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天罰戦線の殺神者  作者: 有栖
第六章『旧東京偵察戦』
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第18話「作戦立案」

2527年10月10日-AGF極東支部第4階層-中央指令室-


紬が第一階層に向かってから数日が経った。


「本当に最近何も起きませんね…。」


指令室で紬がモニターを見ながら呟く。

そこに映っているのは全く敵影を移していないレーダー画像。


「まーまー、何もないのはいいことですよ、紬さん!」


フェリスティナが後ろから紬の肩に手を置き、顔を覗き込んで笑顔を浮かべる。

「近いぞ!」と言いつつフェリスティナの顔をガシッと掴み、力いっぱい押し退ける。


「ふぇっ!ふぇっ!!止めてくださいよぉ紬さん!!」


手をじたばたさせながら抵抗する彼女を放置し、会話が続いて行く。


「最近オペレーターの仕事がなくてお茶汲みしかしてませんよ私……。はい、紬さん。」

「ありがとうございます、咲さん。」


少し困った顔をしつつ咲が持ってきたお茶を受け取り、紬は少しそれをすすり、秋の空気とよく合う暖かいお茶にほっと息を吐く。


「みんな~っ!覇気がないよ~?ここは私の歌で、元気を――」

「間に合ってます!」


アレスとの戦い以来極東に止まっているリリのありがた迷惑な申し出に、咲がすぐさま断りをいれる。

彼女に歌われたら指令室が機能しなくなりかねない。



指令室では、どこかデジャヴのような会話が繰り広げられていた。


「リリの言っていることに一理あるな。」


指令室の中央にある椅子に座り、目を瞑って何か考え事をしていたような燐がそう呟く。

指令室の人々の目が、自然と言葉を発した燐に向かう。


「緊張感を保つために少しいつもと違う訓練をしよう。そうだな…。紬くん、付き合ってくれ。」


その言葉に頷いた紬は、燐と共に南訓練場へと向かった。



-同日-AGF極東支部第4階層-南訓練場-


北訓練場は、都市を模して作られており、背の高いビルが大量に並んでいる。

そのため、見える範囲は狭く、レーダーを正しく見て敵の位置を捉える訓練などに用いられる。


「都市遭遇戦訓練か…。」


紬は、ビルの影に身を隠して説明された訓練の内容を反芻する。

今回の訓練の条件は、なんらかのトラブルでレーダーが使えなくなった場合を想定し、レーダーの使用ができないというものである。その条件下で都市におけるレーダーなしの索敵、および遭遇戦のシミュレーションを行うのだ。


「フェー、敵の数とかもわからないのか?」

「わかりません!」

「そうか…。敵が何人いるかとかはわからないから、目立つのはだめだな…。」


そう、紬の相手は燐だけではなく、ヒトを模したダミーもいると告げられていた。

そのような状況でビルより高く飛んで索敵などはもってのほかである。

多対一である現状、身を隠して索敵しつつ機を伺って奇襲をしつつ燐を探すのが得策であると紬は判断したのだ。


「隊長に一発当てれば勝ちだから、まずは隊長の位置を割り当てよう。」


スラスターを起動せずに地上の影に隠れつつ、上の様子を伺いながら隠れ場所を変える。


数回位置を変えたところで、番人型キーパータイプのダミーを発見した。


「ここから敵が増えてきそうだ…。」


そう呟き、息を潜めつつ攻撃するべきかを考える。


―ただ攻撃するだけだと位置がばれる。ここは六番ゼクスの砲台で離れたところから撃ち抜こう。


そう決め、静かに六番を顕現させ、地面を這わせるように自分と反対側へと向かわせる。


「フェー、六番を適当に操って敵を撹乱してくれ。ダミーは倒していい。」

「了解、ですっ!」



その指示で、砲台への命令系統が紬からフェリズティナに移り、砲台達はすぐさまダミーを捕捉して砲撃を開始する。

その攻撃を受けてダミーが破裂すると、すぐにスラスターによる移動音が響き始める。


―反応ありか…。


敵が集結してくることを予想し、紬は急いでそのエリアを離脱する。


―けど、隊長がこの誘いに乗ってくるとは思えない…。


敵襲にざわつくダミーを横目に、紬はゆっくりと奥へ奥へと突き進むのであった。




「動いたな」


燐は、遠くから響いた爆音に顔をあげる。

彼女がいるのは町の中央に位置している高層ビルの屋上である。


「彼もまっすぐ突っ込んで来るわけではなかろう。あの砲火は攪乱と考えるのが妥当だろうな。」


紬が敵を警戒し、上へ飛べないことを見越してのこの陣取りである。

燐の位置からはヒトの動きと戦闘の流れがよく見える。


「砲撃の動きがランダムだな。やはり攪乱か。あのように動くということは都市の端へヒトを誘導しているのか…。」


燐はゆっくりと剣を顕現させ、正面を見据える。


「だとしたら、彼の狙いは間違えなく……」


ダンッと思いきり踏み込み、体を反転させて剣を振り抜く。


「――ここだっ!!」


剣とビームが交錯し、軌道の変わったビームがビルの屋上を貫く。


「ふっ…。まだまだだな紬くん。作戦が安直だぞ。」

「でも、見つけられたのでまだ失敗とは言えません。」

「ほう、正面から私に一撃当てれるとでも?」

「やってみなきゃ……」


紬は手に持ったビームライフルを剣に切り替え、スラスターの出力を全開にする。


「――わかりませんよっ!!」


三千世界が唸り、燐に肉薄する。

剣と剣がぶつかり合い、その激突の余波が屋上に亀裂を入れる。


「隊長、剣は1本でいいんですか?」

「抜かせてみろっ!」


軽く交わしたその言葉に触発されるように二人の打ち合いが激しくなる。

燐の凄まじい攻めを受け流して捌きつつ、小さな隙をついて紬も攻勢に出る。その均衡がしばらく続いたところで、紬は脳内でフェリスティナに合図を送る。


―さっき言った通りだ。行くぞ、フェー!

―ガッテンです!!


燐の突きを受け流し、体が半身となったところで紬は自分の剣を放す。

燐が怪訝な顔をする。しかし、紬の瞳から闘志は消えていない。

スラスターを吹かして体を燐に正対させ、手元に銃を出して燐に向けて放つ。

少し目を見開き、一気に後退した燐は少し笑みを浮かべながら左右に体を振って放たれた弾を全て避けきる。


「いい動きではあるがまだまだ甘いな!」


紬が次々と打ち込んでくる弾丸を完璧に見切って避ける燐。

繰り返される回避行動の中で、彼女は紬との距離を徐々に詰めてゆく。


「そんな悠長にしていてもいいのか??」

「くっ……。」


燐の言葉に紬は歯噛みするが、まるで何かを待っているかのような雰囲気だ。

ふたりの間が7mほどになった瞬間、燐は剣を刺突の姿勢に構えて反動をつけて一気に距離を詰めようとする。


「っ!?」


その瞬間に息を呑んだのは燐だった。

紬に向かって進むように吹かしていたスラスターを止め、その体を反転させて紬とは逆方向に剣を振り抜く。

その剣は、雷の弾丸を間一髪で切り裂いた。

燐の視界に現れていたのは、紬が最初に顕現させていた砲台だった。

先ほど攪乱に使ったものを戻し、フェリスティナが背後から燐に向けて放ったのだ。


今、燐を狙っている銃口は3つ。

それを見た燐は笑顔を浮かべて動かしていなかった右手を横に出し、その手に二本目の剣を顕現させる。


「なかなかやるようになったな紬君。私に二本目を抜かせるとは……。」


彼女の目は爛々と輝き、自分を狙う物を見回す。


「来い、紬君。君の実力を認めて全力で相手をしよう。」


―フェー、ここからだぞ。

―はいです!!


二本目の剣を抜いたと同時に膨れ上がる燐の闘志に、紬とフェリスティナも合図をして立ち向かう。


三つの銃口から放たれる雷の弾丸を、二つの流線が切り裂いてゆく。

裂けた銃弾は爆散して花開き、光を散らしている。

螺旋を描きながら進む燐の機影の回りに咲く光の玉。

それはさも舞踏でもしているかのような幻想的な光景であった。


いつまでも続くかのようであったが、燐の動きは紬とフェリスティナを完全に圧倒し、燐の剣が砲台を切り裂いた。


「これで終わりだ。」


爆発したような勢いで燐が紬に肉薄し、彼に向けて二本の剣を振り上げる。

紬は歯を食いしばって剣を出し、振り下ろされるであろう物を受け止めようと頭上に構える。


激突した剣は火花を上げ、勢いを殺しきれなかった紬がバランスを崩す。

そこに燐が思い切り足を振り下ろし、踏みつけるようにされた紬は地面に向けて吹き飛ばされる。

体勢を立て直そうとスラスターを用いるが、追い打ちのように燐の膝が紬の胸部に突き刺さる。

機体すべての勢いを乗せたその一撃は、紬に抵抗する暇を与えずに彼を地面に打ち据えた。


「うああっ!!」


地面に亀裂が走るような衝撃が彼を襲い、目の前がチカチカと輝く。

そんな彼の首を挟み込むように二振りの剣が地面に突き刺さった。


「チェックメイトだ、紬君。」


低く言い放たれたその言葉に、紬は大きく息を吐いて悔しさを含んだ笑みを浮かべる。


「参りました。」


紬のその言葉を聞き、燐は剣を消して紬に手を差しだす。

その手を掴んで起こされると、紬はすぐに三千世界を解除する。

それと同時に紬の背中からフェリスティナが飛び出してきた。


「お疲れさまでした紬さん!」


フェリスティナが笑顔で紬に背中から抱き付く。


「離れろ!」


ぺしっと首元の手を叩き、紬はフェリスティナを引きはがす。

フェリスティナはしぶしぶといった様子で紬から離れ、彼の傍にぺたんと座り込んだ。


「君たちはいつでもそうだな。」


戦闘が終わった途端に繰り広げられた夫婦漫才のようなものに、燐は苦笑いする。


「と、まあそれはさておきだ。紬君、君もずいぶんと強くなったな。」

「本当ですか?」

「ああ。君の三千世界は、さまざまな状況への対応が可能なオールラウンド型だ。その立ち回りの基本はきちんと押さえることができている。だが――」


少し言葉を濁した燐の目に、少し悲しみの色が浮かぶ。


「ユウイチが、健在だったらな……。同じタイプとして紬君にさらに深い技術を教えられただろうに……。」


その言葉に、彼の脳裏にユウイチの最期の光景がよぎる。

自分をかばうために突き飛ばし、光に呑まれたユウイチ。

不甲斐なさが溢れてきて紬は視線を下げた。

そんな彼の肩に、フェリスティナが心配そうに手を置く。


「すまない、湿っぽくするつもりではなかったんだ。君を責めているわけでもない。と、言っても君は気にしているだろうがね。ゆっくりと消化して糧にしてくれればいい。彼もきっとそれを望んでいるだろう。」


そう言われて、彼はあの戦闘の後に農場でロベルトとして会話を思い出した。


―あの時誓ったはずだ。ユウイチさんに報いるために彼よりも強くなると…。


紬の心に、あの時と同じ熱い気持ちが再び芽生える。

下がっていた視線を上げ、燐の方を見据える。


「すいませんでした、隊長。もう大丈夫です。」


その紬の様子を見て、燐は強く頷いた。


「うむ。その調子だ。そんな君に遂行してほしい任務がある。」


まっすぐな重い口調で放たれた言葉に、紬はその表情を硬くする。


「任務…ですか?」


「ああ。これは、我々AGFとしては初の試みだ。」


口に出すのも重いように一瞬言いよどみ、覚悟を決めたようにその作戦名を口にした。


「旧東京偵察戦だ。」


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