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天罰戦線の殺神者  作者: 有栖
第四章『道化師型』
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第8話『休息』

第四章第二話『休息』



「休めって言われてもなあ…。」


燐が出ていった後、紬は少し途方にくれる。


「紬さん紬さんっ!今からどうしますか??」


―こいつがいたら休むにも休めん…。


改めて紬はフェリスティナをまじまじと見る。


透き通るように白い長い髪を揺らしている


背丈は紬よりもかなり小さく、見た目的には13歳くらいの少女だろうか?


お世辞抜きにしてかわいいと思う。


「うっ!?」


フェリスティナをじっと見ていると、ピシッと紬の頭に痛みが走る。


それに呼び起こされたように流れるのは天罰の日の記憶。



あの忌々しい記憶で今まで少しぼやけていた部分。

妹の顔。


―っ!?似てる?


年齢に違いはあるものの、今見た妹の顔が育てばフェリスティナのようになるのかもしれない。


なんだか不思議な思いがした。



「どうかしましたか?紬さん。」



「え?ああいやっ!」


そんなことを考えながらじっと見ていると、首をかしげたフェーに声をかけられ、紬は慌てたように目を逸らす。


「それでそれで、どうするんですかっ!?」


「そうだな…。フェーは何がしたい?」


「食べ物を食べてみたいですっ!!」


「そうか…。んじゃあ第二階層でも行くか?」


「はいっ!!」


なぜだかさっきまであんなに嫌だったフェリスティナの同行がそんなに嫌ではなくなっていた。



‐同日‐AGF極東支部第2階層‐階層移動エレベータ前



「ふぇえっ!?人がいっぱいいますっ!いっぱいいますよ紬さんっ!」


「そうだな…。そうだからちょっと黙れ…。」


周りの人が騒ぐフェリスティナをちらちらと見ている。


「人ってこんなにいたんですねえ…。実際に見るとすごい迫力です!」


「実際に?」


「ふぇ?ああ、私は監視カメラの映像とかも全部見れるので仕事が暇なときに見てまわってるんですよ?」


「仕事しろっ!!」


紬がフェリスティナの後ろに周り、ムニッと彼女のほっぺたをつねって引っ張る。


「ふぇえっ!?ひはひっ!?ひはひへふっ!ふふひはぁん!!」


「何言っとるかわからんわっ!」



彼女の必死の主張をよそに、紬がいっそう引っ張る力を強めると、


「あらあら、仲がいい兄弟ねえ。」

「かわいいわねえ。」



周りの主婦のような人たちがクスクスとほほえましいものを見るように紬たちを見ていた。


「っ!?」



紬は少し赤くなりながらフェリスティナのほほを離し、歩き出す。


「ふぇえっ!?待ってくださいよおっ!紬さーん!」



ほほをさすってダメージ回復をしようとしていたフェリスティナが、慌てて紬を追いかける。



「で、お前は何が食べたいんだ?」


「ふぇぇ…。そうですねえ…。」


腕を組み、『うーん…。』と考える。


「ラーメンっ!」


「よしきた。」


とはいえ、ここAGF極東支部にあるラーメン屋はひとつだけである。



「おっちゃん、醤油。フェーは?」


「同じので!」


「じゃあ醤油ふたつで。」



『あいよー!』という威勢のいい返事が帰ってくる。


「フェー、お前はほんとになんなんだ?どうしてコンピュータが人になってる。」


「ふぇえ…。すごく難しい質問ですね…。」


少し考えるようにしてフェリスティナは話す。


「実際、私もわからないんですよ…。紬さん達があぶないっ!!って思って、助けなきゃっ!て思ったらコンピュータの外に…。あ、でも!」


「でも?」


「私のプログラムに新しいものが追加されて…。追加と言うか既存のプログラムが適用されたって感じですかねたぶん。」


「ほう…。」


「外に出る前に、私、"You are the univers."っていう文を見た気がします!」


―俺のみた文字列と繋がっている…?

それに、この話だとフェリスティナには元々こうなる機能があったのか…。



顎に手を当てて考えていると、「へいおまちっ!」という声とともに、ラーメンが運ばれてきた。


「紬さん紬さんっ!来ましたよ食べましょうっ!」


「はいはい…。」


「いただきまーすっ!!」


「お前箸の使い方わかるのか?」


「データにはありますよっ?フェーに任せてください!」


そういってラーメンをすくいあげるが、うまくいかずスープの中に再ダイブさせてしまう。


「ふぇえっ!?難しいですっ!」


「ああもうっ!汚いな!こうやってやるんだよっ!」



先程までの思考を捨てて、フェリスティナに箸の使い方を教える。


久しぶりの賑やかな食事に、なんだかんだ紬の口角は上がっていた。





「ふえぇ…。人間の食べ物は美味しいですねえ…。」


ラーメンを食べ終わった紬とフェリスティナは、再び改装移動エレベータの前に移動していた。


「コンピュータから出てきたと思ったら食べ物食べるし…。お前はほんとになんなんだ…?」


「それがわかれば苦労なんてしないですよ!」


「そもそもお前は今苦労してないだろ!」


「ばれましたぁ?」


フェリスティナが舌をペロッと出して笑う。


―まあそのうちわかるか…。



紬は一旦考えることを放棄したようだ。


「次はどこにいくんですかっ?」


そんな紬に、フェリスティナがキラキラとした目を向ける。



「そうだなあ…。」


ふと、紬の脳裏にブリーフィングからの去り際のロベルトの沈んだ顔が浮かんだ。


―ユウイチさんとロベルトさんは仲がよかったのかな…。


農場での様子を思いだし、そう考える。


農場での出来事を思い返していると、不意にユウイチの言葉を思い出した。


『お前もこれから手伝ってやってくれ。』



―行ってみよう…。



「フェー、第三階層に行こう。」


「ふぇ?なにがあるんですか?」


「ちょっとね…。」





‐同日‐AGF極東支部第3階層‐ロベルトの農場



農場へ着き、ロベルトを探して辺りを見回すと、少し離れたところで鍬を持ち、地面を耕しているロベルトが見えた。


声をかけようかかけまいか少し迷った後、紬は農場を少し入ったところの草をむしりはじめる。


「紬さん、ロベルトさんに会いに来たのにどうして話しかけないんです?」



フェリスティナが不思議そうな顔をする。



「いろいろあるんだよ…。ほら、お前も手伝え!」


「ふぇーい、わかりましたー。」



数分後には、紬はロベルトのことを忘れて草むしりに没頭していた。



草をむしるふたりを、ロベルトはチラッと見て、再び作業に戻った。





―だいぶきれいになったかな…。



辺りに生えていた草を軒並みむしり終わり、紬は満足げな顔でにたいの汗をぬぐう。



「少しは気分が晴れたか?」


「うわっ!?」


その瞬間、後ろからロベルトが声をかけてきて、紬は驚いた顔をする。


「あ、ロベルトさん!」


フェリスティナが笑顔で声をかけると、ロベルトは少し不思議そうに腕を組む。


「ふむ…。お前があのフェリスティナなんだよな?」


「ふぇ?そうに決まってるじゃないですか!」


「どうにも慣れんな…。」


「俺もです…。」



AGF在籍年数の長いロベルトにとっては特にそうなのだろう。


「まあいい…。ほら、手伝ってくれた礼だ。」


そういうロベルトの手にあるのは、もぎたてのみずみずしさを残すネギであった。



「ネギ…。これ、生で?」


「ん、それもそうか…。手頃にあったものをもいできてしまった。少し待ってろ。」


そう言うと、ロベルトは倉庫のようなところへむかい、中をまさぐり始めた。


「あった。」


そういって持ってきたものは、なにか四角い箱のようなもの。


「なんですかそれ?」


紬が、不思議なものを見るように首をかしげると、横からフェーが紬の質問に答える。


「フェー知ってます!それは七輪というものですよね!」


「ああ、その通りだ。」



そう言うと、七輪の中の炭に火を入れる。


「焼いて食うぞ。」


ロベルトは、ポケットからナイフを取りだし、ネギを一口大に切る。


そしてそれを網の上に乗せてどこからかもって来た塩を振りかける。


「まあ焼けるまで待ってろ。」


そう言って、手近な地面に座り込む。


「あ、あのっ!」



しばらく沈黙が続いた後に、紬が意を決したようにロベルトに話しかける。


そんな紬をチラッと見て、ロベルトは少し息を吐く。



「あいつのことは気にするな。勝手に飛び込んで行ったんだ。」


「でも…。」


「人の死を自分のせいだと思うな。戦場での死は自己責任だ。だが…。」


ロベルトは少し考え込むようにして言葉を続ける。


「だが、どうしても気にすると言うならお前があいつの分も働け。あいつと同じ土台に立て。強くなれ。それがお前のできる唯一のことだ。」


紬は、その言葉をグッと噛み締める。


「はいっ!俺、強くなります。ユウイチさんを越えれるくらいに強く!」


紬の言葉を聞き、ロベルトはコクッと頷く。


「ほら、焼けたぞ。食え。」


そして、焼けたネギを差し出して来るのであった。




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