140話 護衛という名のもと
「ざっと、こんなもんかね」
転入生の校内案内で自習となった一限目が始まり、担任に言われた通り、優也は、その転入生であるカメリア・フルウと共に案内の為に学校内を歩き回っていた。
こんなことを任されるのは初めてだし、正直、何を説明すればいいのやら分からない。
てか、担任が案内しろよ。なぜに自分が? 自分だって、自習という名の自由時間を過ごしたかった。
……なんて、後悔しても仕方ないわけで。
優也は、とりあえず思いつくだけのポイント、職員室や生活指導室、保健室や生徒会室、体育館など学校生活を送る上で関わるような場所をピックアップし、見て回った。
後の諸々の教室とかは、追々教えればいい。しばらく学校内ではカメリアと行動を共にすることも多いだろうし。それに、カメリアも自然と頭に入っていくだろう。
「そういやカメリア」
「なに?」
この状況で、これを聞かずして何を聞く、と言っても過言ではないほど、優也が気になって気になってやまなかった質問をカメリアへ投げかけた。
「また、なんで入学なんか?」
「言ったでしょ。あたしにやることがあるって」
「やることって入学だったのかよ。てか、どうやって入学して来たんだよ?」
「それは、ユウヤの知らなくていいことよ」
「逆に気になるだろ」
白雪といい、カメリアといい。入学に対する基準が甘すぎやしませんかね? まあ、優也にとっては全然いいことだけど。でもこのままだと、いずれ悪い『美少女』すらも、何気なく入学して来たりしませんよね?
……それは置いておいて。
「けど入学した目的はなんなんだ? まさか本当に俺がいるからってわけじゃないだろ?」
「なあ——⁉︎ そ、そんなわけないでしょ! なんでこのあたしが、ユウヤがいるからって理由だけで——!」
「分かってるけど。そんじゃ、どうしてあんな風に言ったんだ? あれじゃ別の意味になってたぞ」
「あ、ああ、ああれは決してそういう意味じゃないんだからねっ! 言葉の綾だからっ‼︎」
「わかってるよ」
カメリアが、自分がいる、というだけで意味の無いことをするような人じゃないことぐらいわかっている。
だが、あの教室にいた半数、いや、カメリアと優也以外は、そっちの意味で解釈していたことに間違いはない。
「ほんとにほんとだから!」
「わかってるって」
「ほんとにほんとにほんと」
「しつこいな」
誤解を解くならクラスメイトにしてくれ。
それでもどうやらカメリアは言い足りない様子。どれだけ勘違いされたく無いんだか。むしろこっちが少し悲しくなってくるんだが……。
「それで正直なところ、カメリアが入学してきた目的はなんなんだよ?」
「……あの時も話したけど、新鋭隊では研究所の動向を探れず、結局、研究所が、本部の無い状態でどうしているのかわからなかった。だったら、ユウヤのそばにいた方がいいと思ったのよ」
「俺の?」
「研究所が『石裂き』について調べていたっていうんだし、『世界美少女化計画』に『石裂き』が利用できるって書いてあったんでしょ。それならなおのことよ。研究所は必ずユウヤに接触してくると考えたのよ」
「つまりは、相手の動きを探るんじゃなく、相手の動きを先読みして、そこで待ち伏せてとくってわけか」
「そういうことよ」
要するに、優也が研究所からいつ襲撃されてもいいように、カメリアが護衛してくれていると。
学校ではカメリアが、家ではひなこが。
守ってくれる人が増えて、男としては非常に情けない話だと思う。それでも嬉しい気持ちの方が大きいのは事実。
「ありがとうな」
「べ、別にあんたのためじゃないんだから!」
そう言って、カメリアはそっぽを向いてしまった。