表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美少女はじめました  作者: 針山田
112/154

112話 一番の薬は


「そういや、ここはどこの部屋なんだ?」

「居住区だよ」

「つうことは、あの日から俺は少女館で気を失ったままだったのか」


 薄々、そうではないかと思っていた。

 それにしても、今ばかりは、両親が共働きで、滅多に家に帰ってこないことを幸いだったと嬉しく思う。でなければ、捜索願いを出されていたレベルであろう。


「よかった。優也さん、目を覚ましたんですね」


 そこへ、部屋に入り優也の顔を見て安堵の息をもらしたのは、門番遥。


「遥も無事そうでよかったよ」

「私なんてそんな。優也さんに比べれば、大したことないですよ」

「それでも、遥が無事でよかった」

「そ、そうですか。ありがとうございます……」


 遥がほのかに頬を染めていた理由を優也は理解できなかった。


「ほんとお前らには迷惑かけたな。俺が不甲斐ないばかりに」

「そんなことはありません。優也さんは勇敢だったと思いますよ」

「負けちまったけどな」

「大切なのは結果ではありません。あの状況下で立ち向かえた心です。それは誰にも責めれることではありませんよ」それに、と遥は続ける。「あそこで岡谷太一を止めていたなら、私たちの面目が立ちません」

「それもそうだな。慰めてくれてありがとうな、遥」

「いえ、どういたしまして」


 嬉しそうな遥を横で見ていたひなこも満足げに一言。


「でも遥ちゃんもすみに置けないね」

「?」

「だって、ご飯持ってきてくれてるんだよ?」

「お、ほんとだ。気付かなかったぜ」


 彼女の手に持たれたお盆の上には、出来立てであろう湯気をあげる料理の数々が載せられていた。


「あれ? でも俺が起きてるって知らなかったんじゃ?」

「実は、前を通りかかった時に話し声が聞こえたので。もしかして、と思いまして」

「そうだったのな」


 ベッドの横にあったテーブルの上へお盆が運ばれる。

 途端、美味しそうな匂いが優也の鼻孔を刺激する。


「うまそうだな。遥が作ったのか?」

「はい。自信はありませんが」

「優也くんが起きたらご飯作るって聞いて、わたしも手伝うって言ったんだけどね? 遥ちゃんが、だめって」

「ああ、それは俺もやめておいたほうがいいと思う」

「それどういう意味かな⁉︎」

「そのまんまの意味だ」


 あんな暗黒物質、食べれば再び気を失いかねない。しかも今度はもっと長い眠りになること必至。

 是非、彼女には一度、自分で作ったご飯を自分で食べて欲しいものだ。

 ぶー、と頬を膨らませ、不満そうに表情を歪めているひなこは放って置いて、優也は遥の作ったご飯に目を落とした。


「食べていいのか?」

「はい。ですが、もしよろしければ……」


 お箸で一口サイズに分け、それを掴む遥。


「?」


 頭上に疑問符を浮かべる優也へ、待ちきれないといった風にひなこが言う。


「わかってあげてよ、優也くん。遥ちゃんは、優也くんに食べさせてあげたいんだよ」

「そうなのか?」

「……ゆ、優也さんが嫌でなければ……」


 本当だったんだ。てか、ひなこはよく分かったな。そして急かすように鼻息が荒いのはなんでなんだ?


「それじゃ、いいただきます……」

「…………」


 そこまで緊張されたら、こっちまで移るんだが……。

 それでも優也は口の中へ運ぶ。


「……ん、うん。美味い!」

「本当ですか⁉︎」

「ああ、美味いぜ。遥、料理上手いんだな!」

「そ、そんなことは……」

「是非とも教えてやってくれよ、こいつに」

「優也くんひどくない⁉︎」

「いや、酷くないだろ」


 酷いのはお前の料理だよ。

 そんなことを考えつつ、優也はご飯を食べ続ける。


「気になったこと、一つ聞いてもいいか?」

「なに?」

「寝てる間って、俺どうなってたんだ?」

「どうって?」

「いや、さ、風呂とか入ってないだろ。もしかして臭ってたりすんのかなって」

「それならだいじょぶだよ。遥ちゃんが体拭いてくれてたから」

「遥が?」

「ちょっ、ひなこちゃん⁉︎それは言わないって——」

「あれ? そうだったっけ。ごめんね、言っちゃった」

「ごめんねじゃないよう……」


 絶対に知られたくなかったのに。

 と、後悔しても遅いのだが。ひなこを責めることもできないし。


「何から何まで助かったぜ、遥」

「優也さん……」


 それでも彼が満足してくれたのならば、それで良かったのかもしれない、と遥は思ってしまう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ