第一話 〜AWO〜
2063年12月3日。日本の世界的大企業『earth』が世界初の相対性理論を駆使したVRMMOを開発した。それは『アナザーワールドオンライン』。相対性理論の原理を使うことで現実の1000分の1の時間の速度でゲームを楽しめるようになっている。
このAWOのもう一つの特徴はマップの壮大さと自由度だ。
マップの広さは約地球の7倍、光の1秒分の距離だ。
そして、自由度が高いというのは、ゲーム名のアナザーワールド、つまりもう一つの世界である。AWO内には地球上にあるものはもちろん、AWOオリジナルのアイテムも億を軽く超える。
それら多種のアイテムを使いこの壮大な仮想世界に文明を築いていくのだ。
しかし、そのゲームが悪魔のゲームだと、世界中の人達知る余地もない。
***
「AWO発売開始までーー!」
今、世界中のゲーム店舗は相当な騒ぎになっていることだろう。
実際今俺がいるゲーム屋も凄い騒ぎだ。
俺の名前は覇龍陸斗。高校二年生だ。
そして、周りの客たちがカウントダウンをし始めた。
「10!9!8!7!……」
カウントダウンは終わりに近づくにつれてどんどん大きくなっていく。
「3!2!1!………」
そして…
「スタート!!」
わぁぁぁあぁぁああ!。
一気に大きな歓声へと変わった。
その大きさは想像以上のものだった。
俺は三日前からならんでいたが、それでも前には何十人もいる。後ろにはその何倍もいる。一体何キロあるだろうか。
そして、やっと俺の番がきた。
「特殊VRダイブ機、ライトとセットで4万5000円となります」
さすがは体感時間をコントロールするだけあって値段は半端ではない。
俺は渋々財布の中から5万円を取り出し店員に渡す。
「5万円お預かりします。お釣りは5000円です。お確かめください」
俺はお釣りの5000円とライトとAWOのダウンロードカードをもらい、すぐに家へと帰った。
俺は高校生になってから一人暮らしを始めた。
そしてここが俺の住んでいるアパートだ。
部屋に向かっていると、一人の女の子がいた。
「あ、零さん。AWO買えましたよ」
この髪の長い女性は零という俺のお隣さんで同級生だ。
「私も買えたわよ。1日前にいったけど楽々買えたよ?」
「え、えぇ?!」
確かにそうだ。一店舗1万本以上置いてあるからおかしくないだろう。
「そ、それはよかったね。それじゃあ俺いろいろ設定しなきゃいけないからもう行くわ」
「うん。それじゃあまたね」
俺は零と別れると足早に自分の部屋へとはいった。
部屋は大体五坪ほどだ。
俺はデスクトップパソコンにライトをUSBメモリーで繋ぎ、前使っていたライトの旧式のデータを今日買ってきたライトへとインストールする。それからライトにAWOをインストールした。
俺はライトを頭にかぶりベットに寝っころがる。
そして右側についている電源ボタンを押した。
すると画面がどんどん白くなっていき、とうとう真っ白になった。
***
「こ、これは…」
目を覚ますと、俺は真っ黒な部屋にいた。あるのは宙に浮くエアキーボードと、その上にあるPLAYER・NAMEとかかれたパネルだけだ。
「いそがねぇとカブる!」
そう、急がないとすぐに名前が同じなものが出てくる。
「えっと…rikutoっと」
ピーーー!
しかし、画面にはrikutoというユーザー名は存在しますと書かれていた。
「マジか…」
俺はため息をつき、何にしようか考えた。そしたら、昔使っていたネームを思い出した。
「hakutoっと」
ハクト。覇龍のハと陸斗のクトをかけたのだ。なかなかいいできだったので気に入っていたのだ。
『性別の選択』
ここからは字幕は日本語に訳してくれる。
俺は迷わず男を選択する。
『容姿の調節』
容姿の調節とはいっても本当に少しだけで、できるのは髪型と髪の色、メイクくらいだ。
俺は特に興味がなかったので何も変えずに終了した。
『モードの選択』
モードの選択?俺はよくわからなかったが、次に出てきたパネルで大体わかった。
「ノーマルモードと…アクロバットモードか…」
下の方にいろいろ説明が書いてあった。
ノーマルモード。運動能力の低い人にオススメ。
確かに、ゲームをやる人には体が弱い人もいる。だからノーマルモードだと大体のことをコンピュータがカバーしてくれるのだ。
しかし、俺はアクロバットモードにした。アクロバットモードとは、生身とほぼシンクロ状態で、毎回動いていたりして体が慣れている方にオススメなのだ。
選択し終えると、キーボードが消え、新しいパネルが浮かび上がった。
『それでは新たな世界をお楽しみください』
そしてまた視界が白に染まるのだった。
***
目が覚めるとそこはとてもでかい大都市だった。
「す、すげぇ…」
見渡す限り人だらけ。昔の文明っぽい建物ばかりだ。
「嘘だろ…」
俺は信じられないことに気づく。
地面に生えている草をちぎってその切れ目をよくみてみる。
「結晶化しない…以前ならオブジェクトごとなくなったのに…」
それだけではない。切れ目には維管束から水がしたたっていてとても水々しい。
「一体草一つで何MB使ってるんだ…」
そんなことはともかく、ここはファーストスポーン地点の中央都市『ファーストギア』だろう。
「まずはこのザ・初心者の装備を何とかしないと…」
俺はメニュー画面からマップを開く
そしてマップから武具屋を探す。
「ここか…」
そこはごっついおじさんが経営していた。
「おぉ!いらっしゃい!何にする?」
俺は現れたパネルを見て何にするか選ぶ。
「これだ!」
ブラッキーコート。長袖でマントっぽい服で、剣士用らしい。
それともう一つ、アギトという重めの片手剣だ。
「4300ゼニーだ」
俺が持っているのは5000ゼニー、ギリギリ買える。
「まいど〜」
残り700ゼニー…一気に財布の中が寂しくなったなぁ。
俺はそのあと適当に雑貨屋で買い物をしてから街をでた。
ちなみにこのAWOの最終的目標はこのファーストギアの裏側にある『ダークターミナル』の攻略である。
ダークターミナルとはこの世界の3分の1の領域で、モンスターの住処のようなものだ。
ダークターミナルは設定上では100層ほどあるらしく、段階ごとにモンスターは強くなっていくだ。
かといってダークターミナルだけにモンスターがいるわけではない。こっち側(人間界)にもモンスターは生息している。今からそいつらを狩りに行くのだ。
今向かっているのはファーストギアから南の方角のゴブリンが多く生息しているアラス平原へ向かっている。
ゴブリンは知っての通りRPGの中でも雑魚中の雑魚だ。
しかしゴブリンの厄介なところは集団で襲ってくることと、一体一体すばしっこいところである。
「あ!いた!」
前方にゴブリンを5体発見した。
こっちから見てゴブリンは台形のような陣形になっている。
俺は左から工を描いて突っ走っていく。
「あぁぁぁあぁぁああ!!」
一匹のゴブリンを横殴りに吹っ飛ばす。その一撃の回転を利用してそのままもう一回転、もう一体のゴブリンも斬りつける。
ゴブリンは攻撃を決めてしまえば一撃でも倒せることがある。俺はVRMMORPGは長年やってきた。敵の急所をつくのはたやすいことだ。
残り3匹…左後ろに1匹、前に2匹。
「はぁぁあああ!!」
俺は一回転勢いをつけそのままゴブリンを左上から右下へと真っ二つに両断する。
「ふ、なんだよ…」
俺は勢いを殺さず一気に剣を水平に一線する。これで残りのゴブリンは全て消えた。
「さすがは雑魚キャラ。レベルアップさせてもらうぜ」
そのまま俺は何時間かゴブリン狩りに専念した。
「いやぁ疲れた〜。結構溜まったかな?」
俺はワクワクしながらステータスを確認する。このワクワクはゲーマーにならわかるはずだ!。
「レベル23、ステ振りポイントは69か。ソードスキルは74か、まぁこんなもんだよな」
このゲームにレベルの上限はない。ソードスキルは74だろうが、これでもまだ序盤と同じだ。
ステ振りには項目がいくつかある。それは、アタック、ガード、スピード、パワー、HP、アイ。アイとは目のことで、遠くのものが見えたり、素早いものを見極めることができるようになるのだ。
俺はスピードアタッカーを目指すつもりなのでアタックとスピード、アイを中心的にあげていくことにした。
ステ振りを終えて立ち上がろうとした次の瞬間、
『どうも、みなさん。AWOを遊んでいただきありがとうございます』
いきなり空が赤くなり、どこからか声が聞こえてくる。
みなさんと言っていたから他のプレイヤーにも聞こえているのだろう。
『この世界はゲームではない。仮想世界という新たな現実だ。君たち、メニュー画面を見てくれたまえ。気づくはずだ、なければならないものを』
俺は言われたとおりメニュー画面を確認する。
「っ?!」
『気づいていた人も多いだろう。そう。このゲームにはログアウトというものがない仕様となっている』
「ログアウトが…できない…?」
『発売時は1000分の1と言ったが本当は嘘だ。実際は1500分の1の時間の進みなのだ。つまり現実の2.4秒はこちら側では1時間なんです。凄いですよね。しかし、脳にも寿命があります。あまりこの世界にいすぎると脳の年齢が衰えていき、寿命が縮まってしまうので注意してください』
1500分の1…想像がつかない。ログインしてからたった時間は大体4時間。しかし現実でたっているのはたったの9.6秒。信じられない。
『そして、唯一この世界から脱出する方法、それは…』
「そ…それは…」
俺は謎の男が次にいう言葉を固唾を飲んで見守る。
『ダークターミナルの攻略。それが脱出する方法だ。しかし、』
まだなにか言うのか。
ダークターミナルを攻略するのはそうとう困難なはずだ。
『さっきも言ったとおり、ここは新たな現実。ゲームではない。現実は死んだらそのまま死んだままだ。この世界も同じだ。死んだらリスポーンなんてことはないのだ。この世界でHPが0になればライトが直接脳を焼き斬るようになっている。それでは、私が話すのはここまでだ。検討を祈るよ』
そしてその声が聞こえることは二度となかった。
「冗談だろ?」
そんなバカな。あり得ない。こんなことして世間が黙ってるわけがない。きっとなにかあるはずだ。
しかし、こんな大企業のことだ。嘘でもついてやり過ごすに決まってる。
最低でも3日間中には終わらせないと餓死する可能性がある。
あっちの3日はこっちの12年。タイムリミットは12年か…
12年でダークターミナルを攻略できるのか…
「零…大丈夫かなぁ…」
***
あの放送から二日が過ぎた。
俺のレベルは150に達していた。
「正直に言うと、悪くない」
俺は内心、この状況を楽しんでいるのだ。現実が自分の大好きなRPGに変わってワクワクしているのだろう。
「この世界は新たな現実…か…」
俺はあれからもまだソロプレイヤーとしてやってきている。それには理由があった。
半年ほど前の話だ。
***
「リクト、今日何狩る?」
この頃俺にはミサトというパートナーと一緒にプレイしていた。
このゲームはあるVRMMORPGをやっていた時のことだ。
「今日はヴィザードを連戦しようぜ」
ヴィザードとは上級の大型モンスターで、なかなか経験値がもらえる連戦にはうってつけのモンスターだった。
そして、俺たちはそのままヴィザードを狩り続けた。でも、それからあんな事になるなんて…
「これは一体…」
俺たちは経験値を溜めたあとを狙うプレイヤーキラー達に狙われたのだ。
数はおよそ7人、全員剣だ。
「クソ、ここでキルされたら今日の苦労が水の泡だ」
さすがに7人だと数が多すぎるので、相手の隙を見て離脱することにした。
「あぁぁぁあアア!!」
俺は二人の敵を横殴りに薙ぎ払い、その片方に剣を突きたて倒した。
「よし!これならいける!このままいくぞ!ミサ…ト?」
その時、ミサトはいなくなっていた。あったのはワープを使ったあとの光だけだった。ミサトはメイジ。魔法で一人だけ離脱したのだ。
「そんな、ミサト……嘘だろ?」
信頼してた。この人とならこれからもやっていけると思ってたのに、今、裏切られた。俺はを囮にして一人演唱して逃げたのだ。
「クソがぁぁァァアアア!!」
怒りに任せて剣を振るう。
敵は怯んで勢いがなくなってきている。
「お前らなんかぁぁああ!!」
それから他のキラー達を返り討ちにして拠点としていた街へと戻った。
「ミサト…きっと理由があるはずだ」
俺はそのまま街をタラタラ歩いていた。するとミサトが目の前に現れた。
「ミ、ミサト!無事だったか、よかった。よし、まだ時間あるしさ、酒場で飲もうぜ!」
しかし、ミサトの目に光はなかった。
「ミサト、別に一人ワープしたことならもういいからさ、な?」
でもなにも変わらない。一体どうしたというのだ。
そして、次に帰ってきた言葉は予想外のものだった。
「別に、一人でワープしたことなら悪くなんて思ってないし、当たり前でしょ?なんで仲間と一緒に死ななきゃいけないの?自分でワープできるのに。それと、」
彼女の目は闇に染まっていた。
「貴方とはもううんざりだわ」
次の瞬間、目の前にデュエルの申し込みのパネルが現れた。
「ちょ、ちょっと…これはどう言う…」
どういう冗談だよ。しかしミサトの目は本気だ。何か糸があるに違いない。
「わかった。でもなんでだ。理由を教えてくれ」
俺は恐る恐る聞いた。
周りを通っているプレイヤー達も次々と俺たちの周りに集まってくる。
「経験値、金、全て賭けなさい。私もそうするから。あなたは絶好のカモだ。さっきのプレイヤーキラーに任せて殺そうと思ってたのに、ノコノコと帰ってきやがって、だから私じきじきに貴方を葬ってやる」
くそ…やっぱりこんなことかよ…
俺はミサト以外にも何人かに同じことをされたことがある。運良く全員俺より弱かったからどうにかなったし知り合ってからちょっとしかたってなかったからあとあと落ち込むこともなかった。
でも、
「お前なら、信頼できたのに…」
俺は経験値と金を全て賭けた。本気で彼女とやり合うために。
俺はデュエルの招待を受けた。
「そうこなくっちゃ」
周りでは他のプレイヤー達が見ている。いつもなら緊張していたが、今はミサトへの怒りが強すぎて何も感じなかった。
「手加減はしねぇぞ。ミサト」
「手加減してもらっちゃぁ困るよ」
カウントダウンがスタートいた。
3!2!1!
「「デュエルスタート!」」