130話 これからのこと
遅ればせながら。
さて、と手を叩き、カメリアは皆の注目を集める。
「みんなに集まってもらった理由なんだけど、いくつか聞きたいことと話したいことがあるの」
「なんだ?」
「研究所所長を倒し、数週間が経とうとしているわ。その間に、あたしたち新鋭隊は他の研究所支部の動向を探り、ユウヤたちは研究所から逃げ出した第六研究室室長の岡谷太一の捜索及び彼が企むシナプス計画の阻止に全力を尽くしていた。そうして、寺都芽久実や結野こころ、『迷い子』の少女たちと出会った。今改めて、これからのことについて話しておきたいと思ったのよ」
まとめれば短く感じられるが、その実様々なことが起こった。到底ここ何週間のこととは思えないほどに。
「それで、聞きたいことと話したいことって何なんだ?」
「真っ先に確認しておきたいことは、寺都芽久実のことよ」
「私?」
まさか呼ばれると思っていなかったのだろう。寺都は珍しくも目を丸くし、自身を指差した。
「ええ」
「なに。確認しておきたい事とは?」
「これから寺都があたしたちと協力し続けるのか、どうかよ。ユウヤから聞いた話によれば、あんたがあたしたちに協力するのは、岡谷太一を見つけるまでだったはずよ。その後は手を切ると決めているのも聞いているわ。望まない結果となってしまったけれど、それを達成できているのも事実。今のあんたに、これ以上あたしたちに協力する理由はないはず。だから今、少女館の管理人から降りるというのならば止めないわ」
あまりにも普通にここにいたものだから忘れかけていたが、言われてみれば、もう寺都が協力者であり続ける理由はないのである。それが彼女との契約であったのだから。
「めぐ姉ちゃん、どこか行っちゃうの?」
すぐに返答をしない寺都に、こころは、不安そうに視線を向ける。その瞳は、かすかに潤んでいるようにも見えた。
「——どこも行かない。私には、あの人との約束があるから。それを果たすまでは、貴方たちと協力し続ける必要がある」
あの人。
その存在を確認するのは野暮だろう。
「なら、引き続き、少女館は、寺都、あんたに任せていいのね?」
「ええ」
その返事に、誰よりも一番喜びの声を上げたのは、他でもない結野こころであった。
「やったあ! これからもめぐ姉ちゃんと一緒だね!」
「別に貴女のためじゃない」
「べつにわたしのためとは言ってないよ?」
「…………」
額に血の痕はない。
こいつ……。
しかし、勘で言っているだけに、それを責める事はできない。否定しようとも肯定しようとも、どちらでも墓穴を掘ってしまうだろう。
寺都がこれからも協力し続けることが決まり、優也は改めて頭を下げた。
「寺都、本当に悪かった、岡谷を救えなくて。助けるって約束したのに」
「ごめんなさい」
彼に続け、ひなこも頭を下げる。
「別に貴方たちのせいじゃない。太一は自分自身であの道を選択した。ただそれだけ。それなら、私はそれを受け入れるべき」
しかしながら、彼女の首から下げられているネックレスが、彼女の本心を語っていた。
「そんなことよりも、私への質問は以上?」
「ええ。あんたにはそれを確認しておきたかっただけ」
「なら、もう一つの話したいことっていうのは?」
「それは、」
カメリアは、少しの間を空けて、はっきりとこう宣言した。
「——本日をもって、あたし、カメリア・フルウは、新鋭隊から脱隊するわ」