第2話『地上へ』
‐同日‐AGF極東支部第5階層‐中央指令室‐
「咲! 状況どうだっ?」
指令室に飛び込んだ燐は、すぐさま咲に呼びかける。
「現在、ヒトの部隊は新城市上空を進行中です。」
「そうか。ならば岡崎市付近で迎え撃つ。フェー、陸偵隊1から11小隊をアンダーフォート境界付近に配備、彼らには地上からの狙撃を。空偵隊5から10小隊を我らの後方支援に。伝達頼む!」
「わかりました燐隊長さん!」
燐が素早く指示を送るのを、紬は後ろから見ていた。
そんな彼は、ふと気配を感じてバッと振り返る。
「また会ったね新人くんっ!!」
視界に入ったのは、自分に向けて飛び込んでくるレイ。
「うわあっ!?」
なすすべはなく飛び込んできたレイの勢いに負けて倒れる。
「いてて…。」
「あははっ! ごめんね? だいじょーぶ?」
「まあなんとか…。」
そんなレイを指示を中断した苦笑いの燐が注意する。
「おい、レイ…。戦闘前だ…。」
「えへへー、ごめんねー。」
レイは、一切反省のない声音で謝る
。
「まったく…。」
「燐隊長さん! カレン陸偵大尉と末黒野陸偵大佐が出撃の必要があるかっておっしゃっていますけどー?」
「最近出てばかりだったから休めと伝えてくれ!」
燐がそう言った時、指令室のドアが音を立てて開く。
「今回は我々が出よう。」
ドアから入ってくる男の姿を認め、燐は大きく頷く。
「揃ったようだな。」
その男は、2mほどはある高い身長にスキンヘッドという威圧感の塊のような姿をしていた。
「すまない、遅れた。」
「いや、問題ない。紬君、紹介しよう。彼は守護隊の斬り込み隊長、厳島・A・ロベルト大佐だ。」
そう紹介されたロベルトは、じっと見下ろすように紬を見る。
「お前が守護隊に入ったルーキーか。」
威圧するような視線に、紬は少したじろぐ。
「は、はいっ!神楽…紬です。」
「厳島・A・ロベルトだ。よろしく頼む。」
差出された手を恐る恐る握る紬を見て、燐は満足そうに頷く。
「うむ。では、今回の我々の動きについて話そう。今回は単純だ。私とロベルトがヒトの陣形を叩き潰す。レイは遠距離からの援護と紬君の護衛を頼む。」
「こいつも出すのか?」
ロベルトが横目で紬を見ながら、問いかける。
「ああ。少しでも早く我々の戦いというものを見せておきたくてな。」
「そうか…。隊長がそう言うなら。」
紬から目を離さずにロベルトが言う。
「邪魔するなよ。」
その目は値踏みするように紬を見ており、彼は少し怖気づく。
「気をつけます。」
紬が一言絞り出したのを見て燐は指示を再び始める。
「我々は展開する空偵隊の中央より出撃。あとは我らで敵陣を崩すぞ。」
「あのっ!」
紬がふと疑問を持って声を出す。
「どうした、紬君。」
「出撃ってどうするんですか? そんな装置は見当たりませんが…。」
「ああ、それはな。例のごとくこのヴィトレイヤーだよ。フェーが出撃地点を計算してくれていてな、ここの――」
燐が目の前で手を動かし、指し示す。
「出撃のボタンを押せばそこへ送り届けてくれる。」
「べ、便利なんですね…。」
「フェーに頼りっきりだがな…。」
チラッと目線を向けた先で、卵形のコンピュータが様々な色に光りつつ声を出している。
「空偵5から10小隊のみなさん! 準備が整いましたです! いってらっしゃい!!」
燐は、少し優しい顔をしてフェリスティナを見る。
「彼女なしでこの極東支部はあり得ない。本当に感謝しているよ。」
そんな燐の小さな呟きを聞き取ったフェリスティナが嬉しそうに瞬く。
「えへへへへへへ。燐隊長さんにほめられましたですー…。も、もっと!! もっとお願いします!!」
「まあ、普段の発言はアレだがな…。」
「ふえぇっ!? 誉められてたのにバカにされましたっ!?」
燐の言葉に、フェリスティナは混乱するように光る。
「フェー、ところで我々は出撃できるのか?」
「ふぇっ!? は、はいっ! いつでもどうぞです!」
「全く…。忘れるんじゃない…。」
「すいませぇん…。」
苦笑いしつつ、燐は3人の方を向く。
「さあ、行こうか。我らの戦場へ。」
レイとロベルトは頷き、各々の出撃ボタンに手をかける。
ふたりの姿が消えるのを見ていると、燐が声をかけてくる。
「臆するな。その先には我らがいた世界が、我らが取り戻すべき世界がある。」
「はいっ!」
燐の言葉に後押しされ、紬はボタンを押す。
目の前が白く輝き、彼は移動する。
敵の眼前、神の支配する地上へ。