137話 彼女の目論見とは
楽しい時間はとても早く過ぎ去るもので。
今は親睦会の片付けを、決めた役割に分担して行なっていた。
その中の一ペア、食器洗い兼片付けを任されていた湊とカメリアは、厨房の洗い場で二人肩を並べていた。
「悪かったわね、湊。なんの相談もせずに、急に隊長なんて大きな責務を任せちゃって」
「いえ。正直嬉しかったです。カメリアさんに、そこまで期待されてもらってるんだって。けど……」
「心配?」
「……はい。私たちは今までカメリアさんの後をついて来ました。ですが、これからは私がみんなを引っ張っていかなければいけません。カメリアさんみたいに、正しく引っ張っていけるか。それに私なんかに、みんながついて来てくれるのかなって」
「別にあたしみたいにならなくてもいいのよ。湊は自分が正しいと思うやり方で隊長を全うすればいいのよ」
誰かのやり方が常に正しいとは限らない。自分が思った道で、自分が正しいと思ったやり方を貫けばいい。
(……ま、湊の気持ちもよくわかるんだけど。かく言うあたしだって、隊長になる時あの人を目標にしたんだし)
カメリアにとってあの人は自分の全てであった。今だって、あの人は自分の中で、カメリア・フルウという存在を築いている。
けど、自分は自分。湊は湊だ。
「湊、いい言葉を教えてあげる」
「いい言葉、ですか?」
「——リーダーたる者、隊員のことを尊重すべし」
その言葉は、どうしてか、とても重みを感じた。
「カメリアさん、その言葉は?」
「あたしの姉の言葉よ」
「カメリアさんってお姉さんがいたんですか⁉︎」
カメリアと知り合ってしばらく経つが、そんな情報初めて知った。おそらく、萌香でも知らないのではないだろうか。
「昔にね。あんたたちが新鋭隊に入る前の話よ。姉と言っても、実の姉というわけじゃないけど。ちょうど、萌香があたしを慕ってくれてるように、あたしもあの人のことを慕ってたわ」
「今その方は……?」
「しばらく会ってないわね。遠い場所に行ってしまったから」
それ以上、湊はその人物について問うてはいけないような気がした。
そう思ってしまうと、次の言葉が出てこなくなってしまった湊に、カメリアは何を言うでもなく話を元に戻した。
「それに、あの子たちなら大丈夫よ。湊について来てくれるし、間違った方向に進もうとしていたら正してくれる。湊は確かにあの子たちの隊長だけど、それ以前に仲間なんだから」
「そう、ですよね。ありがとうございます!」
「礼を言われるような事はしてないわ。それに、何かあったらいつでも相談に乗るから。あたしは、別にこの街を離れるわけじゃないんだし」
「そういえば、親睦会の前にも似たような事萌香に言っていましたよね。あの時聞きそびれてしまったんですが、カメリアさんがやろうとしている事は何なんですか? どうやって研究所の調査を?」
「簡単なことよ」
——すぐに分かるわ。
そうカメリアは続けた。




