第三話 〜今を生きる〜
「ハクトさん…」
後ろから自分の名前を呼ぶ声がする。なにかと思い後ろへと振り向く。そこには二人の女性が立っていた。片方の陽気っぽい桃色の髪をした人は背中に弓を担いでいる。もう片方の黒色のロングの髪をした人は腰に刀をさしている。
「えっと…何か用ですか?」
そう言うと、二人は顔を見合わせてこそこそとしている。少し間があってから、桃色の髪をした女性が口を開いた。
「あたし達をパーティに入れてくださーい!」
なんてストレートな奴なんだ…人を顔で判断してはいけないとかよく言ったもんだ。
「ちょ、ちょっとリズぅ…」
もう片方がこいつに向かって言った。今の言葉からして桃色の髪をした人はリズと言うのだろう。
そして、返事の方だが…
「すまないがパーティを組む気はない。用がすんだのならもういいですか?」
「そこをなんとかお願いします!」
「すまない。いろいろあってパーティは組みたくないんだ。他をあたってはくれないか?」
しかし、まったく退く気はなさそうだ。一体何故俺なんかに…
「一体なんで俺なんだ?他にいるだろ。見る限りビギナーじゃなさそうだし、歓迎してくれるパーティもたくさんあると思うぞ?」
二人は困った顔でお互いを見合うと、ニッと笑いメニューを操作し始めた。一体どうしたことか…
「それじゃあ、デュエルで決めません?私達二人とあなた達二人でタッグマッチです」
そういい、彼女は笑った。それを見て俺はよくわからない感情を読み取れた。しかし、なんて言っていいのかわからない。ただ、一つだけ分かるのが、奴はワクワクしているのだ。戦うことを。
だが、
「すまない。さっきも言ったが駄目だ。俺はパーティなんて組む気はない」
俺は冷たい視線をリズに送る。確かに俺をパーティに誘ってくれることは嬉しい。でも、どうしてもまだ忘れられないんだあの出来事が…
ハクトの脳裏にミサトのことがよみがえる。
もう…あんな思いはしたくない。
ただ、ウィズだけは違った。何でかはわからないのだが、こいつは信じてもいいって本能が言ってる気がするのだ。だから、俺はウィズとパーティを組んでいたい。近くにいたい。そう思うようになった。
「もうくるな。行くぞウィズ」
俺はウィズの手を取り歩き出した。
後ろでは二人がこちらを見ている。あと、もう片方は何だったのだろう。なんか懐かしい気がした。
***
「ハクトさん、まだですか…?」
「もう少しで途中のキャンプ場がある。そこまで頑張れ」
リズ達からパーティに誘われてからかれこれ三日。ハクト達は今ダークターミナルに向かっている最中だ。
ダークターミナルはファーストギアから向かうと約地球から月までの距離と同じくらいある。なので、今ハクト達はダークターミナル行きのジェット機がある人界の一番端の都市、アランへと向かっている。
アランまでも結構遠く、ハクト達は今バギーで向かっているが、アランまで7500マイルある。バギーで走りつづけて約二日。結構体に負担がきている。
「本当にもうあと少しだ。あと1時間もあればつく。それまで寝ててもいいぞ」
「それじゃあお言葉に甘えて…」
そういうとウィズは肘かけを枕がわりに寝てしまった。
何故ダークターミナルへと行くことになったのかというと、ウィズのレベルが低すぎるので、それを底上げするための合宿だ。
そして、その合宿の内容だが…
「ダークターミナル一から一から十層まで攻略か。俺は問題無いけど、ウィズは大丈夫かなぁ…」
俺はレベル230だが、ウィズぱレベル112なのだ。行けても6層くらいだ。せめて行くまでにレベルを200まで上げる必要がありそうだ。
それから1時間後、やっとアランに到着した。アランは機械系の物がたくさんある。銃などが売っているだろうが、この世界では銃がとても貴重で、ハンドガンでも一丁100万ゼニーほどする。
「ウィズ、ついたぞ。早くおりろ」
ウィズへ眠気眼を擦りながら伸びをしてバギーからおりた。
ダークターミナル行きのジェット機ほ明日の昼だ。それまで今日は宿に行くこととする。
「こんなでかい都市だと宿も高いんですかねぇ」
「だろうな。でも金もあるしそれだけ豪華なんだ。これから合宿なんだから贅沢してもいいだろう」
適当な話をしながら宿を探す。しかしなかなか見つからない。10分ほど探し回ったのだがどこにもない。一体どうなっているんだ。
「しょうがない。誰かに聞くしかないな」
俺はすぐ側を通っていた女性に声をかけた。
「あ、あの、すみません。ここらへんに宿ってありませんか?」
やばいなぁ。なんかナンパしてるみたいだ。しかもさっきはよく見えなかったがその女性はなかなかかわいい女性だった。ちょっと大人っぽいクールな人だ。
「私が宿屋だが何か?」
なんて幸運なんだ。適当に声をかけた人が宿屋だったなんて運良すぎだろ!
「そうですか。実は一泊したいのですがいいでしょうか」
「あぁ。もちろんとも。さぁこっちだ。ついて来てくれ」
そのまま俺達は宿屋まで向かった。
「ここが私の家だ。2階の二部屋を使ってくれ」
「どうも。助かる」
あれから大体5分くらいで着いた宿はごく普通の家だった。まぁ別にいいのだが。周りは人が少なく、建物も他にあまりない。とても静かな場所だ。
俺達はさっさと宿の中へと入る。
「お邪魔します」
中も普通の旅館のような感じとなっている。入口には色んな装飾が施されており、靴箱の中にはスリッパがちゃんと入っている。とても用意周到で、埃一つ無い。
「とても綺麗ですねハクトさん!こんな宿現実じゃぁ泊まったこと無いですよ!」
「あぁ。とても隅々まで掃除されてる。俺の部屋とは大違いだ。」
そんなやり取りをしながらスリッパに履き替え2階へと向かった。
2階には二部屋あり、右が俺、左がウィズとなった。
内装は畳みが敷いてあり、机や襖などなど。あるものは普通だ。
俺は身につけている装備を外し浴衣に着替える。ここの地域はとても暑いので、浴衣はとても涼しかった。
「もう7時か…」
確かこの宿には温泉があるらしい。なので俺は早速部屋に用意されていたタオルを持って浴場へと向かった。
浴場は一階の北側にある。俺が部屋を出ようとすると、その前に階段を下りる音が聞こえた。ウィズも今から入るのだろう。
俺も続いて浴場へと向かう。
なんとか迷子にならずに着くと、さっと浴衣を脱ぎ、腰にタオルを巻き息子を隠す。一人だとはいえ息子を見せながら入るのは苦手だ。
そのままガラガラ扉を開け湯舟に浸かる。
「あぁ。気持ちいい!。疲れが吹っ飛ぶ」
「ひ?!」
「ん?」
何か岩の向こうから聞こえたがよくわからなかった。ちょっと気になるので確認することにした。
「一体誰だ?俺ら以外に男の客な………んて…………………」
「きゃぁぁああ!!」
そこにいたのはウィズだった。一体どうして。
俺は驚きのあまり後ろにひっくり返る。
次の瞬間、扉が開く音がした。
「おお!中がいいのは見たときから思ったがまさか、裸の付き合いをする程までの仲だったとは」
「おい女将てめぇ!混浴とか聞いてねぇぞ!」
俺は怒りを女将にぶつけるが、女将は平然とした顔を保ったまんまだった。
「そりゃぁ言ってないもの。そっちの方が面白いかと思ってね。あ…」
「「あ…」」
その出来事は一生忘れることは無いだろう。俺の腰に巻かれていたタオルがスルスルと解けて湯舟に落ちた。
「おお!」「きゃぁぁああ!!」
俺はあまりのショックにそのまま硬直状態になった。
***
アラン西区。酒場。
「あぁあ…ハクトがいたら結構な戦力だったのになぁ」
リズとヌールはアラン西区の酒場にきていた。
「しょうがないよ。ハクトにはトラウマがあるのよ」
「トラウマ?!彼にそんなものがあるの?!聞かせて!」
急にリズが身を乗り出した。周りで飲んでいた人が一斉に視線を向ける。
「あ〜わ、わかったから。実はね、ハクトは以前やってたVRMMOで同じパーティプレイヤーをキルする「パーティキラー」に何度も襲われたの。そして、これで最後にしようと組んだプレイヤーにも裏切られた。たしか半年ほど一緒にプレイしていたかしら…だから相当のキズ負っちゃって、それからかなぁパーティ組まなくなったのは」
「で、でもあのウィズって子は?あいつパーティだったじゃん」
リズは机の上のウーロンハイを一気飲みしてから言った。確かにそれはヌールにも分からなかった。きっと、その子はハクトを信じさせる何かがあったのかもしれない。
「私にもそれは聞いてみないとわからないなぁ。それより、合宿の方は大丈夫?」
「大丈夫大丈夫!大丈夫すぎて20層まで行っちゃうよ」
リズは大丈夫そうだ。今回の合宿は一気に未確認領域にまで立ち入る。死人が出てもおかしくない。
でも、ゲームクリアには必要な事なのだ。
***
アラン南区、旅館前。
「一日ありがとうございました。そろそろ行きますね」
女将に手を振りながらお礼を言うと、剣を背中に装備する。
「頑張って来いよ。ゲームを終わらせるための第一歩だ」
「あぁ。行ってくる」
「いってきます!」
挨拶を終え、俺達は西区へと向かった。
30分後、ようやくダークターミナル行きのジェット機に到着した。出発まであと20分だ。
ジェット機はとても大きくて、飛行機ほどあるが形は速い速度に耐えられるような形に改良され、全体的に凹凸が少なくなっている。
もう一つ違うところと言えば、ロケットエンジンが六つついていることだ。
内装はそれぞれのパーティごとに別れた部屋がある。その部屋の中は二段ベットが二つとロッカーくらいだ。その部屋の数はおよそ十部屋だ。
そして今、ハクトとウィズの二人は部屋の中にいた。
「わぁ。凄い!でも二段ベット二つもいらないなぁ」
「まぁ他のパーティは大体4人だからなぁ」
パーティの最高数は4人だ。まぁこれがベタだろう。
俺は二段ベットの上のベットに服を脱いで、下のベットにくつろいだ。なんだか二段ベットを独り占めできるのはなかなか悪くない。
ウィズも同じように上に服を脱ぎ下のベットに座っていた。
「なかなかいい座り心地ですね。ケチって安物にしてあるかと思いましたけど…」
「このジェット機の作者はなかなか几帳面な奴なんだ。一部だけ安物ってのも嫌だったんだろう」
このジェット機の作者はNAKEDという奴らしい。なかなか有名な奴らしくて、機械類、衣類、雑貨類、武具類。いろいろなものを完璧に作ってしまうらしい。
「えっと…何日間でしたっけ、ダークターミナルまで」
ウィズが苦笑いしながら俺に質問してきた。たく、さっきも言ったのに…
「4日間だよ。それまではずっとこのまんまだ」
「4日間…」
遠い目をしているウィズがそこにいた。確かに4日間とはなかなかきついものだ。なので一日に一回イベントがあるらしい。そして、明日の昼にはパーティ紹介というものがあるらしい。俺はこのパーティ紹介は少し気になっていた。俺らの他にはどんなパーティがいるのか、どんなパーティなのか。いろいろと把握していなければならない。なぜならこれから共に生死をかけた戦いに出向くのだから、それぞれのパーティの特徴を理解しておく必要があるわけだ。
そこに、危険なパーティがあるなら尚更…
「もうすぐ出発ですね!ワクワクします!」
ウィズは枕を抱いてベットの上でゴロゴロ転がっている。なんとも緊張感のない奴なのだ。これから行く場所で死ぬかもしれないのに。
「気軽でいいなぁお前は。俺もそこは見習いたいよ」
ホント。こうマイペースな奴に嫉妬しちゃうんだよなぁ。不安でも気楽にいけるから。
『間も無く、発車いたします。揺れにご注意ください』
機内アナウンスが鳴り響いた。出発の合図のようだ。時計を見るとちょうど12時を指していた。
そして、一瞬揺れてから、エレベーターで上に向かう時の感覚のようなものが体を襲い、離陸したのかと瞬時に判断した。
部屋の中には、あまりの速さに窓が割れてしまうので窓は設置されていないが、普通の窓のように映像パネルが表示されている。そこにはとても綺麗な青空と雲が広がっていた。
「綺麗…」
「あぁ。そうだな」
まるでここが仮想世界じゃなく現実だと思えてしまうほどだ。それほどに綺麗な景色なのだ。こんなウィズみたいな可愛い女の子と一緒にできる空の旅が現実だったらどれほど幸せか…
「私達は今この世界に生きているんだ。あの地球という現実じゃなくてこのAWOという現実に…」
「………そうか…」
ウィズの言葉はとても穏やかで、まるでさっき自分の考えていたことを見透かされたようだった。
「そうだな。本当の現実世界に戻るために生きるんじゃなくて、この世界を今生きるんだ。今ここが俺達の現実なんだ」
そう…現実ではなにもできない俺でも、この世界ならできることがたくさんある。そして、できることがたくさんあるこの世界が俺の今の現実なんだ。
そのまま、いつまでも俺はこの大空を眺め続けた。




