151話 彼女が作ったクッキーは、この世の万物よりも価値あるものであり、至高そのものである。そもそも、彼女が作り上げた物は全てが至高そのもの。つまり、彼女こそ至高である。Q.E.D.※個人の証明です。
カメリアに圧倒的敗北し、悔しさのあまり逃げ出してしまった凌霄葉蓮が教室に戻ってきたのは一限目が始まる前であった。
彼女の座席はカメリアの後ろとなった。ちなみにその机と椅子を運んできたのは優也。ホームルーム後、担任に呼び出されたのである。
そしてもう一人、小坂井先生に呼び出されていた冬野が教室へ戻ったきたのは、担任がなかなか現れない転入生を探そうとし始めた頃であった。
その時のタイミングが絶妙すぎて、彼が転入生なのかと疑うレベルであった。いやむしろ美少女として新たに入学して来てほしい。そして俺と恋に発展して欲しい、俺なら彼女を愛せる自信がある一生彼女のことを大せ
「そういや、小坂井先生って、テニス部の顧問だったっけ?」
「そうだよ」
「つうことは呼び出されたのは、やっぱ部活関係?」
「実はちょっと違うんだあ」
「?」
なにやら嬉しげに机の中から取り出すのは、一つのラッピングされた小袋。
そういえば、教室に戻ってきたときもそんなもの持ってたな。
「これを忘れちゃってて」
「それは?」
見れば袋の中にはクッキーが入っていた。
「そんなん悪ぃって」
「……優也君、なんか勘違いしてない?」
「いやだって、いつも俺が優しくしてるから、その感謝の意味でくれるんだろ? けど、それは俺とお前が友だちだからで、恩着せるつもりとかまったくないのは分かってくれよ」
「そう言いながら受け取ろうとするのやめて欲しいな?」
「なんでだよ。俺のだろ?」
「もう自分のになってる⁉︎」
そのクッキーは貰ったも同然。
てか欲しい。超欲しい、下さい。見るからに手作り感あるし冬野の手作りとかこの世界に存在するどの女の子の手作りよりも最上級に価値ある物だしそれはそれは喉から手どころか全身から手が出る程欲しいてかそのラッピング可愛いね俺も真似していい?
「まさかこの流れ!告白かッ⁉︎」
「どの流れ⁉︎違うよ⁉︎」
「けど俺だって心の準備ってもんがあってだなうん良いよ。付き合おう!てかむしろ付き合って!」
「優也君こわいよ! それに後ろ後ろ!」
「ん?」
そこにあったのは、
「誰だこんなとこに鬼の面置いたの——」
【コロス】
あ、俺……今から死ぬんだな。
……一度地獄を体験した優也は、糸をつたってこの地へ再び舞い戻ってきた。
「しっかし……、告白でもないとすると……、くれなかったバレンタインのプレゼントか?」
「僕、その頃優也君と知り合ってもないよ! それに僕は男の子だからね⁉︎」
「確かにあの頃はまだ中学生だもんな」
「納得するとこそれだけなの⁉︎」
「?」
他に納得できる点などあっただろうか。
「違うよ。これはカメリアちゃんに」
「あたしに?」
「うん。お近づきの印に」
手に持っていた小袋をカメリアへと手渡す。
「まさか今日も転入生が来るとは思ってなくて。凌霄ちゃんの分は持ってこれてないんだ。ごめんね?」
「謝る程の事では無い」
「必ず明日持ってくるから」
だったら、とカメリアが切り出した。
「今日はこれを半分こするわ」
「でもそれだとカメリアちゃんの分が……」
「また明日半分こしてもらえばいいだけよ」
「それもそうだね! じゃあ明日の分は少し多めに作ってくるよ!」
ここで、優也が自分の分もあるのか問うのは野暮ってものだろうか。
「待て。余は作って欲しいなど、頼んで無い」
「だったら、食べない? こんなに美味しそうだけど?」
「……食べないとも言ってない」
どっちなんだよ。結局我慢できてないじゃんか。
二人で一つの袋に入ったクッキーを食べ、それに頬を落としている様は、まさに仲睦まじい友人同士のそれであった。
そんな二人を横目に、優也は冬野に話しかけた。
「よかったな。喜んでもらえて」
「うん! 作った甲斐があったよ」
「そういや、冬野ってお菓子作れんのな」
ますます女の子みたいじゃ——あ、女の子か。
「珠音ちゃんに教えてもらったんだよ」
「珠音に? またなんで?」
「前に珠音ちゃんの頼み事、一つ聞いたから」
「頼み事? なんだ?」
「今は話せないなあ。いずれ優也君にも知る時が来るよ」
「なんじゃそりゃ」
ならばせめて、嬉しいことであることを願っておこう。