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美少女はじめました  作者: 針山田
135/154

135話 昔、自分がしてもらった様に


 ボードゲームやカードゲーム、あるいはテレビゲーム、はたまた、おままごとなど、彼女らがやりたい事を一緒にやって、カメリアが提案した親睦会のおかげで、少しずつ、でも確実に距離を縮めていた。

 そんな中、湊はある違和感に気が付く。


「……あれ? あの子……」


 居住区の中は、皆が仲良くわいわいと騒いでいる声で満たされていた。その中でも人の集まりが多い食堂及び交流スペースの端、青髪の女の子がいた。誰と遊んでいるわけでもなく、たった一人で、ぽつんと。


(輪に馴染めないのかな……? 人見知り? ……でも、見て見ぬ振りは良くないよね。——うんっ!)


「アン、ちょっとこの子たち見ててくれる?」

「おう。いいぜ」


 誰かとペアを組むと決めたわけではないが、アンと一緒に遊んでいた湊は、彼女に子供たちを託し、隠れるようにして座る少女のもとへ足を向けた。


「次は何して遊ぶ? ちなみにあたしのオススメは格闘技だ!」

「………………」


 アン一人に子どもの相手を任せたのは間違いだっただろうか。戻ってきた頃には負傷者が出ていないよね……?

 なんて不安を抱えながら。


「どうしたの?」

「…………、あ……、え……、と……」


 たったったっ。ザザッと。

 突然声をかけられた少女は怯えたように辺りを見回して、小走りで、近くの物陰に隠れてしまう。その陰から顔をのぞかせる。

 再び湊が近寄ろうとすると、またしてもどこかへ逃げ隠れてしまう。


(……かくれんぼ?)


 まるでそんな感じ。

 とはいえ、逃げ惑う彼女の顔色を見れば、そんなはず無いことが一目瞭然であるが。

 これ以上彼女を追い詰めるのは気が引けたが、だからといってこのまま放っておくわけにもいかない。

 結局、逃げる追うの攻防がしばらく続き、勝利の旗を掲げたのは、


「もう逃げられないよ? さあどうする?」

「ぅぅ…………」


 密かに少女の逃げる方向をコントロールし、追いかけた湊であった。

 湊が歩み寄る度に、少女の顔が青ざめていくことに罪悪感を抱きながらも、彼女の前で膝を曲げ、しゃがみ込む。


「どうして一人でいるの? みんなと遊ばないの?」

「…………わたし、ともだちいないから」

「大丈夫。ここはそういう場所だから。みんなで遊べば仲良くなれるよ」

「……なに話していいのかわからない」

「…………」


(この子……)


 この感覚、とても懐かしいような気がする。

 それに気付いた湊は、少女へ掛ける次の言葉を慎重に考え始めた。


「その子、昔の湊に似てるわね」


 後ろを振り返ると、そこにはカメリアが立っていた。


「私に? そうですか?」


 などと返したが、実際のところ自分でも思い当たる節はあった。だからこそ、なんて声をかけたらいいのかわからなくなったのだ。


「ええ。あなたも研究所にやって来て新鋭隊に入った頃、こんな感じだったわよ。おどおどとしてて、最初はこんな子が戦えるのかと心配だったもの。それでも今となってはチームM.Mのリーダーだものね」

「それはカメリアさんのおかげですよ。ずっと面倒を見てくれていましたから」

「へえ、気になるな」


 さっきまでカメリアと一緒にいたのだろうか。そう言いながら、優也も歩み寄って来た。


「湊は臆病な性格だったのか?」

「ゆ、ゆゆ優也さん⁉︎だめです!どうか今の話は聞かなかったことにっ‼︎」


 とはいえ聞かれてしまったのでもう遅い。頭を引っ叩くなんて古典的な方法で記憶を消せるとも思えないし、そもそもそんなことを彼にできるはずがない。


「ゆ、優也さん、お願いです、忘れてください……」

「お、おう……。善処するよ……」


 あの頃の自分を恥ずかしく思う反面、とても懐かしくも感じる。

 あの時は、隊長のカメリアにも、同じメンバーであるアンや萌香、薫にすらも馴染めずに、なんで自分がこんなことを、とばかり考えていた。

 それでもここまでやって来れたのは、あの日のカメリアの言葉があったからだ。あの一言がなければ、今ここに自分は存在していなかっただろう。


(そっか……!)


「ねえ、友だち、作りたいって思わない?」

「…………」


 少し間を置いて、少女はこくりと首を縦に振った。


「だったら、私と友だちにならない?」

「……お姉ちゃんと?」

「そう。本当のお友だちができるまでの間、私と遊んだりお話ししたり。どう?」

「……遊んだり、お話ししたり……。わたしなんかで、よかったら……」

「もちろん! 私、水瀬湊。あなたの名前は?」

青星あおほしあおい……」

「葵ちゃん。これからよろしくね」


 湊は絆の証として、手を差し出した。その手を青髪の少女は握り返し、


「——うん!」


 初めて笑顔を見せた。


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