135話 昔、自分がしてもらった様に
ボードゲームやカードゲーム、あるいはテレビゲーム、はたまた、おままごとなど、彼女らがやりたい事を一緒にやって、カメリアが提案した親睦会のおかげで、少しずつ、でも確実に距離を縮めていた。
そんな中、湊はある違和感に気が付く。
「……あれ? あの子……」
居住区の中は、皆が仲良くわいわいと騒いでいる声で満たされていた。その中でも人の集まりが多い食堂及び交流スペースの端、青髪の女の子がいた。誰と遊んでいるわけでもなく、たった一人で、ぽつんと。
(輪に馴染めないのかな……? 人見知り? ……でも、見て見ぬ振りは良くないよね。——うんっ!)
「アン、ちょっとこの子たち見ててくれる?」
「おう。いいぜ」
誰かとペアを組むと決めたわけではないが、アンと一緒に遊んでいた湊は、彼女に子供たちを託し、隠れるようにして座る少女のもとへ足を向けた。
「次は何して遊ぶ? ちなみに私のオススメは格闘技だ!」
「………………」
アン一人に子どもの相手を任せたのは間違いだっただろうか。戻ってきた頃には負傷者が出ていないよね……?
なんて不安を抱えながら。
「どうしたの?」
「…………、あ……、え……、と……」
たったったっ。ザザッと。
突然声をかけられた少女は怯えたように辺りを見回して、小走りで、近くの物陰に隠れてしまう。その陰から顔をのぞかせる。
再び湊が近寄ろうとすると、またしてもどこかへ逃げ隠れてしまう。
(……かくれんぼ?)
まるでそんな感じ。
とはいえ、逃げ惑う彼女の顔色を見れば、そんなはず無いことが一目瞭然であるが。
これ以上彼女を追い詰めるのは気が引けたが、だからといってこのまま放っておくわけにもいかない。
結局、逃げる追うの攻防がしばらく続き、勝利の旗を掲げたのは、
「もう逃げられないよ? さあどうする?」
「ぅぅ…………」
密かに少女の逃げる方向をコントロールし、追いかけた湊であった。
湊が歩み寄る度に、少女の顔が青ざめていくことに罪悪感を抱きながらも、彼女の前で膝を曲げ、しゃがみ込む。
「どうして一人でいるの? みんなと遊ばないの?」
「…………わたし、ともだちいないから」
「大丈夫。ここはそういう場所だから。みんなで遊べば仲良くなれるよ」
「……なに話していいのかわからない」
「…………」
(この子……)
この感覚、とても懐かしいような気がする。
それに気付いた湊は、少女へ掛ける次の言葉を慎重に考え始めた。
「その子、昔の湊に似てるわね」
後ろを振り返ると、そこにはカメリアが立っていた。
「私に? そうですか?」
などと返したが、実際のところ自分でも思い当たる節はあった。だからこそ、なんて声をかけたらいいのかわからなくなったのだ。
「ええ。あなたも研究所にやって来て新鋭隊に入った頃、こんな感じだったわよ。おどおどとしてて、最初はこんな子が戦えるのかと心配だったもの。それでも今となってはチームM.Mのリーダーだものね」
「それはカメリアさんのおかげですよ。ずっと面倒を見てくれていましたから」
「へえ、気になるな」
さっきまでカメリアと一緒にいたのだろうか。そう言いながら、優也も歩み寄って来た。
「湊は臆病な性格だったのか?」
「ゆ、ゆゆ優也さん⁉︎だめです!どうか今の話は聞かなかったことにっ‼︎」
とはいえ聞かれてしまったのでもう遅い。頭を引っ叩くなんて古典的な方法で記憶を消せるとも思えないし、そもそもそんなことを彼にできるはずがない。
「ゆ、優也さん、お願いです、忘れてください……」
「お、おう……。善処するよ……」
あの頃の自分を恥ずかしく思う反面、とても懐かしくも感じる。
あの時は、隊長のカメリアにも、同じメンバーであるアンや萌香、薫にすらも馴染めずに、なんで自分がこんなことを、とばかり考えていた。
それでもここまでやって来れたのは、あの日のカメリアの言葉があったからだ。あの一言がなければ、今ここに自分は存在していなかっただろう。
(そっか……!)
「ねえ、友だち、作りたいって思わない?」
「…………」
少し間を置いて、少女はこくりと首を縦に振った。
「だったら、私と友だちにならない?」
「……お姉ちゃんと?」
「そう。本当のお友だちができるまでの間、私と遊んだりお話ししたり。どう?」
「……遊んだり、お話ししたり……。わたしなんかで、よかったら……」
「もちろん! 私、水瀬湊。あなたの名前は?」
「青星、葵……」
「葵ちゃん。これからよろしくね」
湊は絆の証として、手を差し出した。その手を青髪の少女は握り返し、
「——うん!」
初めて笑顔を見せた。