第7話『戦闘後』
-同日‐AGF極東支部第5階層‐中央指令室‐
「皆、お疲れ様。」
神との死闘を終えて指令室に帰ってきた守護隊の面々に、燐が声をかける。
「残念ながら、この戦いで我々は大切な仲間を失ってしまった。」
そう言う彼女の目には涙がにじんでいる。
だが、悲しみを堪えて隊長として言葉を紡ぐ。
「だが、我々はこの戦いで大きな成果を上げた。」
彼女の目が紬の方を向く。
「彼、紬君が神を殺すことに成功した。我々が何度戦い、何度傷つけても殺せなかった神を。これは大きな進歩だ。これまで神でしか殺せぬと考えてきた神を我々人間でも殺すことができることがわかったのだ。」
「意図したわけじゃないので次できるかはわかりませんが…。」
紬は少し下を見ながらそう呟く。
「一度できたのだ。ならばもう一度だってできるだろう。ここから我々人間の逆襲が始まるのだ。」
そこで、パンッと手を打ち、燐が笑顔で言う。
「さあ、今日は解散だ。皆、ゆっくり休め!」
燐がそう言うとロベルトは無言で、アリシアは会釈をしてその場を立ち去る。
ふたりともやはり沈んだ顔をしている。
そんなふたりを横目に見て、紬は俯きながら燐に声をかける。
「あ、あの…。たいちょ…」
「君のせいではない!」
その声を、燐は強い口調で止める。
「ユウイチのことは君だけのせいではない。飛び出した彼のせいでもあるし、ヴィシュヌを止めておけなかった私のせいでもえる。一概に誰のせいだなんて言えるはずがない。様々な要因が重なったんだ。」
燐は一歩二歩と紬に歩み寄り、彼の肩に手を置く。
「だから、あまり自分を責めるな…。」
優しい笑顔でそう言うと、真顔になって横を見る。
「なあ…紬君…。」
「なんですか…?」
燐の言葉にそう答えつつ、彼は薄々なんのことかは察していた。
「あれは、どういうことだ…?」
その視線の先には、割れた卵形のコンピュータと、その下でピョンピョンと跳ねるひとりの"白い"少女が。
「ふえぇっ!私って外から見るとこうだったんですね!!すごいすごい!!」
極東支部の機能のすべてを担うスーパーコンピュータ。
それの持つ人格フェリスティナ。
それがなぜか、女の子になっていた。
白く長い髪を揺らしながら振り返ると、紬を見つけてパッと笑顔になる。
「紬さん紬さん!すごいですねこれっ!」
タタタッと走ってきて紬の手を握り、ピョンピョンと跳び跳ねる。
「人間の目線!すごいですっ!」
「うっせえ!ちょっと黙れ!」
「ふぇぇ…。怒られました…。」
そんなふたりのやり取りを咳払いで止め、燐がフェリスティナに声をかける。
「お前は…。フェーなんだよな…?」
「ふぇっ!?このフェリスティナの顔を忘れるなんて!酷いですよ燐隊長さん!」
<)』にしてフェリスティナは答える。
「顔を見たのは初めてなんだがな…。」
だが、その表情の変化がどこかコンピュータの光の明滅と重なり、燐はふうと息を吐く。
「本当にフェーなんだな…。」
「どこで納得したのかよくわかりませんが、そーですよ!私がフェーですっ!って自分でフェーって言ってしまいましたっ!!」
ふえぇ…。といいながらワタワタとする彼女を見て、燐は再び質問をする。
「お前はいったい何者なんだ?」
「ふぇえ?えっと…。あの戦いのときに、ピンチの紬さんを見て、助けなきゃーって思ったら外に出てて…。」
フェリスティナがここまで語ったところで、燐はある解答を頭に浮かべる。
―ああ、これは本人がわかってないな…。
「正直よくわかんないですっ!」
そして、その解答は正解だったようだ。
燐は少しため息をつく。
だが、そのあとのフェリスティナの言葉は燐を驚愕させることとなる。
「でも、気づいたら紬さんのヴィトレイヤーになってました!」
「待て…。」
燐は頭を抱える。
「紬君のあのヴィトレイヤーはフェーなのか…?」
「はいっ、そうです!紬さん専用機ですよー?」
そう言いながら紬の腕に抱きつくフェリスティナに、燐は若干いらっとする。
「お前…。いつもの仕事は滞りないだろうな…。」
「ふふふ…。あんな仕事フェーにかかれば片手間ですよ、片手間!」
口許に手を当て、口をこんなふう→『ω』にしてぷぷぷと笑うフェリスティナに、燐は更にいらっとする。
何か言ってやろうかと口を開きかけたその時、
「フェー、いいかげん離れろ!」
ブンッと腕を振り、紬はフェリスティナを振りほどく。
「ふぇっ!?酷いです紬さんっ!」
そんなふたりの様子に、少しため息をつきながら燐は紬に話しかける。
「紬くんにはこれからフェーの面倒を見てもらう。どうやら君のヴィトレイヤーのようだしな…。」
「まじすか。」
紬は心底嫌そうな顔をする。
「ふふふー…。紬さんっ!これからはずっと一緒ですね!どこまでもついていきますよ!トイレまででも!」
「くるんじゃねえ!」
フェリスティナの発言にツッコミを入れる紬を見て、燐は少し安心したような表情を浮かべる。
―彼はもう大丈夫だ…。フェーのおかげだな…。
だが、そこで少し不思議そうな表情をする。
―だが、少し寂しいのはなぜだろうな…。
「紬君もしっかり休め。フェーはあまりうるさくするなよ!」
そんな思考を振り払い、燐は指令室の出口へ向けて歩き出した。
‐同日‐AGF極東支部第5階層‐理事室‐
「愛染・S・燐、入ります!」
「ああ、構わん。」
目の前の扉が開き、燐は中に入って敬礼をする。
「今回の戦闘もご苦労だった。」
「はいっ!それでは、概要を…。」
「いや、見ていたからわかっている。惜しい男を亡くしたな。」
その言葉にあまり悲しみや惜しさはこもっておらず、事務的なその様子に燐は拳を少し握る。
燐が話しているこの男は、AGF極東支部統括理事、名古源治だ。
AGFは、各支部に統括理事を据えており、彼らがその支部の方針を決めるのだ。
「ところで、あの神楽紬というのは何者だ?あれを再度調べたら未確認の適性が現れていた。」
「さあ…。私にもわかりかねます。」
それよりも、彼に適性が生まれていたという事実に、燐は驚愕する。
「まあいい。あの適性は…。まだ[g]が空いているからg適性とでもしておこうか…。」
「はあ…。」
「しかし、随分ときな臭くなってきた。先日北米支部と欧州支部にも神が襲来したようだからな…。」
「それは…。」
―世界が再び動くときが来るのかもしれんな…。
燐はなんとなくそう思った。
「とはいえそれは北米の『聖騎士』と欧州の『隠密姫』が退けたようだがな…。さあ、もう下がるがいい。私にはする仕事がある。」
「はっ!失礼します。」
再度敬礼をし、理事室を出る。
しばらく廊下を歩き、壁にもたれる。
「ふう…。」
―他の支部でも神の襲来か…
「世界は、どちらに転ぶのだろうな…。」
燐は天井を見上げながら呟いた。