141話 彼女がいつもと違う雰囲気で見惚れてしまいます。
「そういえば、お昼ご飯とかは、みんなどうしてるのかしら?」
「飯の話? なんだ、腹でも減ったのか?」
「な——っ⁉︎」
「冗談だっての」
だから、そんな顔を赤くして怒るなよ。
どっかの誰かさんじゃあるまいし、カメリアがそんな食い意地張ってるわけないことぐらいわかっている。
あくまでも、案内の流れで聞いただけだろう。
「まあ、人によってそれぞれだな」
具体的にどこで食べろと決められているわけでもない。他の高校でも、大体そうなんじゃないだろうか。
「教室で机並べて食べてるやつもいるし、食堂に行ってるやつもいる。許可さえもらえれば、外に食いに行くこともできるぜ?」
「ふーん。ちなみにユウヤは?」
「俺か? 俺は最初に言ったやつ。教室で机揃えて友達と食ってる」
「誰と?」
「さっき紹介したろ、冬野ほたる。あと、別のクラスだが珠音も昼飯は一緒だぜ?」
「たまね? 誰それ」
「ん、そういやまだ会ったことなかったよな」
今日も昼飯の時来るだろうし、そん時に顔合わせるだろう。
……仲良くしてくれるだろうか。
「俺の幼馴染みだ。そんでな、まーたこいつが世話焼きなやつなんだわ」
「へー。幼なじみ、へー。いつも世話焼かれてるんだ。へー」
「ま、まあ……。いつもではないけどな」
……あれ。カメリアの反応おかしくね?
「あと、珠音ん家は食堂やっててな。その関係であいつの料理、マジで美味いんだよ! また今度食べに」
「興味ない」
「お、おい……」
端的に告げると、カメリアは優也を置いて一人で歩き出す。
「ちょ、どうしたんだよ、急に。なぜ不機嫌モード?」
「別に。不機嫌なんかじゃないし」
それを不機嫌も呼ばずして何と呼ぶ。どう見ても不機嫌そのものだろ。
しかしこれ以上詮索すれば、余計カメリアの機嫌を損ねること必至。話題を少し戻すとしよう。
「どうして急に昼飯の話なんか?」
「なんでもないって言ってるでしょ。それより、案内はこれで終わり?」
「まあ……、あるとすりゃ、あと一箇所かな」
「どこ?」
「この学校の穴場的スポット」
「なにそれ」
「一見人が集まりそうな場所なんだが、これまた案外誰もいなくて静かなんだよ。それがまた良さを引き立ててるんだけどな」
それこそ、昼飯なんか、ここで食えば気分のいいものだろう。ちょうど、休日のピクニックのような時間が過ごせること間違い無い。
そう優也は思うのだが、お昼休憩も、あまり人がいないのが事実である。決して、何か曰く付きがあるとかいうわけではないのだが。
「そこまで聞くと逆に気になるわね」
「行ってみるか?」
「ええ」
そうと決まれば早速……
「なによ、ジロジロと」
向かおうとしたカメリアを止めたのは、優也からの視線であった。
「いや、今更なんだけどな。なんかカメリアが、うちの制服着てんのがな。その……」
「なに。似合ってないって言いたいの?」
「ちげえっての。その反対、すげー似合ってるから」
「————‼︎」
普段と全く違う印象の彼女が新鮮に見えてしまうのだ。
なんて考える優也は、カメリアの変化に気がつかない。
「ほら、いつもはなんかかっこいい服着てるだろ?」
「あれは新鋭隊の制服よ」
「そうなのか?」
てっきりカメリアの私服的なものだとばかり思っていた。
じゃあ彼女の私服姿はどんな感じなのだろうなんて想像して、それがカメリアに見透かされている気がして慌てて話を戻す。
「けど、湊たちが着てるのとは違うよな?」
「また特段理由があるってわけでもないんだけど。あたしがリーダーだったわけだし、その区別みたいなもので、服を変えてたのよ」
よく考えてみれば、会うたびに着ていたあの服がカメリアの私服なわけないはずで。
いやあ、しかしそうと分かれば気になって仕方ないのは仕方ない。彼女の私服姿が。
「けど、湊らは今もあの服着てるよな」
「その内あの子らも自分の制服を決めるんじゃないかしら」
「チームM.Mの制服か……。どんなのになるんだろな」
「変なのにならなければいいけど。誰とは言わないけど、変わった子もいるし」
「そこは湊が仕切ってくれるだろ」
「あら。えらく湊のことを信じてるのね」
「信じてるっていうか、応援してるってのが正しいかな。これから一つの部隊を自分の判断で引っ張っていかなきゃならねぇんだろ。相当プレッシャーだろうしよ。負けずに頑張ってほしいなって」
「ふーん。あたしが隊長だった時はなんも言ってくれなかったのに、湊の時はそうやって励ますのね」
「なに怒ってんだ?」
「別に。怒ってないし」
「怒ってるだろ」
「怒ってない」
だから、それが怒ってない人の態度なのだろうか。
目的地がどこかも知らないはずなのに先早に進んでいくカメリアの後ろを追いながら、優也は早急に彼女の機嫌を戻す方法に頭を悩ませた。