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その八

「どうして」

於珠が繰子の傍へ近寄る。

「ん、あれはなぁ、うちがおっちゃんの前で手ぇ落として逃げる前に戸のとこに足置いといただけやよ」

悪びれる様子もなくにんまりと笑う。

外から見ていた於珠には確かに中の様子は判り難かっただろう。しかし。

「そうじゃなくて」

笑いを掻き消すかの様に否定する。

「どうして私に」

――殺させてくれなかったの。

泣いているのか、顔は下を向いている。

「うぅ、そ、それはなぁ」

どないしよと矢張り傍にいた母を見る。

「偶々やって。けど、於珠ちゃんが人殺しても姉さんは喜ばんと思うで」

繰子は傍に居たであろう浮遊霊に聞いたのだろうか。そう言った。

本当にそうなのだろうか。その浮遊霊にはこうなると判っていたのではないのか。真逆。真逆、その浮遊霊とは――。

――姉さん?

そうだ、先も男が言っていた。

於駒――と。

ずっとずっと傍に居たのだ。やっと会えたと思った。

「ねぇ、姉さんなんでしょ?浮遊霊って、やっぱり姉さんなんでしょ!もう一度、さっき見たいに話をさせてよ!」

必死で繰子にしがみつき、縋るように泣く。

しかし。

「違うで」

繰子が言った。

「私はあんたの姉さんやない私はあんたの姉さんに頼まれただけや」

否、繰子に乗り移ったその人物は優しい声でそう言った。

「違う、の?じゃあ姉さんは・・・」

「それは・・・」

会わせてよと必死で訴える。

「それは出来んで」

どうしてと少女は泣き続ける。少女の頭を撫でながら続ける。

「ええか、あんたの姉さんはもう死んだんや。だから会えん。いや、会わん方がええんよ。もし会って、言葉を交わしてしもたら、あんたの姉さんはあんたが気に掛かって成仏する踏ん切りがつかんくなる。せやから、な。姉さんのために我慢しなあかんで。それよりも――」

――あんたが元気で仕合せに暮らしてる方がよっぽど姉さんは嬉しいんよ、と優しく諭す。


ずっと我慢していたものがあふれ出たのか、その晩少女は泣きやまなかった。





一夜明けて。少女は姉の殺された場所に立っていた。すぐ後ろには巫女姿の少女が立っている。

「姉さんはまだ此処にいるの?」

於珠が問う。聞かれてどう答えたら良いのかわからず繰子は頷いただけだった。

――また会いたいて言うんやろか。そらそうやろなぁ。会いたいに決まっとる。けど――。

そんなことを繰子が考えていた時だった。

「姉さん、聞こえてる?私は、これから確り生きてくから。姉さんが居なくても自分だけできっと仕合せになるから。だから、だから――」

安心して。言い終わる前に声は掠れてしまった。

相変わらずか細い声だった。

それでも、その言葉は姉に届いていた。


姉は泣いていた。そして紅い着物の女に何度も頭を下げ、礼を言っていた。

『ええって別に。これはあの子のためでもあるんやから』

ほなな、と立ち去ろうとする女に於駒が問う。

『あの、お名前は・・・』

『ああ、そやったな。まだ言うてへんかったなぁ。私は――』

紅い着物の女は糸、と名乗った。

そして、ちゃんと成仏せなあかんでと言って立ち去って行った。

葦は矢張り片葉のままだった。


「そういえばあんたの夢ってなんだったのよ」

姉への別れを告げた帰り道、少女は繰子の方を向いて問う。眼には泣き腫らした痕がある。

「ん、あぁ。まぁ正体ばれてもうたからええか。うちなぁ、人間になりたいんよ。昔お母ちゃんが読んでくれた本にな、良い事したら人形が人間になれるいうのがあったんよ。だからきっと、うちも良いことしてたらなれるんかなって。そのために旅しとるんよ」


聞いていた母は少し複雑な顔をしていた。


けれども、娘の顔はやっぱりにんまりと笑っていた




おまけ。

「そや、なんであのおっちゃんにはお母ちゃんが見えとったん?」

『ん、そやなぁ。これから死ぬ人間には見えるんとちゃうかな』

「そんなもんなん?」

『そんなもんや。・・・ところで何か忘れとるような・・・あ!おまえ、あの子に私のこと婆さんて言うたままやろ!あ、こら、待ちぃ!私はまだ若いんや!』


                                 了

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