13話 美少女レンタル 3
「結局、『美少女』ってのはどうなんだ? さっき、ひなこは自分のことを人間だって言ってたが、それは俺みたいな人間ってことか? それとも、よくありがちな別世界の住人とかってやつなのか?」
「どうなんだろう。この世界の人間には間違いないだろうけど、わたしの場合は研究所からの記憶しかないから、知ってるときから『美少女』なんだ。その前は優也くんと変わらない、普通の人間だったんだと思うよ」
そんな話を聞いて、ふと優也は疑問。
「『美少女』って、みんなそれ以前の記憶がないのか?」
「そんなことないよ。小さなころを覚えてる子だっていたし。昔の記憶がないのって、知るかぎりじゃ、わたしぐらいじゃないかな」
「…………」
それは、あまりにもタイミングが良すぎないだろうか。『美少女』の弊害というのならばいざ知らず。ひなこだけが昔の記憶、つまり研究所以前の記憶を失っているというのも不自然な話である。だからといって、それに、なんの意味があるのかは分からないが。
「俺の予想なんだが、やっぱ『結晶』が人間を『美少女』に変えてるのか?」
「そうだね。わたしもよくは知らないけど、『美少女』全員にこの『結晶』が埋め込まれてることを考えると、優也くんの予想が正解してるんだと思うよ」
「その『結晶』を壊せば、ひなこだって普通の人間に戻れるんじゃないのか?」
「それはムリなんだ」
「どうして?」
『美少女』でありながら、『美少女』について今一つ理解していない様子のひなこが、そうはっきりと断言した。
「『結晶』はなにをしても絶対に壊せないようになってるの。外すことだってできないし」
「絶対ってことはねぇだろ」
「じゃあやってみる?」
「やって、みるって……」
今は服で見えなくなっているが、『結晶』があるのはひなこの胸元だ。そこにある石を優也が壊そうとするには必然的に…………。
「……まあ、信じるとするよ。そんなことに嘘つく必要ねぇしな」
ひなこの珍しい自信を信じるとしよう。
「結局、俺って、ひなこを『美少女レンタル』したってことなんだよな?」
今更ながら、そのことについて確認する。
「そうだよ」
「聞いときたいんだが、『美少女レンタル』には、いくつか決まりごとがあるって言ってたよな」
「うん。制約は、全部で三つあるよ」
「それは、もちろん俺も守らなきゃならねぇんだよな?」
「当然だよ。さもないと……」
その先は何を言おうとしたのか、優也は身をもって体験したことである。
「その三つの制約とやらを聞いてもいいか」
「いいよ。まず、一つ目。『契約期間中は、契約する美少女に目的を与えること』」
「目的?」
「そう。なんでもいいんだよ。『美少女レンタル』を利用している人で、よくあるのが、娘として迎えいれるとか、仕事をさせてお金を稼いでもらうとか、かな。家のメイドとしてレンタルした人とかもいたよ」
なるほどな。これだけ聞けば、人間ではあるが、ただのレンタルで、家族の一員として借りれるあたり、むしろ良い活動のように思えてしまう。
優也は、ひなこに何の目的を与えればいいのか考えて、ふとあることに気がついた。
「ひなこって、研究所を潰すって目的があるよな?」
「うん」
「それを、『美少女』に与える目的として使えないのか?」
「問題ないよ。それじゃあ、わたしに与える目的は、研究所の壊滅、でいい?」
「ああ。それでいい」
そのために、彼女と契約を交わしたのだから。
もとより、優也は望んで『美少女レンタル』を利用したのではない。何か目的を、と言われても思いつくことがない。
「次は、二つ目の制約だね。二つ目は、『自身より、契約する美少女を先に死なせないこと』」
「なるほどな。普通に考えりゃ簡単だろうが……」
ひなこの場合、研究所から命を狙われているという事態だ。
「なかなか難しそうだな」
「大丈夫だよ。わたし、強いからね」
確かに、彼女の強さは、実際優也も目の当たりにしている。かといって、それが目的を果たすまで安心させることができるかと聞かれれば、そういうわけでもない。
「最後に三つ目。これは、さっき話したけど、『契約満了後も、美少女レンタルのことを、無関係な第三者へ口外しないこと』だよ」
「この三つを守らなきゃならねぇってことか」
「そんなに難しくはないでしょ?」
「まあ、二つは、な」
あとの一つは優也がどうにかできる問題ではない。それこそ、完全にひなこに委ねるしかないのだ。
「制約の内容に、ちょくちょく出てきてた、契約期間中とか契約満了後とか、やっぱ契約には期限があるのか?」
「あるよ。全部で五コースあって、一週間コースが寿命半年分、一年コースが寿命五年分、五年コースが寿命十年分、十年コースが寿命二十年分、一生コースが寿命四十年分ってなってるよ」
「待て待て待て。なんだそのコースって?それに寿命って⁉︎」
突然ずらずらと語られる、『美少女レンタル』の契約について。そのどれもが、優也の知らないもので、理解を超えるものであった。
だというのに、ひなこは当たり前のごとく、淡々と説明を始める。
「コースはね、『美少女』をレンタルする期間だよ。文字通り、一週間は、一週間のレンタル。一生は、契約者が死んじゃうまでレンタルするの。寿命についてだけど、レンタルにはお金の代わりに寿命を代価として、それぞれ契約したコース分支払ってもらうの」
「聞いてない聞いてない。そんなの俺は聞いてないぞ」
「だって優也くん、説明しようとしたら、わたしに任せるからって」
「………………」
確かに言った。
「ちなみに、俺が契約したコースって……?」
「一生コースだよ」
「そんじゃなにか? 俺が支払った寿命は、四十年分か⁉︎」
「うん」
「………………」
マジかよ……。
驚きとともに絶望。何も言葉が出てこなかった。
「俺、あと何年生きれんだよ。てか支払ったせいで、俺の寿命残りゼロとかになってねぇだろうな?」
「それは大丈夫だよ。その人の寿命をこえた契約はできないようになってるから」
寿命を失った時点で大丈夫ではないのだが。
しかし、こんなことになるとは予想していなかったとはいえ、彼女にお任せしたのは優也自身だ。文句を言える立場にないことは優也も理解している。
「てか、契約期間中に研究所を壊せたら、契約の中断とかってできるのか?」
「できるよ。でも、支払った寿命は戻ってこないよ?」
「さいですか…………」
軽く、優也の期待は打ち砕かれてしまった。
自分は、あと何年生きることができるのだろうか……。
そんな不安が、優也の心の中を駆け巡っていた。