114話 この世界にあって、ない場所
意外にも優也のもとへ先に戻ってきたのは、寺都であった。
「早かったな」
「大したことをしに行ったわけじゃないから」
予測するに、岡谷捜索関係だろう。
「そういや、ひなこと遥は?」
「さあ。私は厨房の方には行ってないから分からない。二人で何か話でもしてるんじゃない」
なるほど。あの二人、気が合うのか、仲良さそうだし。
「にしても、なに話してんだろうな」
「知らない。というか、そもそも私はそういう話に興味はない」
知らないと言いつつ、興味がないというのは矛盾してないだろうか。
果たして寺都は二人の会話の内容を知っているのか知らないのか。
どちらにしても、優也には関係のない内容だろう。そう考え、この話はここで終わらせた。
「………………」
…………………………
なにげ寺都と二人っきりって初めてだ。なにを話したらいいものか。
などと緊張しているのは優也だけらしく。
気まずさを紛らわせるために、優也は言葉を引っ張り出してきた。
「この包帯って、誰が巻いてくれたんだ?」
「私」
「寺都が?」
正直意外である。
「簡単な治療なら私にもできるから」
「そうだったのか。ありがとな」
「別に。感謝されるようなことでもない」
「いやいや。ほんとマジで助かった」
「そう」
……………………………………………………
それにしても、もっと会話、続かないものか……。
(そういや……)
「この部屋って、なんで窓がないんだ?」
「この部屋だけじゃない。少女館もとい研究所本部の建物には窓が存在しない」
「そうなのか?」
今の今まで気がつかなかった。
「またなぜ?」
「作ったところで外の景色が見えないから」
要するに、地下にある、と?
「けど、少女館の出入り口って外の路地と繋がってんだろ? それまで階段を降りるわけでもないし……」
当然建物内でも、このフロアは階段を降りることはない。つまりは、地上と同じ高さにあるということ。
「なぜそこで疑問に思わないのか私には分からない」
「なにが?」
「階段を降りてないなら、少女館は地上にある建物ということ。そんな物、この街にあった?」
「そりゃあ……」
ねえな。
「ならどうなってんだよ。そんな、少女館が透明みたいな……」
「その解釈もあながち間違ってはない。いわば、少女館はこの世界にあって、この世界にない場所」
「あって、ない……?」
ここ最近理解できない物事が多発していたが、このワードはそれらを遥かに超えるほど意味不明であった。
「簡単に言えば、この場所自体が別空間にある」
「結界、みたいなもんか……?」
「似て非なる、というより結界の上位互換にあたる物という方が正確。結界は、この世界を綿密に再現して創り出した別空間に存在する、言わばこの世界の一部分をコピーした別世界。それを応用して、別空間に任意の世界を創り出してるのが、ここ研究所本部に張ってあった結界。当然、少女館もそれを利用してる」
「はあ……」
「理解しようとすることが間違ってる。私だって理解できてるけど、うまく説明でない。そういうものだという認識で大丈夫」
原理とかそんなんは分からないが、優也たちが住むこの世界とは別の場所に建物を造ったということなのだろう。
(けど、それだといずれ世界まるまるを創り出せんじゃ……)
そこまで考えて、優也はふと思い出す。
「……あ、もしかして[黄昏の彼方]とかいう組織が企んでる新世界創造ってのも、それを活用させたものなのか?」
「それはちょっと違う。あの組織が計画してるのは、この世界を新しく創り変えること。今この世界にある全ての人、物を自分たちの思うがまま好きなように創り変えようっていう計画」
どちらにせよ、恐ろしい計画だな。
にしても、そんなこと本当に実現可能なのだろうか。
(ま、『美少女』なんて存在がいる以上、夢のまた夢ってわけじゃないのかもな)
とはいえ、未だに実現されてないのが現実である。