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美少女はじめました  作者: 針山田
146/154

146話 嫁ポイント、再び


「さて、まずはこの卵焼きを……?」


 食べようとした優也は、何者からかの視線を気がついて、口元へ持っていっていた箸を止めた。

 その視線は、言うまでもなくカメリアからで。彼女は優也を見つめたまま、何か言いたげにしていた。


「…………」

「やっぱ食べたいのか?」

「違うっ!」


 そんなに否定することもないんじゃないだろうか。彼女が珠音の料理を嫌厭する理由が分からない。


「じゃあなに見てんだよ?」


 もしかして俺のこと好きなのか?


「ゆ、ユウヤの……」

「え⁉︎ マジで俺のこと好きなの⁉︎」

「なあッ⁉︎」


 やっちゃった。考えも無しに口に出してしまった。そんなわけもないのに。

 案の定、カメリアは顔を、それはそれは今までにないほどに真っ赤に染め上げている。どうやらお怒りのご様子だ。


「じょ、冗談だよ……。ちと聞いてみただけだから。そんなに怒るなって」

「……別に怒ってないし」


 ほら怒ってるじゃんか。


「なんでもするからさ。……な?」

「…………ほんと?」

「ほんとだって」


 いや。なんでも、は言い過ぎた。


「俺にできる範囲でなら」

「……じゃあ、これ食べて」


 ぶっきらぼうにカメリアの伸ばした手に持たれていたのは、可愛らしい布に包まれた四角い箱。


「…………もしかして、弁当か?」


 顔を背けながらも、こくり、とカメリアは小さく首を縦に振った。


「これ、カメリアが作ってきたのか?」


 またしても、こくり、と。


「……開けて……みて」

「おう」


 言われるままに風呂敷の結び目を解いて、蓋を開ける。

 これまた珠音に引けを取らない美味しそうな品々が並べられていた。


(……てか待てよ)


 わからん。どういう状況だ、これ。

 カメリアを怒らせてしまった償いとして差し出されたのが、この弁当。

 これがお詫びになるのか?

 ……いいや、それはこの際いいとして。なぜにカメリアが弁当をくれたんだ?


「食っていいのか?」

「そう言ったでしょ。……てかユウヤのために作ってきたんだから……」

「なんだって?」

「だから!ユウヤのために作ってきたっていってんのっ!」

「ぉ、ぉぅ……」


 そんな親切の押し売りみたいな。いや、迷惑なんかじゃないけど。むしろ、ありがたい限りだけど。

 なにもそんな叫んで言うことじゃないだろ。そうじゃなきゃ、言えないようなことでもないだろうに。


「しかし、珠音からも貰ったし。今日は大量だな」

「もちろん、あたしのから食べるわよね?」

「あ、ああ……」


 目が本気なんですけど、カメリアさん。

 いや、両方食べるよ。もったいないし。せっかく二人とも作ってくれたんだし。

 とりあえずは本人が目の前にいることだし、カメリアが作ってくれた弁当から一口。


「——うまい! めっちゃうまいよ!」

「そ、そう?」

「ありがとな、カメリア!」

「————!」


 なにやらそっぽを向いてしまったカメリアを気にも留めず、優也は次々と口の中へ運んでゆく。

 珠音の料理は、言わばおふくろの味的な、食べていて安心する美味さに対し、カメリアの料理は、レストラン出ててくる料理ような豪華な美味さがある。

 思えば、カメリアが新鋭隊にいた頃は、彼女らはこんな美味い飯を毎日食ってたのか。


「チームM.Mのやつら、今ごろカメリアの飯が恋しいんじゃないか?」

「そうでもないんじゃないかしら。あたし以外にも料理出来る子、いるし」

「そうなのか?」

「ええ」


 誰だろう……?


「当ててみてもいいか?」

「もちろん。……って言っても、答えは簡単でしょ」


 ということは、


「薫か?」

「残念だけど、不正解。ま、薫は料理できないわけじゃないのよ。けど、どうにも独創的な発想を盛り込んじゃってね。結局食べれない物になってしまうのよ」


 薫でないとなると……、


「まさか、アンか?」

「またしても残念。というより、まさか、って聞いてるあたり、自信ないんじゃない」

「まあな」


 アンには悪いが、正直彼女が料理を作れそうなイメージ無いし。作れても男料理的な?


「ちなみに、萌香も料理できないわ。昔、あたしが負傷して、あの子たちに一度任せたことがあったけど、それはそれは酷かったわね」

「ち、ちなみになんだが……、どんな風に?」

「アンはルニルで食材切り始めるし、萌香は火力が足りないとかで異能力使い始めるし。出来上がった料理は、なんかよく分からない黒い物体だったわ」

「そりゃ酷えな……」


 どっかの誰かさんの暗黒物質より酷そうだな。

 相変わらずだが、アンは『創器』であるルニルのことを何だと思ってるんだか。万能包丁じゃないんだぞ、あれは。てか、もはや刃物だという認識すらあるかも危うい。


「一人しか残ってないから答えを言うけど、正解は湊よ。最後まで外すって、あんたわざとやってるの?」

「そういうわけじゃないが……」


 こう言ってはなんだが、彼女はあのメンバーの中で一番まとも過ぎて、頭の中に浮かんでこなかった。普通に考えりゃ、薫が不正解の時点で湊確定だったろうに。


「湊の料理か」


 そういえば、少女館の清掃をしてくれたのも彼女だったっけか。


「嫁ポイント加点だな」

「食べてもないのにポイントを上げるのね」

「期待を込めて、な。詳しい数値は、いつか食べた時に決めるさ」

「ふーん。あたしのは?」

「ん?」

「あたしの手料理に対するポイントは? 聞いてないんだけど」

「うーん……。十ポイントだな」

「なにそれ、湊ん時と一緒じゃない」


 一緒でなにが不満なんだよ。


「ちなみに、ひなこは?」

「料理に対するか?」

「ええ」

「…………言わんでもわかるだろ」

「そうよね」


 なら何で聞いたんだよ。


「それじゃ、あの珠音とかいう女は?」

「いや、あいつは食堂の娘だぞ? 点数化する方がおかしな話だろ」

「いいから」

「なんでそんなポイントにこだわるんだよ?」

「重要だから」


 そんな真面目な顔して。別にそのポイントが何になるわけでもないというのに。


「特に、彼女はこれから先、必ず立ち塞がってくるから」


 いやなんの?


「…………二十ポイントだな」

「くっ…………!」


 言っとくけど、そんな悔しがらんでいいからな。さっきも言ったけど、彼女は食堂の娘なんだからな。

 その差、十ポイント。

 さて、何点満点中の十ポイントかも優也は知らないし、その点数差をカメリアがどう受け取ったのかも分からない。が、カメリアは、しばらく悔しそうに唇を噛み、やがてその顔を上げた。


「必ず勝ってみせるわ!」


 だからなんのライバルなの?

 そんなカメリアが料理の腕にこだわっているわけでもないだろうし。

 勝負を挑まれた珠音も、ここにいたら首を傾げていたことだろう。何の戦いなんだ、と。


(もしかしたら、理解できたりしてな)


 なんて。

 カメリア本人以外、この話の内容を読み取れる人がいるとは思えない。

 そんな彼らのもとへ、近づいてくる人物が二人。


「ただいま、二人とも」

「おう、おかえり」


 用事を思い出し慌てて飛び出して行った冬野と、彼に強制的に連れて行かれた珠音だ。


「ただいま、ゆーくん。…………ってあれ?」


 元いたポジションに腰を下ろそうとした珠音は、その動きを中途半端で止めた。目を丸くする彼女の視線は、優也の手元にあった。


「ゆーくん、その弁当は? 私のじゃないよね?」

「ん? あ、これか。これはカ……」


 メリアがくれた物だ、と言いかけて、優也は言葉を呑み込んだ。すんでのところでよく押し止めれたと思う。

 珠音がくれた弁当そっちのけで、別の人からもらった物を食べていたと知られたあかつきには、珠音の機嫌を損ねかねない。


「……そ、それより、冬野。先生からの用事とやらは大丈夫だったのか?」

「うん、問題なかったよ」

「ゆーくん、話逸らそうと」

「珠音ちゃんもありがとうね」

「え? あ、うん」

「手伝ってくれたおかげで、先生に怒られずに済んだよ」

「全然。私もよかったよ」


 ナイス冬野。

 そう心の中で、優也は彼にいいねを押した。

 話題が逸れたことで、珠音も諦めてくれたのか、途中で止めていた腰をシートの上へ下ろした。


「せっかくだし、今度からこの四人で、ここで昼飯食うか?」


 そう提案したのは、優也。


「別にいいわよ、気を使ってくれなくても」


 カメリアがそう言うことは予測済みだ。


「冬野と珠音はどう思う?」

「僕はもちろんいいよ」

「私もいいよ。ここ、好きだし、友だちは多い方がいいから」


 二人がこう言ってくれることも予測済み。


「だってよ。どうする、カメリア?」

「——あんたたちがここで食べたいっていうなら特別一緒に食べてもいいけど」

「なら決まりだな」


 素直に食べたいと、そう言えばいいものを。

 本人には口が裂けても言えないが。


「……ありがと」


 カメリアは、誰にも聞こえないように、そう小さく呟いた。


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