125話 その苦労は彼だけが知る
次々と繰り出されるひなこからの攻撃の嵐に、優也は防ぐことも精一杯になり始めていた。
(寺都、まだか……っ!)
持久戦とはわかっていたが、そう長くは持ちそうにない。
「しまっ——⁉︎」
完全に意識が別のところにあった。
目の前まで迫っていた七星に気が付いた頃には遅く、優也は避けることができなかった。
その途端、正気を失ったように、バタバタと倒れ出す『迷い子』たち。もちろん、ひなこも動きを止め、電池の切れたロボットのように倒れ始める。
「ひなこ!」
優也は、なんとかその寸前で受け止めた。
呼吸などはしているあたり、どうやら気を失っている様。
「これって……。遥、もしかして」
「おそらく寺都さんがシナプス計画を止めたのでしょう」
「そうか」
だから結野こころからの『網』が崩壊し、操られていた『迷い子』が攻撃を止めた。
本当に接戦、いやむしろ劣勢側にあったからこそ、それが終わったとしれた時の安堵といえば、これ以上のものはないだろう。
しばらく優也が安心の息を漏らしていると、二人のもとへ、通路の奥の暗闇から寺都が姿を現わす。その腕の中には、眠る結野こころが抱かれていた。
「寺都、よくやったぜ」
しかしその隣にある人物の姿がないことに、優也は首を傾げた。
「あれ、岡谷は?」
「……少女館に帰る」
ただそれだけを言って、寺都は二人の隣を通り過ぎた。
彼女の表情はうかがえない。
だからこそわかったのかもしれない。あの奥で何が起きたのかを。
「待てよ、気を失ってる『迷い子』たちはどうすんだ?」
「私はこの子を連れて帰る。その子たちは、貴方たちでお願い」
「お願いって……」
何人いると思ってんだよ。二人の両手を使ったとしても足りる人数ではないのは明白。
でも、なにも面倒だからとかそういう理由で寺都が断ったのではないことは、彼女から発せられるオーラから感じ取れた。
「……わかったよ」
ひなこを遥に任せて、少しずつ『迷い子』を運び、前に進めていきながら、少女館にたどり着けた苦労と、優也を見る周囲からの視線の痛さを知る者は、きっと彼だけなのだろう。