う。いわば生徒を試しているということ。それは教師として汚くはないだろうか。
「カメリア、勝負だ」
「望むところよ」
そんなやる気ゼロモードの優也の後ろでは、なにやら闘志に燃えている人物が二人いた。
十分間の試験時間で、問題は十問。つまり、十点満点のテストだった。
「優也君、何点だった?」
「俺に点数聞くのか? 後悔するぜ?」
「だったら勝負しようよ」
お前もかよ。
「やめとけって。絶対に勝てねえから」
「やってみないとわからないよ」
「始まる前から勝敗は見えてるっていうのに……」
「僕はね、八点だったよ」
「俺はゼロ点だ」
だから言っただろ。絶対に勝てねえって。
そして彼らの後ろでも、今まさにテストの結果を発表しようとしていた。
「クックックッ……」
その一人、凌霄葉蓮は笑いを堪えることができなかった。
——この勝負、もらった。
「刮目せよ——!」
パアァァアン‼︎ と。
彼女が見せびらかすプリントには、九点、と書かれていた。
「カメリア、残念だが、貴様が余に勝つには満点を取る他無い。今ならまだ間に合う。余も貴様の恥を晒す様な真似はしたく」
「あたし、十点よ」
「満点だとぉ⁉︎ 次は絶対勝つからなあ——っ‼︎」
164戦164勝、カメリアの勝利。
二限目は体育であった。内容は五十メートル走。
「おい、カメリア」
「わかってるわよ。タイム競うんでしょ」
カメリアも言っていたが、ほんと挑める戦いには挑んでいくスタイルだな。
「冬野も、俺と競うか?」
「僕走るの遅いもん。絶対負けるよ。それに優也君速いし」
「そんなことはねぇよ」
けどそう言うんなら争うのは止めておこう。嫌がる相手と戦うのは意に反する。
クラス全員のタイムが計測し終わり、再びカメリアと凌霄葉蓮が向かい合っていた。
「九・三秒だ!」
「五・九よ」
「次は絶対勝つからなあ——っ‼︎」
165戦165勝、カメリアの勝利。
走り去ってゆく凌霄葉蓮。あの速度なら最速タイムを出せそうな気がするけど。
三限目と四限目の間休憩。
凌霄葉蓮はおもむろに立ち上がり、前の席に座るカメリアの隣に立った。
「最初はグー。じゃんけん——」
凌霄葉蓮 パー
カメリア チョキ
「次は絶対勝つからなあ——っ!」
166戦166勝、カメリアの勝利。
四限目も終わり、今日一日の折り返し地点の昼休憩の時間。
以前に約束した通り、優也、カメリア、珠音、冬野の四名は、昼食を食べるため屋上に集まっていた。
そして今日はもう一人。
「今日転入してきた凌霄葉蓮だ。こっちは西角珠音」
「西角珠音です。凌霄ちゃん、よろしくね」
「群れる為にここへやって来た訳では無い。余の目的はただ一つ! 宿敵カメリア・フルウを討つ事だ‼︎」
「?」
突然立ち上がり何やら宣言を始めた凌霄葉蓮に、仲良しの証、握手の手を伸ばしたまま、小首を傾げる珠音。
分かるよその気持ち。何言ってんだろうってなるよな。
「ということでカメリア! 今から早食い競争だ!」
「ご飯ぐらい味わって食べれないの?」
「しょんなほとをひってたらみゃけるはへは」
「はぁ……」
先手必勝と言わんばかり弁当箱の中身を口の中へ放り込んでいく凌霄葉蓮。
「ごちそうさまでした」
「にゃんでだ‼︎」
「口の中に含んだまま大声出さないの!」
「っ……、ごめん、なさい……」
なんだこの二人、お母さんとわがまま娘かよ。
早食い対決。カメリアの勝利で、167戦167勝。
負けが決まったことにより、自分のペースで食べ始めた凌霄葉蓮が完食したのは、しばらく経ってのことだった。
「今度は早飲みだ!」
どこで買って来たのやら、ペットボトルを二本取り出し、一方をカメリアの前に置いた。
「あのねぇ……」
さすがのカメリアも呆れた様子。それでも構わず凌霄葉蓮はペットボトルのフタを開ける。
「……わかったわよ」
なんやかんや、カメリアもそれに付き合う。
「はい」
「次は絶対勝つからなあ——っ!」
早飲み対決は、カメリアの勝利。これで、通算168戦168勝となった。